関東大震災に学ぶ、首都直下型地震への対策~東京・横浜の壊滅~

グランドホテル跡 『横浜震災被害写真帖』(横浜市中央図書館所蔵)所収

東京・横浜を焼き尽くした関東大震災。そこで起こったさまざまな被害は、現代に置き換えてみても、同じ事が起こると想定できます。大正時代の被害を検証・比較してみましょう。

①家財道具を積んだ大八車に火の粉が降りかかる

当時の人々は、家財道具一切合切を大八車に積み込んで燃えさかる火の中を逃げ惑い、そこに降りかかった火の粉が燃え移って命を失った方々も多くいました。

⇒現代:車での避難の危険性
当時の大八車は、現代で言えば車。もし震災が発生した場合、車で逃げる人も多くいるはずです。しかし都市部で起こる震災では、交通渋滞、高速の落下、道路の陥没などが想定されます。さらにガソリンという危険物を積んだ車に引火すれば、次々に爆発が起き、道路は炎に包まれる危険を孕んでいます。

②避難民でごったがえす避難所の火事と火災旋風

本所・元陸軍被服廠跡地では、空き地に誘導された避難民4万人の手荷物と家財道具であふれかえっていたところに三方から火が出て、死者3万8千人という大惨事となりました。

⇒現代:マンションでの自宅避難
火災の延焼危険度の高いマンションでは、建物が無事であっても揺れが収まったらすぐさま広域避難所に避難することも想定しておきましょう。近所の小学校や中学校などの指定避難所よりも、最初から広域避難所に避難しなくては炎に囲まれる恐れがあります。まずは各居室から火災を起こさないこと、万一の際には初期消火を徹底することを心がけましょう。それには日頃の消防訓練が役立ちます。住民全員で、消火体制作りを行います。

③本所・元陸軍被服廠跡地:火災旋風による延焼

多くの避難民がいた元陸軍被服廠跡地で、突然巻き起こった高さ100〜200メートル・毎秒70〜80メートルの風速の火災旋風により、家財道具や手荷物を燃やし、隣接する安田邸も燃え尽くしました。

⇒現代:火災旋風の研究を待つ
今後の直下型地震の災害想定では、まだまだ「火災旋風」についての備えが不十分です。炎の竜巻とも言われる「火災旋風」については、まだそのメカニズムや発生要因は研究途上。今後の研究成果に期待したいと思いますが、私たちにできることとして、強い風が吹いているときは決して火災を出さない意識を強く持ちましょう。

消防大学校だより「火災旋風の研究」

④石油コンビナートの火災

横浜では雉子川の両岸や河口近くで、工場からでた火が海上に流れ出した石油、さらに石油タンクに引火して大火災を引き起こしました。

⇒現代:石油コンビナートや危険物取扱施設には近寄らない
昨今、石油コンビナートはもとより多様な化学物質を貯蔵するタンクや管理施設を地震が襲えば、爆発、有毒ガスの発生、水で消火できない化学物質による火災など、消防による消火能力をはるかに超える惨事に発展する恐れがあります。災害時にこういった場所に近寄らない、車での避難を行わないほか、最悪の事態を想定して早めに避難行動を開始しましょう。

⑤10万人を超える死者、火葬が間に合わないほどの身元不明の死者の山

当時の東京の火葬場は6箇所。処理能力を超えた死者の数に露天焼却に踏み切りました。

⇒現代:身元不明の死者
首都直下型地震が発生した際の想定死者数は、東京都だけで約1万3千人(最悪ケースの場合)です。日中であれば外出中の人も多くいるため、身元不明の死者がでる恐れがあります。お財布に入っている身元を証明するものが泥棒に抜き取られたり、体の損傷がひどくて個人を特定できなかったりすることもあるからです。

⑥衛生状態の悪化

給水活動は、東京が9月3日、横浜が9月9日から始まりましたが、水道管の破裂で十分な給水はおぼつかず、9月から11月にかけては赤痢や腸チフスなどの伝染病が倍増しました。

⇒現代:衛生面の確保
発災後しばらくは、一時的に非常に衛生状況が悪くなることが予測されます。非常用トイレの使用時や汚物処理、怪我人の取り扱いなどについては衛生管理に注意しましょう。マンションの自室に、消毒薬や抗菌剤などの衛生保持のための備蓄をしましょう。

⑦デマの流布

地震や火災の混乱の中で「朝鮮人が暴動を起こした」といったデマが発生。戒厳令が敷かれ、関東各地で住民による自警団や軍隊が、朝鮮人や中国人、社会主義者らを殺害しました。

⇒どんな情報もその真偽を確かめること
関東大震災のデマの流布による虐殺は、大きな教訓を我々に与えてくれます。災害発生後は、人々の心も不安におびえています。よかれと思った情報共有も、そのソースの正確さや真偽を確かめないと、二次被害を生み出すことにもなりかねません。人づての情報は、あてにならない。信頼できる公共の情報確認の習慣付け、そしてなにより、自分で考えて判断することが重要です。

⑧食糧・物資・医療不足と救援活動

発災後、9月2日には海上からの救援が大阪と神戸からやってきました。実に素早い救援活動が日本全国で展開されました。

⇒現代:災害時の救援体制の整備
関東大震災での救援活動については、東京大学の鈴木淳先生による『関東大震災—消防・医療・ボランティアから検証する』という本に詳細に書かれています。災害が発生した際に、政府・軍・大学・民間の人々がどのように組織だって行動したのか、こうした状況を知ることは、現代の防災にも必ず役立つはずです。
マンションの救援体制を整えて活動することの大切さをこの機会に見つめ直してみてください。


関東大震災は、いまなお多くの教訓を私達に教えてくれます。過去の災害に学び、現代に活かすこと。それこそが、現代の私達がいますぐ行うべき防災だと思います。ぜひもう一度、関東大震災の教訓から学んでください。

【参考資料】※著者名順

今井清一『横浜の関東大震災』(有隣堂、2007年)
太平洋戦争研究会編『図説関東大震災』(河出書房新社、2003年)
武村雅之『関東大震災を歩く 現代に生きる災害の記憶』(吉川弘文館、2012年)
内閣府 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成18年7月「1923 関東大震災」
内閣府 首都直下地震対策
鈴木淳「関東大震災時の救援」神奈川大学 21世紀COEプログラム
鈴木 淳『関東大震災—消防・医療・ボランティアから検証する』(ちくま新書、2004年)
横浜市教育委員会 中央図書館 関東大震災を調べる

2014/09/01

プロフィール

国崎 信江

危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表。女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。文部科学省地震調査研究推進本部政策委員、防災科学技術委員などを務める。講演活動を中心にテレビや新聞など各メディアでも情報提供を行っているほか、被災地域で継続的な支援活動も行っている。

おもな著書に『大地震対策 あなたと家族を守る安全ガイド : ビジュアル版』(法研)、『震度7から家族を守る家: 防災・減災ハンドブック』(潮出版社)、『マンション・地震に備えた暮らし方 (地震防災の教科書)』(つなぐネットコミュニケーションズ)などがある。


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