ある日、仕事で訪れていた展示会場で突然の大地震に遭遇!巨大な建造物が音を立ててきしむ。かつてない激しい揺れにパニックになる来場者。そのとき、伊東は?!
この物語は、とあるマンションの新米防災担当者・伊東が、「最高の防災力を備えるマンションをつくる」という目的に向かって邁進していく姿を描いたフィクションストーリーである。
2011年×月×日 14時38分 それはあまりに突然の出来事だった
都内のとある展示会場にIT関連の仕事で訪れていた伊東は、ある奇妙な音に気がついた。
ミシミシ…
どこから音がしているんだろう?あたりを見渡してみるが、特に不審なところはみあたらない。それでも、展示会場内のブースからきこえてくる音楽や商談とは別の、あきらかに異質な音が気になってしかたがない。そしてそれは、徐々に大きくなっていった。
「な、なんだ?」
伊東は、さらに注意の範囲を広げ、周囲を見回した。そして天井に目を向けたとき、それは明らかになった。網の目に張り巡らされた鉄骨と照明が、まるで風にそよぐ木々のように右へ左へとゆっくり大きく揺れ、キイキイと奇妙な音を鳴らしている。伊東には、それがまるで建物が恐れおののく悲鳴のように感じられた。
「天井、揺れてないか?」
伊東は、ともに展示会を訪れていた同僚の栗山に話しかけた。異音と奇妙な天井の様子が、自分の勘違いであってほしい。そう願ってのことだった。しかし、
「やばい、伊東ちゃん、揺れてるよ!」
いつもは冷静な栗山が、その異変にただならぬものを感じていた様子をみて、それが現実に起こっているのだとわかった。
「やばいやばいやばいやばい! そ、外に逃げよう!」
栗山が思わず叫んだ。2人は早く逃げ出したい気持ちを抑えながらも、周囲がパニックにならないように、できるだけ早歩きで出口へと向かう。その間、揺れはどんどん激しさを増し、会場内の人々も異様な様子に気づき始めていた。
「や、やばい! これはやばいよ、まじで!」
「まじか!?」
本能が、危険を知らせていた。2人は恐怖を抑えることができず、一気に会場の外へと走り出た。と同時に、後方から大勢の来場者が、2人の後を追って洪水のように殺到してくる。まさにパニック。どこかの映画でみた光景が、目の前に迫っていた。ただならぬ事態が起きた、2人はこのとき、そう確信した。その瞬間。伊東の視界が、大きくブレた。
「!?」
信じられないことに、地面が粘土のように大きくうねりはじめた。「な・・・・」。言葉はでない。とにかく身を守らなければ。2人は地面に伏せ、互いが離ればなれにならないようしっかりと手を握りあった。あたりでは来場者の悲鳴や、「やばい」という悲痛な叫び声が聞こえてくる。まるでトランポリンの上ではねているような、これまで体験したことのない大きな揺れ。間違いない。だ、大地震だ。
「やばい、やばいよっ」伊東はただ、揺れが早く終わることだけを祈り続けるほかなかった。。
※写真はイメージです
2016/09/08