第12話「夫だけが頼りなので・・・」家族の不在、おしよせる孤独と不安

ある日、突然の大地震が発生! インターフォンでは応答のなかった住民の元へ、伊東と佐島、そして管理員の高林が手分けして安否確認に向かうことに。伊東がまず訪れたのは18階、共働きの夫婦宅。しかし、呼び出しを押すも応答がない・・・。

マンション地震防災奮闘記この話は、とあるマンションの新米防災担当者・伊東が、「最高の防災力を備えるマンションをつくる」という目的に向かって邁進していく姿を描いたフィクションストーリーである。

主な登場人物はこちら

伊東編(11~20階担当)

9階に続き、停止したのは18階だった。伊東は高林に、確認を終え次第、管理事務所で落ち合うことを約束し、エレベーターを降りた。

訪問するのは1803号。高林によると、共働きで子供はいないものの、夫婦で防災訓練などのイベントには最低限顔を出し、特に奥さんは出勤や帰宅時会えば挨拶をする礼儀正しい人物らしい。共働きであれば、外出したまま戻っていない可能性もある。伊東は何か無事であることを確認できたらという希望をもって、1803号を尋ねた。

インターフォン「ピンポーン、ピンポーン」呼び出ししてみるが、応答がない。(まだ帰ってきていないのかも…)もう一度呼び出しをしてみる。

「ピンポーン、ピンポーン」応答がない。(出直すか。)伊東が離れようとしたとき、インターホン越しに音が聞こえた。

「あ、あなた?」か細い女性の声だ。

「あ、すみません、私、2001号の伊東といいます。今、管理事務所と協力して、昨日地震の安否確認がとれなかったお宅を確認しているものです。大丈夫ですか?」……応答がない。

「あの、大丈夫でしょうか?」

「…はい、大丈夫です。。」小さくすすり泣くような声が聞こえる。

伊東は冷静に「よろしければ、安全確認を含めて少しお話しをきかせていただけませんか?」と尋ねた。

しばらく沈黙が続いたあと、静かにドアが開いた。女性が顔を出し、伊東を見て軽く会釈した。ずっと不安だったのだろう。顔からは血の気が引き、落ち着かない様子だ。伊東は、できるだけ落ち着いて話ができるよう、ゆっくりと尋ねた。

「ご主人とお二人でお住まいと管理員の高林さんよりうかがったのですが、ご主人は?」

「…昨晩から帰っていません。何度も携帯などに連絡しているのですが、つながらなくって。」

「そうですか…奥さんは、昨日はどちらに?」

「仕事に出ていました。営業先を訪問中に地震があって…。幸い営業先がマンションの近くだったもので、なんとか帰宅できたのですが、余震なのかずっと揺れている気がして怖くて怖くて….特に知り合いもいないですし、夫だけが頼りなので何度も電話したのですがまったくつながらないですし、本当に心配で…。」彼女はそういうとうつむいた。

「交通機関や通信機関は復旧しつつあるようですし、昨日の混乱も落ちついてきているようですよ。もし差し支えなければ、後ほど管理事務所からもご主人に連絡をとってみますから、連絡先など教えていただけませんか?」彼女はしばらく考え込んでいたが、少々お待ちくださいといって部屋に戻った。そして戻ってくると、一枚のメモを伊東に手渡した。

「ここに主人の携帯電話と会社の電話番号、それにメールを書きました。お願いです。なんとか主人と連絡して、私に電話するように伝えていただけませんか?お願いします。」彼女の不安と夫の無事を祈る気持ちは、表情、そして声から痛いほど伊東に伝わってくる。伊東は、その期待に応えたいと思った。

「わかりました。管理事務所に戻ってから管理員さんにも相談して、なんとか連絡がとれるよう頑張ってみます。きっとご主人は大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます…あの…頑張ってください」そういって彼女は中に戻っていた。ほんの少しだけだが、彼女の表情が安堵していたように見えた。

(なんとか連絡がつけばいいんだが…)伊東は部屋に戻る彼女を見送ると、足早に次の住戸へと向かった。

第13話へつづく>

※写真はイメージです

2012/01/12