「目黒巻」による、マンション内での災害時行動イメージトレーニングを!

災害が発生したあとの自分の行動を時間軸毎にイメージするツール「目黒巻」をご存じですか? マンション防災力を高めるためにぴったりなこのツールを使って、簡易ワークショップを実践しました。管理組合で「目黒巻」を行う際の参考にしてみてください。

「目黒巻」とは、災害イマジネーションを高めるトレーニングツール

「目黒巻」は、東京大学の目黒公郎教授が考案した、災害状況イマジネーション支援システムのためのツールです。

▼目黒・大原研究室:災害状況イメージトレーニングツール 目黒巻
http://risk-mg.iis.u-tokyo.ac.jp/meguromaki/meguromaki.html

人は、具体的にイメージできない災害に対して、適切な準備や心構えができません。「目黒巻」は、さまざまな時間・場所、災害の種類を想定して、災害発生後の自分の状況や行動をイメージし、自分を主人公にした物語を、時間の経過毎に考えて作っていくというものです。こうして、自分の行動をシミュレーションすることで、問題点や必要な行動、対策すべきことが浮かび上がってきます。

特にマンション防災では、災害時に行動すべき管理組合のメンバーがどのような考えで行動していくのか、優先順位は何か、について共有しておくことが大切です。「目黒巻」は、マンションで防災を担う理事同士で一緒に行ってみると非常に有益なものとなって役立ちます。

今回は、マンション・ラボの運営元である株式会社つなぐネットコミュニケーションズの防災担当メンバーに参加していただき、それぞれがマンション管理組合のメンバーとしてどう行動するかについて、ワークショップ形式で進めてみました。

では、マンションでの地震を想定した「目黒巻」をみんなでやってみましょう!

【STEP.1】今回の災害時の状況を設定しましょう

「目黒巻」の記入シートは、東京大学の目黒・大原研究室のホームページからPDFをダウンロードできます。PDFをプリントアウトして、巻物のようにつなぎあわせてください。PDFには、記入方法や記入後の課題についても説明がなされていますので参考にしてください。

今回はまず、参加した皆さんがマンションの管理組合の役員メンバーという設定で、マンションの室内で地震が発生したというシチュエーションで考えていきます。

【今回の設定】

災害:地震
日付:4月8日
季節:冬(最近経験した季節がよいでしょう)
天気:かなり強い大雨
時刻:日曜日の13時頃(家族が家にいる時間で設定)
立場:管理組合役員(居住階も設定)

「発生時の状況」は、どの部屋で誰と何をしていたかについて想定して記入します。この日は日曜日の午後、昼食が終わったか、それともまだ寝ているのか、人によって日曜日の過ごし方は異なりますが、ふだん過ごしている状況を記入します。たとえば私の場合は、「昼食後に家族とテレビ鑑賞、その後掃除をする」のが、発生時の状況です。

【STEP.2】災害発生10秒後から3時間後までの行動を記入

次に、13時に震度6強の地震が発生します。地震の揺れはどのくらい続くのか事前に設定しておいてもよいでしょう。今回は直下型を想定したので、1分も続かずすぐ揺れは収まります。その瞬間、あなたはどんな行動をとるでしょうか? 10秒後には? そこからどんどん自分の行動の物語を想像して記入していきます。今回は3時間後くらいまでで終えましたが、1年後までずっと書き続けてもかまいません。「目黒巻」シートは、時系列で進めていくので、巻物のように長くつなぎあわせていきます。

実際に書いてみると、皆さん、地震発生後1分でできる行動のイメージがうまく掴めなかったという声もありました。こうして時系列で自分の行動を把握できる点が、「目黒巻」の素晴らしいところです。

一般的な防災マニュアルの中には時系列で行動を考えられていないものがありますが、「目黒巻」では時系列で行動確認ができるため、マンションの防災マニュアルづくりに役立ちます。マンション内で安否確認を行うタイミングが理事個々にずれていたら、マンション全体で整合性のある行動ができません。その検証や、すべき行動のモレが見えてきます。

【STEP.3】みんなの「目黒巻」を並べて考察してみる

記入し終わったら、みんなの「目黒巻」を並べて貼り出してみましょう。全体の行動を見渡して、管理組合の立場で行動している人がいるかどうか、何分後に行動しているかについてチェックしてみます。

たとえば、皆さんがマンションの1階に集合するのはいつ頃でしょうか? 各自の「目黒巻」で行動をチェックしてみましょう。

子どもを抱っこしたまま周辺の様子を窓からチェックする平田さん

10分後に廊下とエレベーターが動くかどうか、まず自分のフロアだけを確認、その後は子どもにかかりきりとなっています。

家族を救出後、家のことは奥さんに任せて階下へ向かう松下さん

寝室に閉じ込められた家族の救出を終えると、10分後には階下へ階段で降り、途中要救援者を助けています。

10分後、共用部の廊下に出て近隣の様子を伺う松村さん

まず室内の安否確認。ベランダから外を確認。30分後には階段を降りて、マンションの状況や、他の理事の様子を確認します。

1分後には猫がケガをしてパニックになった木村さん

パニックになった飼い猫をキャリーになんとか入れ、安全確保。10分後には1階エントランス集合というルール通り行動。20分後にはフロア確認を行っています。

室内のゴチャゴチャになった様子に唖然とする岡本さん

揺れが収まったら家族の安否確認。10分過ぎた位で災害対策本部を立ち上げるか確認するために1階の集合場所へ移動します。

このように、だいたい20〜30分後くらいには、管理組合のメンバーが1階に集合するために行動するのがわかります。家族構成や部屋の被害状況などによっても異なりますが、何分くらいで人が集まることができるか、家族の安否確認にどのくらいかかるかなど、それぞれの状況がわかってきます。皆さんの行動を時系列でみると、参加メンバーの中で最初に1階へ駆けつけている松下さんに、防災対策本部の設営をお願いすることができそうです。

防災マニュアルでは、最悪の状況を想定して確実な手段を確認する方がいいのですで、理想論ではなく現実的にみなさんが集まれるのは災害発生30分後とするのがよさそうです。そうすると災害本部を立ち上げる時間設定や、災害時要援護者のいるフロアのリーダーの設置など、さまざまな対策を戦略的に計画していくことができます。

災害時にこの人はこういう行動をするのだ、こういう点を気にするのだということも見えてきますし、その人の得意なことも知ることができますね。また、ペットを飼っている人なら、どういうペット対策が必要かということも考えられるはずです。

【STEP.4】「目黒巻」の感想

平田さん

管理組合の立場で考えろと言われても、20分以内は自分の身の回りのことで精一杯だというのがわかりました。理事会の役員同士でも、自分の家族の安全が最優先だということを現実的に知る結果にもなってよかったと思います。

松下さん

ここまで具体的に、それぞれが異なる行動をとるのだということがよくわかりました。みんなが行動できるのが、いつ位ならば現実的なのかという感覚もわかりましたので、今後にいろいろな局面で使えそうな気がします。

松村さん

みんなと行動を合わせるのは難しいですが、ある程度の目安の行動時間は、「目黒巻」を通して定めていくことはできるのかなと思いました。時間を決めることで、みんなの時間軸を一致させるというのも重要ですし、それをきちんとマニュアルに反映していかないといけないということを痛感しました。

木村さん

記入しながら軽くパニックになりました。書いてみると、もっと行動に時間が押すだろうなということもわかりました。これは、自分の防災行動の棚卸しにもなると思いました。防災マニュアルをつくるならば、マンションの居住者全員でやってほしいものですね。

岡本さん

仕事で防災マニュアルづくりに実際に関わっています。しかし、ここまでみんなの行動がバラバラとは思いませんでした。マニュアルづくりでは、こうした各人の行動も含めて、どこまで具体的に現実的に考えられのかが課題ですね。

いままで知らなかった個々の生活パターンも見えてくる

防災マニュアルはもちろん重要ですが、具体的な行動のイメージを思い浮かべられないのがデメリットでもあります。今回、「目黒巻」をみんなで書いたことで、最悪30分後には、みんなが一度一階へ降りてくるという最終イメージが共有できましたよね。そういう全体の行動イメージがつかめることが、重要です。現実的なことがわかってくると、訓練もしやすいし、目標もたてやすいものです。

今回の想定のような理事同士のほか、同フロアの居住者同士、家族同士で、いろいろな想定パターンの「目黒巻」をやっていただくと、お互いの生活パターンや優先順位など、いままで語ることのなかったことが見えてきてよいですね。

災害発生1年後まで考えると、どの段階で総会を開いて修繕できるかという計画も考えられます。管理組合でやるべきことのシミュレーションにもつながりますね。

また、「目黒巻」は、地震だけでなく、防災、防犯、事故、何にでも使えます。何かが起きたとき、自分はどんな行動をしているのかを知り、危険発生時の自分の意識のイマジネーションツールとしてもぜひ活用してください。

2014/06/03

プロフィール

国崎 信江

危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表。女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。文部科学省地震調査研究推進本部政策委員、防災科学技術委員などを務める。講演活動を中心にテレビや新聞など各メディアでも情報提供を行っているほか、被災地域で継続的な支援活動も行っている。

おもな著書に『大地震対策 あなたと家族を守る安全ガイド : ビジュアル版』(法研)、『震度7から家族を守る家: 防災・減災ハンドブック』(潮出版社)、『マンション・地震に備えた暮らし方 (地震防災の教科書)』(つなぐネットコミュニケーションズ)などがある。


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