マンションのさらなる進化はスマートキッチンから!?どう便利になるか?を予想してみた

レシピと食材購入のECショッピングが提供されているアプリ「Mucho」(2018年FOOD Q「食×テクノロジー」会場にて)

前回の記事では、「スマートキッチン・サミット・ジャパン 2018 (以下、SKSJ 2018)」に登場したプロダクツやサービスをご紹介しました。
今回は、スマートキッチンがどんな市場を切り拓くのか?これからのマンションライフをどう変えていくのか?について、株式会社シグマクシスの田中宏隆さんにお話を伺いながら、マンション・ラボ独自でマンションでの活用方法も妄想してみました。

スマートキッチンは、家と外をつなぐタッチポイント

スマートキッチンがタッチポイントになって、食&料理の多様なテーマにつなげてくれる!(スライド:株式会社シグマクシス提供)

これまでの家電は、進化したといっても電子レンジやガスコンロが温度や火を管理して音声でアラートを出すレベルのものでした。しかし前回「SKSJ 2018」に参加した各社のスマートキッチンへの取り組みを拝見して感じたのは、クッキングツールはもはや時短や便利さだけを追求するのではなく、アプリを通して外部のコミュニティにも「つながる」ことの面白さでした。これはまさにIoTの真髄だと思いますが、つながることで、これから何が起こるのでしょうか?

—スマートキッチンによって、家庭のキッチンが外部とつながることは、どのような変化をもたらしてくれるのでしょう?

田中さん
毎日使うキッチンという場所が、これまでの枠組を超えて、家の外にもつながることで、さまざまな可能性を得たと考えています。家の中に閉じていた出来事が、データとなってネットを介して各産業とつなげれば、新しい製品やサービスの開発だけでなく孤食やフードロスといった社会課題の解決にさえつながります。キッチンは、こうした幅広いテーマを包含した扉になるのです。スマートキッチンによって、生活者起点のサービスが生み出されつつあると言えるでしょう。

キッチンとつながることで得られる情報も無限大

Hestan Cueの自動調理フライパンで極上の火加減でステーキを焼く!(2018年FOOD Q「食×テクノロジー」会場にて)

Hestan Cueのフライパンスマートスケール「Perfect Drink」は、まさに料理体験を楽しく「見える化」してくれたユニークなプロダクツでしたが、これらがつながっていることでどのような情報が得られますか?

田中さん
スマートスケール「Perfect Drink」で取得したデータは、企業が個人宅のカクテル消費動向を分析するのに活用できます。ホリデーシーズンにはカクテル消費がどの地域で増えるのかなど、マーケティングデータとしてはもちろんの活用や、「このカクテルが好みなら、こんなカクテルもおすすめ」といったように、顧客ニーズを超える提案も可能です。
ChefStepsの真空調理器「Joule」は、レシピの利用履歴から消費者の調理実績データを蓄積・分析して、どんなレシピが選ばれて家庭で調理されているのか、週のうち平日か週末のいつ調理されることが多いのかという、きめ細かな情報が得られます。これらが、流通事業と結びつけば、事業者にとっても最適なマッチングが可能となり、さらに新しいサービスを提供できるでしょう。

マンション・ラボの妄想マンション×スマートキッチン

つながるキッチンがマンションコミュニティにもつながる!

各住戸のスマートキッチンが、たとえば住民だけが閲覧できるマンションコミュニティサイトにもつながったらどうでしょう? うちのマンションの人気レシピや中高生向けお弁当レシピなどを共有することで、マンションのコミュニティ力が増していきそうな気がします。義務ではなくて楽しいことでつながる、しかも食×料理という、誰もが参加しやすいテーマだと、親しみが増しそうです。

レシピアプリがスマート家電とつながって料理をナビゲート

「食のOS(オペレーティンスシステム)」を目指すInnitアプリ。単なるレシピ提供だけでなく、さまざまなキッチン家電を共通のソフトでネットワーク化し、キッチンに関連するすべての行動に寄り添うサービスを提供する、まさに料理のナビゲータ的存在。

田中さん
「食のOS」や「あなたの料理GPS」と自称しているレシピアプリInnitは、食材とキッチン家電のハブとなって、新しい調理環境を提供しようとしています。特定食材のアレルギーや菜食かどうかなどの食の嗜好をあらかじめ登録しておき、その人に合わせた食事のプランを提案するだけでなく、レシピに沿ってスマート機能を備えたオーブンを予熱するなどして家電をコントロールしてくれる、まさに調理のナビゲーター的アプリです。

Innit ※外部サイト

—アプリでキッチン家電をコントロールできるようになるのであれば、たとえば冷蔵庫の中身まで管理してくれるようなアイデアはないでしょうか? 食材ってうっかり忘れて消費期限が過ぎたりしがちですが、早く食べないといけないとか、冷蔵庫の残り物を使ってこんな料理がいいと提案してくれるとありがたいんですが…。

田中さん
冷蔵庫の消費期限内に食材を使い切れば、家庭のフードロスの削減にもつながりますね。スマート冷蔵庫は、各社から発表されていて、サムスンのFamily HubやLiebherr(リープヘル)の冷蔵庫は、庫内のビルトインカメラが内部を撮影してスマートフォンに食材の在庫を確認することができます。

Samsung Family Hub ※外部サイト
Liebherr(リープヘル) ※外部サイト

マンション・ラボの妄想マンション×スマートキッチン

冷蔵庫が専用スーパーに!防災備蓄も自動化

アプリで料理まわりのことがすべてつながり、キッチン家電を操作できればいろいろ活用できそうです。たとえば近所のスーパーとも連携して、お買い得情報の提供、不足している食材の提案、さらにはもうスマート冷蔵庫やアプリから注文して配達までが自動化してくれれば、スマート冷蔵庫がまるで自分だけの専用スーパーみたいな存在になるのでは?
また、冷蔵庫やパントリーの備蓄も管理して、防災のための流通備蓄にも役立てたいですね。4人家族で1週間必要な水の量を算出して、常に備蓄して不足したら追加注文してくれるとか、防災備蓄も自動化するといいなあ。

料理道具が人類の食文化を変えたように、テクノロジーが食の歴史を変える!?

—IoTやAIを活用したスマートホームが日本でも話題となっていますが、今後のスマートキッチンの可能性はどのような点でしょう?

田中さん
スマートホームの開発と普及に、日本企業は大きく出遅れてきました。その理由の一つに、スマートホームに関わる業界が縦割りで開発と普及に尽力してきたことが挙げられます。長年にわたり技術開発を続けてきた家電メーカー、日本ならではの暮らし方に設計された住宅や住設、そこに横たわる水道・ガス・電気などのインフラや、優れたバリューチェーンがつながれば、日本のキッチンは一気に変わっていくと思います。

—スマートキッチンで、料理をするスキルが退化していくのではないかと懸念する人も出てくるかもしれませんね。

田中さん
スマートキッチンは、人の手から料理を取り上げるものではありません。逆に、料理の楽しさを拡張する存在です。SKSJの会場で体験いただくとお分かりになると思いますが、世の中では誰もが手軽に使え、美味しくて楽しいツールやサービスが次々に生み出されています。食&料理×テクノロジー/サイエンスは、人々の暮らしをより豊かにする可能性にあふれています。
料理は、芸術、学問と同じように、料理や道具の発達とともに人類の文化を変えてきました。食の歴史を振り返ってみても、スマートキッチンのような革命的なツールはいつの時代にも登場してきました。『キッチンの歴史』という本を読むと、食文化の発達に料理道具がどんな影響を及ぼしてきたのかについてよく理解できますよ。

田中さんのオススメ本

ビー・ウィルソン著
『キッチンの歴史: 料理道具が変えた人類の食文化』(河出書房新社) ※外部サイト

食の歴史は、テクノロジーの歴史でもあった。調理に火を使い始めた人類は、鍋釜、ナイフ、電子レンジ、冷蔵庫といったツールを手にして、さまざまな食文化をつくってきた。新しいテクノロジーは、食材の調理方法、味覚、思考、食文化をどのように変化させてきたのかを読み解いた良書。AIやIoTがどのように私達のキッチンやマンションライフを変えていくのか? 過去の道具革命を振り返って学ぶことが多そうです。

未病と健康、フードロス、食から社会問題解決へ

「FREESTYLEリブレ」というグルコース値測定デバイスを腕に装着した田中さん。手にしているリーダーで、センサーをスキャンすると1秒でグルコース値を測定できます。(2018年FOOD Q「食×テクノロジー」会場にて)

—スマートキッチンは、生活習慣病の予防や健康管理にも活用できそうですね。

田中さん
昨年のイベントでも紹介したのですが、以前、グルコース値測定デバイスの「FREESTYLEリブレ」を数週間装着してみたことがあります。食事をする前後、運動した後に計測してみると、近似値ではありますが、自分の血糖値の上下が数字で見えてきます。いわゆる食後スパイクと言われる食事後の血糖値の急激な上昇がはっきりと分かり驚きました。数値の動きのパターンのようなものも見えてきて、食事や運動に対する意識が大きく変わり、体重も減りましたよ。注意深く数値の変化を見ていると「もしかしてあれを食べたからこんなに上がったのかな」「あれ、この食材だとあまり上がらなかったな」というように、自分の中で振返ることができます。ただ今のところ数値の上下は追えますが、何をどれくらい食べると値がどうなるのかなど、それぞれの数値が自分にとってどんな意味合いがあるのかはまだ分かりません。これが分かってくると、具体的な解決策に繋げられると思います。

自分の身体の詳細データを手軽に測定できるようになってきたのは、とても大きな変化点です。自分を知ることで、何を食べるかの意志決定が変わってきます。さらには、こうしたデバイスに、レシピアプリサービスと連携したヘルシーメニューの提供などのサービスを繋げると、ますますインパクトが大きく、未病にもなりますね。

Abbott ※外部サイト

—最後に、スマートキッチンや現在の食&料理のデジタルムーブメントを、マンションに活用するとしたらどういうアイデアが他に考えられるでしょうか?

田中さん
海外からの旅行者が日本の家庭で料理を学び食べることができるairKitchen(外部リンク)や、レストランで余ってしまった食材や料理を、個人が安価で買い取りレスキューするTABETE(外部リンク)など、さまざまなマッチングサービスが増えています。
マンションの共用部分やワンフロアすべてをシェアキッチン&ダイニングにして、これらマッチングサービスと連携して、新しい食のコミュニティづくりに活かすのも一案ではないでしょうか? シェアキッチンとして、住民がシェフとなって一日レストランを開くというアイデアもあります。
以前FEASTLY(外部リンク)というシェアダイニングサービスを利用したことがあります。ランチ専門のレストランの夜の空き時間を借り切って10数名のテーブルを用意し、お店とは異なる独立しているシェフが厨房で料理を提供し、初めて会った者同士でテーブルを囲んで食事をするというサービスでした。提供されるメニューにはテーマがあり、”フードロスをなくそう“とか”日本食を学ぼう”等いろいろあります。こうした共通テーマを持つことで、参加者は知らない人同士であってもネットワーキングと美味しい料理を楽しめますし、シェフは自分の空き時間を使って料理を提供し、お金を得るという働き方ができる。お店を持たないシェフも増えてくるかもしれませんね。

—それはユニークですね。管理規約などの問題は一旦さておき、マンションにもシェアダイニングの場があって、そこで好きな料理をすることでお金を得られたら職住近接環境としてもいいですね。子育て中のママさんとか、お料理教室を開催するとかも考えられますね。自慢のシェアダイニングがあることが、マンションの資産価値にもなればさらによさそうです。

田中さん
食&料理は、全世界・全人類に欠かせない、誰にとっても自分事であるからこそ、さまざまなアイデアや発想が集まるテーマです。そこにテクノロジーとサイエンスが加われば、さらに可能性と環境を変える原動力になっていくのだと思います。

—本当にそうですね。本日はどうもありがとうございました。

田中さんは、まさにスマートキッチンのエバンジェリストでした! 
次々と紹介してくださる情報が興味深く、すべて紹介できなかったのが残念なほどです。
スマートキッチンが、これからのマンションの可能性や環境を、枠にとらわれずいい意味で拡張してくれるのではないか、そんな気がした取材でした。

スマートキッチン・サミット・ジャパン2018

2018年8月8日〜9日にかけて、東京ミッドタウン日比谷 BASE Qにて開催された、食と料理の未来を考えるイベント。世界最先端のテクノロジーとトレンドが結集して熱いセッションが繰り広げられた。

スマートキッチン・サミット・ジャパン 2018公式サイト ※外部サイト
Facebook Smart Kitchen Summit Japan ※外部サイト

ディレクター田中宏隆さん

大手国内メーカー、外資コンサルティングファームを経て、2017年よりシグマクシスに参画。ハイテク・製造・通信、成長戦略、新規事業開発、M&A実行・交渉等、多領域におけるコンサルティング実績を持ち、ここ数年は、テクノロジーとともに進化する生活・ビジネスに着目。食・料理との領域で日本が進むべき道を明らかにし、新たな産業への進化を生み出すことを目指し、その活動の一つとして「Smart Kitchen Summit Japan」を主催する。

※記載されている会社名・商品名およびサービス名は、各社の商標または登録商標です。

2019/03/25