「自分は大丈夫」と思わないことが防災対策の第一歩

昨今の度重なる地震や台風被害に、防災用品を見直す家庭やマンション管理組合も増えたのではないでしょうか。今回はあなぶきPMアカデミーTOKYOでマンション理事長向けに行われた「自然災害増加への備えと対応」でマンション管理組合での防災対策についてうかがってきました。

理事長向けセミナーは3部構成となっており、今回は第一部をレポートいたします。

「自然災害増加への備えと対応」
実施日:2019年12月7日(土)
会場:あなぶきPMアカデミーTOKYO
住所:神奈川県川崎市川崎区宮前町8番地3
アクセス:JR京浜東北線・南武線「川崎」駅 徒歩8分
     京急本線・京急大師線「京急川崎」駅 徒歩8分
参加者:マンション理事長23名

【当日スケジュール】
第一部:自然災害増加への備えと対応
第二部:あなぶきPMアカデミーTOKYO内見学
第三部:懇談会

運営:株式会社穴吹ハウジングサービス ※外部サイト
お問い合わせ:044-245-5735

▼あなぶきPMアカデミーTOKYO見学に関する記事はこちらも併せてご覧ください。

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実際の自然災害被害は想定を超える

今回のセミナー講師は、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授の鍵屋一氏。秋田県男鹿市生まれの秋田なまりで、場を和ませながら講座はスタートしました。

両手を上に伸ばす体操からスタートし、左右の手でじゃんけん。思ってもできないのは防災も同じだと身をもって体感。

まず伝えられたのは、記憶に新しい2019年の台風19号をはじめとする、災害時の避難所の様子です。避難所の写真を交えながら、プライベートスペースが確保できないことや、コミュニティスペースがないので情報交換をしにくいことなど、人が尊厳をもって暮らすことに不自由さを感じる事例を次々と上げていき、マンションで在宅避難ができるのであれば、一概に避難所生活に移るべきではないことが伝えられます。

次に、2018年の大阪府北部地震後のマンション6階の写真を投影。本棚が倒れ、足の踏み場がないほどの子ども部屋の様子に、一番の対策は断捨離をすること、という視点を変えた提案も。特にキッチンは食器棚や冷蔵庫など、背の高いものが多いので、家具の固定を各自改めて確認してみましょうと、話が続きます。

また、大阪府北部では、マンション特有の被害としてエレベーターの緊急停止と閉じ込めをあげていました。幸いなことにすぐ保守事業者が来て開けてくれたマンションが多かったものの、最寄り階で停止してドアを開放するはずの地震時管制装置があるにも関わらず、閉じ込められてしまったエレベーターが約46%にも上っていました。

参照:国土交通省

その後の国土交通省が実施した被害状況分析と対策の実施状況では、救出に要した時間は約87%が3時間以内に救出されたと報告しています。(参照:http://www.mlit.go.jp/common/001293499.pdf

「自分だけは大丈夫!」と無意識に思っているリスク

一方で鍵屋氏の出身である秋田県男鹿市はナマハゲで有名ですが、実は防災対策の意味もあるそうです。ナマハゲは、鬼に扮して、子どもには「泣く子はいねか」、大人には「なまけものはいねか」と言いながら各家庭を回っていきます。なぜ防災対策かというと、このナマハゲ、村の消防団の若手がやっているそうなのです。ナマハゲとして各家庭を回りながら、「この家には足の悪い高齢者がいる」、「この家はまだ一人では歩けない子どもが2人いる」などと家族構成だけでなく、その家庭の状況まで確認し、いざというときの防災情報に活かしているというのです。そこにあるのは、「自分だけでは動けない人をどうやって守るか」という視点です。

さて、ここで鍵屋氏は疑問を投げかけます。

―これだけ災害が多くても、今一つ防災の優先順位が上がらないのはどうしてなのでしょうか。

そこには正常化の偏見があるといいます。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人間の特性で、「自分は大丈夫」と思ってしまうものだそうです。普段生活していて仕事に行く途中で何か事故に遭うのではないか、事件に巻き込まれるのではないかとか考えていたらきりがないので、「正常化の偏見」で、悪いことは考えないようにするのです。その延長で、他のエリアで災害が起きていても、自分は大丈夫なのでは?と私たちは思ってしまうようなのです。

まさにそれを体験したのが、鍵屋氏の提案したワークです。

「大震災発生後、あなたはマンションで家族と家にいました。何をしますか?」という問いに、1分間でできるだけ多く答えを書いてください、と言われ、一斉に参加者が取り組みました。

1分間で次々と、被災時の対応を書き入れていきますが……。

1分後、「6つ以上書いた人?」「3~5つの人」などと手を上げていきますが、本題は別にあります。鍵屋氏から投げかけられた言葉は「皆さん方の中で、自分がケガをした場合の行動を入れている人いますか?」でした。

自分がけがをした場合、応急手当をする、またはしてもらう。
自分がけがをしてない場合は家族の状況を確認する。

と、本来は自分の状況を確認してから、行動を切り分けていくべきなのですが、自分がケガをしたパターンは想定に入ってこないのです。まさしく、これが「正常化の偏見」体験でした。

行政もマンションも病院もこの意識が防災対策を阻んでいるということを理解しておらず、防災訓練に参加しても、何となく自分事にならないで終わってしまっていると言われ、ハッとさせられました。

被災する!と危機感をもって、自分の身は自分で守る準備を

では、どうしたらいいのでしょうか。ポイントは、危険が近づいたときに防災のスイッチを入れられるか?だそうです。まずは、我が家を見回して、防災対策をし直すこと。トイレは非常時に使えるのか?水は十分に準備できているのか?携帯のバッテーリーは足りるのか?台風が近づいてきたら、停電は当たり前だと思って準備をすることが大事なのだと言われ、だんだん実感が沸いてきます。

マンションなら在宅避難でいいけれども、自分が被災すると思って、自宅の安全対策は必ずすることが重要だと、鍵屋氏は語調を強くします。

2016年の熊本地震では、被害のないマンションはなかったそうです。マンションでは災害時に命を守ることも大事ですが、社会全体を守ることも重要です。特に都市では、マンション生活を継続することこそが、企業・自治体・団体等の事業を継続する計画の基盤であり、社会インフラになるそうです。まずはそう思って自分たち自身で対策し始めることが大切なのですね。

さらに、鍵屋氏も作成に関わったという東京都港区のマンション震災対策ハンドブック は、マンションに特化した震災対策情報が充実しています。

これらの情報は、知っているようで、実感が伴っていないことも多いので、掲示板や印刷物の配布を通して、改めてマンション全体の防災意識を高めていきたいですね。

鍵屋氏は、理事会、コミュニティへの参画意欲が高く、管理会社の支援力があるマンションは、災害にも強いマンションとも言え、さらに地域・自治体と連携意欲が高く、専門家との連携もあるマンションはより強固な災害対応力を持ち合わせていると示されました。熊本地震で被災した人たちは、「不便ではあるけど不幸ではない」と話していたそうです。そこには、住む場所が壊れ、物資が乏しくても、生きているから大丈夫と言える強さと、それを支え合えるコミュニティがあったことが大きかったようです。

鍵屋氏は最後に、孫子の兵法を引用して防災の備えを説きます。

古の善く勝つものは、勝つべくして勝つものなり。

敵には決して負けない万全の態勢で、力で押すのではなく、相手が弱みを見せたときを逃さず攻撃する、というものです。防災も、自らの安全を徹底して守る準備をすることで、どんな災害にも負けない状況を作ることこそが、被害を最小限に抑えることにつながるのですね。

この理事会の参加者で荒川近くの130戸のマンション理事長をされている男性は、改めて近所づきあいの必要性を感じたと言います。普段、訓練はしておらず、非常食として水だけを備蓄している状況ですが、台風19号で災害のリスクを認識。手間がかかるため3年1回になっていった秋祭りについて、住民からもっと開催してほしいという声もあるので、防災のためにも積極的に取り組みたいと意欲を見せていました。


防災訓練を定期的に実施しているマンションも多く聞きますが、改めて、「自分たちのマンションに起こること」と、当事者意識を高め、自分がケガをする場合も想定した準備をすべきだと、みなさん考えさせられたようです。

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文:衣笠可奈子

2020/02/27