目に見えない敵にマンションはどう立ち向かったか?4マンションの新型コロナウイルス対策


2019年に中国・武漢市付近で初めて確認された新型コロナウイルスは、その後COVID-19と呼ばれる感染症を引き起こし、世界的なパンデミックへと発展しました。住民同士の交流や往来が多いマンションで感染力が非常に強いウイルスに対抗するには、自治会、管理組合などの組織が迅速に対策を協議し、履行することが求められます。今回は4つのマンションにリモートで緊急取材。初動から緊急事態発出後の施策、さらには解除後を見据えた方針を共有してもらいました。

素早い住民への告知で不安を解消〜ブラウシアの場合

千葉県千葉市に建つ総戸数438戸の『ブラウシア』は、これまで管理組合が主体となって、住民主導によるマンション運営を推進してきました。今回の新型コロナウイルスの対策においても、管理組合が管理会社と連携を図りながら粛々と進められたといいます。まずは副理事長の新納剛さんに、時系列で振り返ってもらいました。

ブラウシアの新納剛副理事長

「共用施設利用の自粛を呼びかけるチラシを全戸配布したのが3月30日。その後、緊急事態宣言が発出されたことを受け、管理組合理事会は4月11日に「共用施設とロビー内サロンの利用停止」を決め、『三密を招く行動』『不要不急の外出』『イベント開催』の自粛を呼びかけるチラシの全戸配布により、素早い住民への周知を徹底しました」。

住民に全戸配布したチラシ。段階を追うごとに緊迫の度合いが増していきました。

普段は新聞や雑誌が置かれる憩いのスペース「ブラウシアサロン」も立ち入り禁止としました。

チラシはロビーにも掲示し、全員が見られるような工夫を施しました。

以上のような感染防止対策に加えて、一箇所に集合することができない状況下での理事会運営においても対策を講じたと新納さんはいいます。

「月1回の理事会は、通常理事役員(監事含む)が20名、理事OBであるオブザーバーや管理会社レーベンコミュニティのスタッフも含めると30名以上集まるところ、成立要件である『10名以上(過半数)の理事』の参加を確保したうえで、リモート会議の体制も整えました。5月の理事会は集会室に集まった理事6名とリモート参加の理事12名により、滞りなく決議まで行うことができました」。

「難しい判断を迫られたのは、万が一感染者が出た場合の対処」と話してくれたのは、防災委員長の加藤勲さんです。

「感染者の情報は管理組合として把握し、対処したいものですが、プライバシーの問題もあり、絶対に拡散させない注意が不可欠。私たちは感染者が出た場合の連絡窓口を管理会社に集約し、感染発生の事実は住民へ告知するものの、感染者の個人情報は厳秘する旨の文章を用意しました」。

住民に感染者が出た場合に備えて用意したチラシ。冷静な対応を呼びかける内容にしました。

管理会社がセンシティブな感染者情報の窓口となる点について、長年管理組合の運営に携わる理事会オブザーバー高田豪さんは「こういう時にこそ、管理組合と管理会社との信頼関係が問われる」と話します。

「非常時では管理会社も普段とは違った動き方を迫られるでしょうから、管理組合側の姿勢で管理会社側の対応が変わることも考えられます。管理会社とは普段から密に連絡を取り合い、揺るぎない関係づくりをしておくことが大切だと実感しています」と、今回のコロナ禍で得た教訓を語ってくれました。

迅速な意思決定と、わかりやすい周知を徹底〜パークシティ溝の口の場合

神奈川県川崎市、東急田園都市線「溝の口」駅、JR南武線「武蔵溝ノ口」駅からほど近い1,103戸の大規模マンション『パークシティ溝の口』。マンション単独で組織する自治会と管理組合による「共同防災管理協議会」が、おもに新型コロナウイルスの対策に当たりました。

住民が密になりそうな場所には、注意喚起を呼びかける掲示を設置。

統括防火管理者でマンション管理士の資格を持つ桜井良雄さんは「私たちのマンションは高齢者率が比較的高いこともあり、正しい情報を早く、正確に、わかりやすく発信することを重視しました。4月21日に、感染者の報告窓口を『管理防災センター(管理会社が運営)』にする旨の文章を全戸配布。それ以降は感染予防対策、公的機関の相談窓口、感染者の行動指針、マンション周辺のテイクアウト・デリバリー対応店など様々な情報をまとめたリーフレットや、給付金詐欺の注意喚起をする印刷物などを配布しました」。

様々な情報を記載したチラシを住民へ配布。不安感を和らげる対策を施しました。

このような住民目線で必要となる情報をスピーディーに発信できたのは、非常時に中枢機関として機能する「共同防災管理協議会」の存在が大きいと桜井さんは考えます。

「協議会には自治会長や管理組合の理事のほかに、私のような防火管理者や理事経験者が任期を定めない形で在籍しています。『消毒液の補充が必要』となった場合でも、その都度理事会の承認を待つのではなく、マンションの危機管理を熟知した協議会の判断で迅速に動けました」。

パークシティ溝の口の防災組織。任期なしの防火管理者や理事経験者が共同防災管理協議会に在籍していることが、迅速な意思決定につながっています。

大量に必要になる消毒液の補充も、協議会の判断で適宜補充されます。

それに加えて、頼れる管理会社の存在も重要な要素であると語ってくれました。

「例えば初期の段階で全戸配布した印刷物は、管理会社の担当者が今後の対応策を協議するミーティングの最中に作ってくれたものです。このスピード感には本当に感心しました」。

これについて、パークシティ溝の口の管理を担当する株式会社レーベンコミュニティの伊藤健樹郎さんにも話を聞きました。

「管理会社として、管理組合様の速やかな意思決定をサポートするのは大きな役割です。日頃から管理組合様との連携を密に図り、いざというときに迅速に動ける関係性を築くこと。そして管理組合様の緊急事態を、管理会社が『自分ごと』として認識することがとても重要だと考えています」。

管理会社が作成した住民への告知文。スピーディーな対応で、住民の不安解消につながりました。

パークシティ溝の口の管理を担当する株式会社レーベンコミュニティの伊藤健樹郎さん

最後に桜井さんは「今後起こりうる様々な危機に対応するためのチームビルディングを検討していきたい。リモートツールの活用や管理会社との連携など、今回の経験を活かせる部分は大きいのでは」と語り、マンションの安全を守る立場としての「コロナショック」の教訓を明かしてくれました。

パークシティ溝の口の統括防火管理者で防火管理者、マンション管理士の資格を持つ桜井良雄さん

台風被害の教訓を活かす〜パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの場合

神奈川と東京の交通のハブ・武蔵小杉に建つ「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」。昨年夏の台風による浸水被害では、管理組合、理事会による「タスクフォース」を早期に立ち上げ、迅速な対応に当たったことは、以前紹介しました。

そのメンバーであり、IT・広報の担当である本平基さんは、マンションでの新型コロナ対策のポイントについて「理事会としての基本方針を、いち早く住民へ告知すること」と回答しました。

「感染者や濃厚接触者の有無に目を向けるのではなく、『すでに感染者がマンション内にいる』と想定し、しかるべき対策を講じることが理事会の基本姿勢でした。そのうえで感染を拡大させないためにはどうすればよいのか、もし感染した場合にはどのような措置を取ればよいのか、という基礎知識を住民に告知することから始めました」。

4月27日にはこの内容を記載したプリントを全戸配布。その後、この抜粋版をサイネージとして館内に掲示しました。

全戸配布したプリントをサイネージに転換して館内に設置。目に付くカラーリングとわかりやすい表現で、住民に伝わりやすい告知を心がけました。

各フロアには消毒液を設置。管理会社による1階共用部分のフロア消毒も1日2回行うなど、感染予防を徹底したと話します。

「浸水被害後に備蓄していた消毒液が、手指の消毒にも使用できるものであったので、適切な濃度に希釈して活用することができました」。

管理会社による1階共用部分のフロア消毒も1日2回実施。

手指の消毒液は、浸水被害後の消毒用としてマンションに備蓄していたものを使用することができました。

台風被害の対策から活かすことができたのは、消毒液のような「物」だけではありません。台風対策時に活用したメーリングリストで理事会への情報伝達を行うなど、様々なツールや経験値も、このマンションの危機管理における大きな武器となっているそうです。

「現在は閉鎖している住民へのコンシェルジュサービスが再開するときが、私たちにとっての新型コロナウイルス対策緩和の一つの目安になるでしょう。ただそれが気の緩みにつながってしまわないよう、ウイルスとの長い戦いを見据えながら引き続き警戒していくことが大切かなと思います」と本平さんは強調しました。

パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーIT・広報担当の本平基さん

住民が一体となってウイルスと戦う意識を醸成〜リムザの場合

東京都府中市にある総戸数553の大規模マンション『リムザ』は、周辺地域や自治体との交流を活性化する目的で、独自で自治会を設立。理事会や管理組合と共同しながら、マンションの様々な課題と向き合ってきました。

「今回の新型コロナウイルスも、マンションの防災委員会の中で理事会、自治会が一体となって対策を検討しました。共用施設は当初の『使用自粛』から『使用停止』へ、その期間も状況に合わせて延長するなど、役員がお互いにメールなどで意見交換しながら、細かな対応策を施行してきました」と語るのは、自治会長の林田健一さん。

感染者が出た場合の措置については、理事会内での意見が一致しなかった部分もあったそうです。「非常に個人的な情報になるので、その扱いについては早々に答えが出るものではありません。そこで『誰が罹患しているのか』ではなく、『罹患しない、させないためにはどうすればよいのか』という観点で対策や周知をしていく方針を定めました」と林田さん。

「感染防止法やウイルスの正しい知識をポスターに掲示したり、エレベーターの24 時間換気が正常に作動しているかを防災センターに確認するなどの措置を施して、できうる限りの対策を講じました」と振り返ります。

行政による情報や、医師の資格を持つ理事の協力により、有益な情報を掲示して住民に提供しました。

また、マンションという限られたコミュニティの中で恐怖や不安が蔓延しないよう、住民のメンタルケアも自治会としての大切な役目になりました。

「フロント業務がストップし寂しくなったフロントデスクに、ハロウィンのイベントで使った造花を飾ったり、ソファーを撤去したロビーのスペースに住民の協力でアートフラワーを置くなど、少しでも明るい気持ちになれるような工夫をしました。また万が一感染者が出た場合でも「誹謗中傷は慎もう」と掲示で呼びかけ、とにかくマンションが一体となってウイルス対策に取り組むんだという意識を醸成することにも力を注ぎました」。

フロントやロビーに飾り付けをして、淀んだ雰囲気をリフレッシュ。ちょっとした心づかいで、住民のメンタルケア対策を充実させました。

感染者への誹謗中傷を慎むよう呼びかける掲示。

夏祭りなどのイベントを通じて培ってきた住民や地域との絆を結束させ、一丸となってウイルスに立ち向かうことで、これまで経験したことのないコミュニティの危機を克服しようという心意気を感じることができました。

リムザ自治会の(左から)熊谷貴和さん、林田健一会長、後町伸司さん。

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