調査研究が着々と進む!フォーラム「大地震時における超高層マンションの揺れと被害」レポート

2014年11月に、新宿・工学院大学で研究フォーラム 「大地震時における超高層マンションの揺れと被害-東日本大震災の経験を踏まえて-」が開催されました。超高層集合住宅地震観測合同研究会のメンバーによる専門的な研究発表の場ですが、超高層マンションに住む住民にとってはかなり気になるテーマです。今回は、そのフォーラムの様子をレポートします。

大学や建設会社、各種研究機関による超高層住宅の地震観測合同研究

今回のフォーラムについて

テーマ: 『大地震時における超高層マンションの揺れと被害-東日本大震災の経験を踏まえて-』
開催日:2014年11月12日
場 所:工学院大学
主 催:東京理科大学
内 容:東日本大震災以降進められてきた超高層マンションで得られた強震記録の分析や、アンケート調査による室内の被害分析を共有するとともに、今後大都市圏で発生が予測される大地震に対し超高層マンションで取り組むべき具体的方策を議論しました。

本研究フォーラムは、「超高層集合住宅地震観測合同研究会」の研究発表と、大地震に備えた対応策の提案を行うものです。

2011年に発足した同会は、東京理科大学・永野研究室、都市再生機構、大林組、鴻池組、戸田建設、安藤ハザマ、前田建設工業、三井住友建設、URリンケージ、京都大学、工学院大学、東京大学による研究体制をとり、強震記録に関する情報を共有・研究しています。

研究対象としているマンションは、すべて24階建て以上・純ラーメンRC造・耐震構造の超高層集合住宅。関東8棟・関西6棟のマンションで、14〜26年間に及ぶ長期間の強震観測が行われており、2011年の東日本大震災時の観測記録も得られています。

各分野の専門家によりこうした長期的な観測が行われて研究成果が超高層建築の建設に役立てられているということも知りませんでした。なかなか一般の人が知る機会が少ない貴重なフォーラムです。今回は、その研究発表のなかから、特にみなさんに知っていただきたいことをご紹介します。

同じ首都圏に建つ超高層マンションでも立地によって揺れ方が違う

大地震時における超高層マンションの揺れ/東京理科大学 永野正行氏

東京理科大学 永野正行氏による発表では、関東・関西14棟の超高層マンションで得られた、東日本大震災時の強震記録の分析結果について述べられました。研究対象のマンションは、関東平野・大阪平野の真ん中にほとんど集中しており、そのすべてに地震計が入っているそうです。

永野氏の発表では、これら超高層マンションでの、2011年3月11日の揺れ・固有周期などの変化・剛性(地震の力による変形に対する抵抗の度合い)変化、そして首都圏における強震記録に基づく長周期地震動分布との対応についての研究結果が述べられました。

地震には、さまざまな周期の揺れが混ざっており、建物の揺れ方や室内の被害、居住者の体感にも多大な影響を与えます。

関東エリアの超高層マンションでは、最上階・中間階・最下階によって揺れ幅が異なり、最上階に行くほどその揺れ幅が大きくなることが報告されました。

【層間変形角ってなに?】地震で揺れた際に、建物が傾く度合いのことです。

また、マンションの耐震性能を評価する指標として利用される「最大層間変形角」は、地震で揺れた際に建物が傾く角度を指すもので、極稀に発生する地震時の数値として「1/100」以下が目安となっています。

この「最大層間変形角」について、3月11日の平均的な値を計算したところ、関東地域では1/170程度、関西地域では1/500程度という結果となり、関東地域の超高層マンションの揺れが大きかったことを示しました。

さらに同じ東京地域でも、湾岸部に立地するマンションの揺れは大きく、立地条件によって揺れ方が異なることが調査データでも証明されました。

居住者アンケートにより判明した、階数・立地による被害状況の差異


居住者アンケート調査、室内被害と強震記録/東京大学 肥田剛典氏

東京大学 肥田剛典氏による、超高層マンションの居住者アンケートと強震記録との対応についての発表が行われました。

約1,000戸の居住者アンケートの結果から見受けられた特長は以下のようなものでした。
・ 全般的な揺れの体感や行動難度・不安度は、高層階の居住者ほど高い。
・ 家具の移動・転倒は、高層階ほど高い。
・ 低層階ほど壁紙などの内装材の亀裂が多かった。

また、3月11日の本震時には、東京湾沿岸部のマンションの揺れが大きく、内陸部よりも大きかったことがわかりました。こうした調査結果を聞くと、改めてマンションの高層階では特に室内の地震対策を入念に行う必要があるということがわかります。

マンション・ラボで実施した「室内の地震対策(家具固定)に関するアンケート」では、家具や家電を固定していないマンション居住者は46%。実に半数近くの方がまだ家具固定などを行っていないのがわかります。その理由も、「固定が面倒だから」「どこまで必要か不明」というもので、超高層住宅の地震観測結果からその必要性があることを、もっと広く一般に知らせていかなければならないと痛感しました。

気象庁による「長周期地震動階級(4階級)」の策定

超高層マンションの被害調査、地震情報による対策等/気象庁地震火山部 相澤幸治氏

気象庁では、通常の震度表示だけでは収まらない超高層建物の揺れを「長周期地震動階級(4階級)」として策定しました。これは、高層ビルなどでの地震後の防災対応支援を図るため、長周期地震動による高層ビル内での被害発生の可能性などについてお知らせする観測情報を提供するものです。現在は試行版ですが、気象庁のHPで確認することができます。

超高層マンションでは、高層階の被害と中層・低層階の揺れ方が異なるという話をよく伺います。震度だけでは表すことのできない揺れの実感や被害が増えています。

気象庁で全国11,000名を対象にインターネット調査を実施したところ、長周期地震動への関心は約7割と、高いニーズがあることがわかりました。

また、どうやってこれら長周期地震動の情報を得たいのかという質問には、以下のような回答が得られました(複数回答)。

① テレビから情報を得たい74%
② 携帯電話などの緊急速報メールから得たい48%
③ マンションなどの館内放送から得たい30%

現在は試行的に実施されていますが、より長周期地震動による室内の揺れについての明確な情報の精度が高まり、今後「予報」として提供されていけば、マンション居住者にとっても役立つにちがいありません。大いに期待したいものです。

▼ 長周期地震動階級関連解説表 高層ビルにおける人の体感・行動、室内の状況等(気象庁HPより)

気象庁 長周期地震動に関する観測情報(試行)
http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/ltpgm/index.html
※上記情報の掲載は、当面の間、試行的に実施されていますので、ご利用にあたってはご留意ください。

長周期地震動により超高層マンションで何が起こるのかを理解する

東日本大震災の被害調査等からの室内安全対策について/東京消防庁 水村一明氏

東京消防庁によると、ほとんどの地震で負傷した人の3〜5割が室内での被害だそうです。地震の度に家具類の転倒や落下による事故が発生しているということは、自助がまだまだ徹底されていないと痛感させられます。

東日本大震災時で、都内の緊急搬送数は195件でしたが、原因の第1位は転倒・落下物による負傷、第2位は本人の転倒によるものでした。出火原因も、電気ストーブや白熱灯スタンドの転倒によるもの、高層建物では配電用変圧器の問題によるものも多かったそうです。

また、自販機の移動や、ホテルの部屋で液晶テレビが落下により出入口を塞いで避難できなかったという事例もあり、室内で避難時に出入口を確保できるように、防災に配慮した室内配置が大切だということがわかります。

さらに慌てて避難して階段から落ちて怪我をした負傷者、マンションではスロッシング(地震動による水槽の内部から破損される現象)による浴槽からの水漏れ、高層階の防火戸の閉鎖なども、集合住宅のヒアリングなどから報告されています。
これら事例を数多く共有して、長周期地震動によって超高層マンションにどういうことが発生するのかをよく知り、室内安全の徹底を図ることが大切です。

動特性分析、個別建物のシミュレーション解析

超高層マンションの動特性分析/京都大学 上林宏敏氏。強震記録に基づき、RC造・S造の関東・関西の建物の建物剛性を比較発表されました。

建物の記録分析とシミュレーション解析/戸田建設 山本健史氏。今後もシミュレーション解析モデルの精度を高め、被災後の躯体が健全であるかどうかがすぐに判明する「即時損傷評価システム」の開発を推進したいという、建設会社からの立場での発表でした。

建物の記録分析とシミュレーション解析/鴻池組 井川望氏。4つのマンションでの地震観測記録から、観測値と解析値を比較。今後の解析結果の精度を高めるための取り組みを紹介されました。

次の大地震への備え

次の大地震への備え/東京理科大学 北村春幸氏。

最後に、超高層建物の耐震分野で国内第一人者である東京理科大学 北村春幸氏による講演が行われました。

建物の耐震性能は地震によって変わりつつあります。これからの建物に求められるのは、耐震性のみならず、人命保護・財産保全・機能維持であり、被災後も使い続けることができる安全で安心な建物です。

日本建築構造技術者協会が進めるJSCA性能メニュー(耐震性能グレード)では、特級・上級・基準級とグレードが設定されており、大地震後の建物の状態や再使用判定などが規定されています。さらに今後の耐震設計には、特定の周波帯への対応も必要となってくるでしょう。

大地震への次の備えでは、被災後の時系列のシナリオづくりとその対応策の実施、そして、関東平野・大阪平野・濃尾平野などの平野部で発生する長周期地震動のモデル化が急務です。揺れの時間と周期は、土地の特性によって変わってくるために、各平野でのモデル化が必要となってきます。

また、超高層マンションでは、被災直後の避難にも使用できる高耐震エレベーターの導入、被災度判定による備え、被災判定の仕組みづくりも考えられます。

たとえば、マンションの構造内に設置されている耐震ダンパーの損傷は、外側からすぐに掌握できません。しかしあらかじめ、損傷を受けやすい箇所に外側からチェックできる小窓を設けておけば確認も早く済みます。これからのマンションは、いかに素早く損傷チェックをして、そのまま住めるかどうかがわかる被災判定を視野に入れた設計が必要となってくるはずだという北村氏。確かに、被災後のマンションの安全性確認がいち早くできれば、マンション内被災生活も安心してできますね。

また、住民も自分のマンションの耐震強度を知らない場合もあり、情報共有がなされていないことも多く、安心して自宅避難するためにもこうした情報共有が課題です。

最後に、社会への啓発が重要であるため、長周期地震への対応の啓蒙、起震車体験を始めとした防災訓練、防災マニュアルの整備などの活動が必須であると指摘されました。
いま新宿では、三菱地所レジデンスによる60階建て超高層マンションの建設計画が進んでいます。今後も、「超高層集合住宅地震観測合同研究会」の調査研究により、超高層マンションで取り組むべき具体的方策を議論し、安心安全な超高層マンションづくりを推進していただければと思います。

高層階の揺れを体験する地震ザブトンやアンケート発表も同時開催

フォーラムでは、ホール前のホワイエで白山工業とつなぐネットコミュニケーションズによる共同展示を開催していました。

白山工業は、「地震ザブトン」と「計測地震防災システム VissQ-Pro」について展示。「地震ザブトン」による超高層マンションの揺れ体験では、真夜中に地震が発生したという想定で“目隠しバージョン”を選ぶこともでき、リアルすぎる怖さに驚く体験者が大勢いました。

「計測地震防災システム VissQ-Pro」は、7〜8階ごとに設置した地震計を用いて、超高層建物の揺れ(変位・加速度・震度など)を地震の最中にリアルタイムで見える化するシステム。発災中の対応に役立つだけでなく、揺れが止まった直後には被災度判定支援を行い、管理者が数値根拠をもとに利用者へ建物が安全かどうか分かりやすく説明できるもの。ぜひ、マンションでも活用したい防災システムでした。

地震ザブトン
http://www.hakusan.co.jp/zabuton/

VissQ-Pro
http://www.hakusan.co.jp/products/bosai/keisoku_jishinbosai.shtml

つなぐネットコミュニケーションズは、マンションの防災訓練支援で提供しているパネルの展示で、室内の被害を軽減する啓蒙活動の内容を紹介。
マンション・ラボも、以前行った「首都直下地震・南海トラフ地震などの巨大地震に対する意識調査」を展示したほか、2014年5月5日早朝に発生した「伊豆大島近海の地震に関するマンション住民に対するアンケートリサーチ結果」を来場者に配布しました。

都内で震度5弱を観測した伊豆大島近海の地震の際に、ほとんどの方が「そのままじっとしていた」と回答し、頭を守ったり隠れたりするという避難行動ができていないことや、地震後の防災対策についても、「特に何もしていない」と回答した方が9割以上もいるといった、大地震への不安を感じる一方で、どこか根拠のない安心感がマンション居住者の間に蔓延している危険性をお伝えしました。

地震研究の専門家による最新の研究と、マンション居住者のリアルな状況とが、どこかでうまくクロスして、これからの防災活動に役立てられることがあるとよいですね。


超高層マンションにおける長周期地震動の研究は、着実に進んでいるようです。これからはこうした専門的な情報を、マンション居住者もいち早くキャッチして、積極的に防災に関わっていきたいものです。マンション・ラボでもこうした情報を皆様にお伝えしていきたいと思います。

2014/12/15