ペットの地震ストレス対策vol.5 災害時のために「教えたいこと」

震災から2ヶ月以上が経過した先日、宮城県を訪れ、被災したペットたちを数多く保護する「宮城県動物愛護センター」と「仙台市動物管理センター」の2ヶ所を取材してきました。長時間にわたってお話を伺った中で印象に残ったのは「ペットを守ってあげられるのは、飼い主しかいない」ということ、そしてシンプルで当たり前だけれど、それは非常時には実現するのがとても難しいという事実でした。

そのために必要なのは、平常時から「どうすればよいか」を常に考えて、準備しておくことです。そこで今回も、犬の専門家に伺った「震災後に関わるペットとのこと」をお伝えします。お話いただいたのは、ドッグライフカウンセラーで社会動物環境整備協会認定講師、SESドッグインストラクターの谷川のぞみさんです。

今回お話を伺った方

谷川のぞみさん谷川のぞみ(Nozomi Tanikawa)さん

ドッグライフカウンセラー、社会動物環境整備協会認定講師、SESドッグインストラクター、ドッグマッサージセラピスト、動物取扱責任者。長年犬と共に暮らし、現在は3頭の愛犬と生活。自らの経験と豊富な知識を生かし、飼い主さんと愛犬の幸せな生活を目指して活動中。

谷川さんが所属するSES(NPO法人 社会動物環境整備協会)では、今回の震災で被災したペットたちの救援活動を行っています。詳しくはこのページ後半でご紹介します

ペットに普段から教えておいたほうが良いことはありますか?

――今回の東日本大震災に限らず、阪神淡路でも新潟中越でも、避難所にペット同伴で入った方々と、動物が苦手、アレルギーがある、あるいは動物と暮らすことに慣れていない方々との間で、大変残念ながら「吠える、臭い、トイレ」といった問題に関して揉め事が起こることがあるようです。

有識者や愛犬家・愛猫家の間では「ペット同伴で入居できる仮設住宅を」という声も、ネットを中心にして沸き起こっていますが、犬の飼育率は日本の全世帯中の約3割であること、そして、そもそも仮設住宅の絶対数が足りないという現状を考えると、残念ながら実現へのハードルは高そうです。

万が一、避難所に入る場合はもちろんですが、避難所に入らなくても、マンション内で過ごす際には、いつも以上にペットを飼っていない方との共同生活に気を配る必要があります。まず、ペットに教えておいたほうが良いことはありますか?

谷川「まずは“人を好きにしておくこと”でしょうか。小さい頃からの社会化が大切ですが、大きくなってからでも人が好きになるよう、教えることはできます。

優しく育てれば、優しいコが育ちます。これは人間も同じ。『こうならないように』『こんなことはしないように』と育てるのではなくて、『こうなって欲しい』『こういう時はこうして欲しい』と教えることで、必ずそのように育つのです。

次におしっこシート(トイレシーツ)で排泄ができるようにしておくことです。シートでさせて、できたら褒めることで、次第に、褒められて嬉しいことをするようになります。これも、成犬でも教えることができます」

ダックスフンド

――おしっこシートでの排泄は、特に中~大型犬の場合は、年老いて散歩ができなくなった時に「トイレのために抱いて外へ連れ出すことが体重的に難しく、かといってシートでは排泄しないのでとても困った」という声もよく聞きますので、そのためにも教えておくと良いかもしれませんね。

谷川「次は、前回もお話しましたが、クレートを好きになっておくことです。クレートを好きになってもらうためには、クレートでの楽しい経験を積みあげることが一番です。簡単なのは、ご飯をいつもクレートで食べさせることや、大好きな玩具を入れてあげる、またクレートに入ったらたくさん遊んであげる……などで、方法はいろいろあります。練習を始めて間もない頃には、ワンちゃんが嫌だと思うような長い時間、扉を閉めて閉じ込めないよう、注意してください。

また、飼い主さんが『狭いところで可哀想に』などと思わないこと。我慢をさせたいような時には使わないこと。決して罰として『そこに入ってなさい』などと使わないようにすることも覚えておくと良いでしょう」

――次に、吠えることについてはいかがですか?

抱っこされるチワワ谷川「“吠える=人に迷惑をかけるという意味では最も悪いこと”と考えられがちですが、実は、吠えるというのは、犬が何かを教えようとしている、あるいは怖くて吠えずにいられないという状況だったりすることがほとんどです。我が家のミニチュア・ピンシャーもそうですね。

日頃、吠えたことに対して、きちんと向き合い、なぜ吠えるのかを考え、しっかりと応えてあげていれば、いつまでも激しく吠え続けるということは、あまりありません。

災害時など、本当に怖い思いを犬がしたような時には、人間の子ども同様、夜泣きをしたり、鳴いていることでますますパニックになってしまうこともあるかと思います。ですので、まずは飼い主の側にいれば大丈夫だと犬に思ってもらえるような関係になっておくことが一番だと思います」

――なるほど、ペットにとって飼い主の側が安心できる場所であるように、普段からきちんとした関係を構築しておくことが必須なのですね。最後に、食べ物について教えてください。

谷川「もしも避難所に入った場合、自分たちとほかのご家族との間に仕切りもなく、誰かが常に物を食べているような状況もありえます。そこで、普段から人が食べている物を欲しがらないように教えておくことが大切です。これについては、人が食べている時に食卓から食べ物をあげないようにさえしておけば、床に食べ物が置いてあっても、食べたいと思わないように育つのです。盗み食いをして叱られるような経験もないままに暮らせますし、余計な物を食べないので、体調管理にも役立ちますよ」

――よくわかりました。ペットとの関係をきちんと見つめなおして、このような大規模災害時でも、我が身と、家族と、そしてペットを守れるよう、普段から心がけていきたいと思います。

東日本大震災で被災したペットたちのために行っている様々な救援活動について

――ところで、谷川さんが所属されているSESでは、東日本大震災で被災したペットたちのために様々な活動をされているそうですね。

谷川「SESと関連団体であるNPO法人 ワンワンパーティクラブで、以下のような救援活動を行っています。


<NPO法人 ワンワンパーティクラブによる 被災ペット救援活動内容>

犬1 愛犬の一時預かりサービス(無料)

愛犬を連れて避難された方のために、1日でも早く復興活動をしていただくために、全国の愛犬家の家庭にて、一時的に数ヶ月間、大切に愛犬をお預かりしています。これにより、家の片付けや部屋探し、仕事探しの際に安心して遠くまで出かけていただけるかと思います。

預かるワンちゃんの大きさに制限はありません。ご連絡いただければ避難所までお迎えに伺っています。

2 愛犬のみの搬送サービス(無料)

避難先が決まっている方で、公共交通機関に乗れないため移動手段がない方のために、愛犬の搬送を無料で行います。搬送は愛犬のみで、飼い主さんとは別行動になりますのでご了承ください。


<SES(NPO法人 社会動物環境整備協会)による 被災ペット救援活動内容>

犬抱く1 被災犬一時預かりボランティアのサポート(無料)

被災犬を一時的に預かり受けた方に対し、預かった犬に関する相談(しつけ、食事、一時預かりの方法等)をお受けしています。相談内容によっては、実際にお宅までお伺いする場合もあります。

2 被災保護犬引取り者へのサポート(無料)

震災により帰る場所のないワンちゃんを保護して育てている方に対し、ワンちゃんに関するご相談を電話等でお受けします。

3 震災の後遺症があるワンちゃんのサポート(無料)

震災による後遺症でいつもと様子が違うなど、震災を体験したワンちゃんに関する相談や訪問サポートを行っています。


また、『Shippo Net』という活動も行っています。これは、各自治体やボランティア団体が里親に保護犬などを譲渡した際、『Shippo Net』で登録していただき、講習会を受けていただくと、その新たな里親のところへ訪問し、状況調査を行いながら、里親になった方が困っていること、悩んでいることなどを伺い、飼育のサポートをしていく活動です。

今回の震災の被災犬の中には、預かりではなく『Shippo Net』で新しい飼い主さんを見つけて、愛犬として迎えてもらえたワンちゃんたちもいます。そのコたちにも、『Shippo Net』と同様のサポートをしています。

※クレート(crate)とは英語で「わく箱、木わく、密封した梱(こん)包用の箱」という意味。ペットに関して「クレート」と言う時には、広く「犬や猫を持ち運ぶ入れ物のこと」をさします。キャリーバッグを含むこともあります

2011/05/23

プロフィール

於保 実佐子

編集者・ライター。長年、雑誌、PR誌、広告の仕事に従事し、3年前からペット関連の雑誌の編集に携わる。現在は、「人とペットが終生、より安心して快適に過ごすために必要な情報」を発信するための季刊誌『Cuore(クォーレ)』の編集長、そしてウェブサイト『forPets』ディレクターを兼務。