[エストニア共和国・タリンのマンションライフ] “バルト海のシリコンバレー”は、街中でIT完備

タリンってどんな街?

「タリン」という名前を聞いても、多くの人はどこの国の都市かわからないのではないでしょうか。この街はロシアに接したバルト三国のひとつ、エストニア共和国の首都なのです。第二次世界大戦後、ソ連の一部に組み込まれましたが、1991年に独立を果たしました。

郊外にある「歌の原」は、独立を象徴する特別な広場です。なぜならここは、独立運動のきっかけになった場所なのです。長い歴史のあるソング・フェスティバルに独立前のあるとき、約30万もの人々が集まり、当時禁止されていたエストニア民謡を高らかに歌い上げました。それがエストニア独立運動のきっかけとなったのです。それ以後も5年に一度、ここで伝統の祭典が開催され、数万人が集まって合唱し、独立の喜びを分かち合います。

「歌の原」で5年に一度開催される祭典の様子。集まった人々がステージにのぼるが、人が多すぎてあふれてしまう。(C) Shutterstock

祭典にはエストニア各地やバルト三国の他の国からも、民族衣装を身にまとった歌い手たちが集まってくる。(C) Shutterstock

現在のタリンは、“バルト海のシリコンバレー”とよばれるほどIT産業で発展を遂げています。例えば、インターネット電話サービス『Skype』はタリン生まれ。政府が主導して市内のインターネット環境の整備も進んでいます。

市内のインターネット環境の整備も進んでいますから、街のいたるところで無線LANが無料で使えます。さらに、国民の7割以上が身分証明書となるIDカードを持っていて、それを使ってWeb上で住民登録や土地の登記、投票ができる、最先端テクノロジーが駆使された街なんです。

首都タリンに限らず、国内のいたる所で「@(インターネット可)」マークが出迎えてくれる。

その一方、旧市街地区はユネスコの世界遺産に登録されるほど、伝統的な建築物が数多く残っています。とくに、13世紀にデンマークの北方十字軍によって建てられた「トームペア城」は、この街の語源(タリンはエストニア語で「デンマーク人の城」)となった建物。現在は政府の議事堂となっているため一般には入れませんが、親しみやすく優しく装飾された正面と昔ながらの重層な佇まいを残した石造りの姿は、ちょうど最先端技術と長い歴史が共存する街タリンのイメージそのものです。

タリンの語源となった「トームペア城」。正面は淡いピンクに装飾され、裏側には昔ながらの石組み。13世紀の砦が起源になり、18世紀末まで何度も繰り返された改修で現在の姿となった。(C) Shutterstock

マンション、お宅拝見!

今回ご紹介するのは、4階建ての低層マンション。数年前に購入しました。世界遺産になった旧市街の建物とは違って、再独立後の自由な空気のなかで建てられた居心地のよさは、明るい外装にもはっきりと現れています。

旧市街から少し離れたところに建てられた新しいマンション。旧ソ連時代の建物とは違って明るく遊び心を取り入れたデザインだ。

広めのリビングルームにダイニングとキッチン、ベッドルームが2つにバスルーム、ランドリールーム、そしてサウナがあります。私たちの暮らしにサウナは欠かせません。ですから、マンションを選ぶとき、サウナの性能は必ず確認する項目。世界的には、サウナというとフィンランドが有名ですね。じつは、エストニアとフィンランドは同じ起源をもつ国といってもよい存在で、同じルーツをもつ民族です。だから、サウナ文化を含めた生活習慣はほとんど同じなんです。

写真左)はじめて自分たちで購入した家だけに、リビングはずいぶんこだわって念入りに仕上げてもらったという。冬の長い国なので、花や緑を積極的に取り込んでいる。写真右)マンションの住居用として一般的なサウナ。多くのマンションでは、住居用のほか共用部にもサウナをもつ。

冬になると最低気温がマイナス30度を下回ることもある。ベッドルームも温かい雰囲気づくりにこだわった。

旧市街や独立前の古いマンションでは、購入時、大々的にリノベーションすることが普通です。でも、私たちの住んでいるような新しい物件では、購入後に大きく直す人はあまりないようです。一般的なマンションの共用部は、サウナと駐車場くらいですね。

写真左)こだわりのテーブルコーディネートで客を迎えるのが大好きという奥さまの趣味が活かされたもうひとつのテーブル。 写真右)シックな色調のバスルーム。冬の厳しい国だけに専用のスチームが用意されていて、ゆったりとしたバスタイムが楽しめる。

私が住んでいる地区では、紙とビン、缶、ペットボトルを分別する決まりです。自分の部屋で分別して決められたところへ持って行くと、決まった日に市のクルマが集めにやってきます。また、地区によって分別のルールはまちまちです。各住居の扉は電子ロックつきですが、最独立後は治安がずいぶん良くなったので、それほど厳重なセキュリティではありません。

管理組合の集まりは半年に1度です。住民全員が集まって、共用部の使い方やゴミの出し方などを話し合います。全体のセキュリティや共用部の管理は、マンション管理会社に任せているのですが、その選択も重要な議題になります。

タリンのマンション事情

タリンのマンションは大きく3つに分けられます。1つ目は、私たちの住んでいるような新しいマンション。これはエストニアが独立後に建設された物件です。とくに最近の物件では、共用設備が比較的充実しているところも多くなっているようです。

共用部のサウナに備えられた、身体を冷やすための水浴プール。地方ではサウナから直接外に駆けだして、家の前の海や湖に飛び込む人もいる。

2つ目は、旧ソ連時代に建てられたマンション。10階以上の中層建築で、何の変哲もないコンクリートの外観が特徴です。当時、住宅は政府から支給されるもので、市民が自由に引っ越すことはできませんでした。ラスナマエという行政地区には、いまでもソ連時代に建設されたマンション群が残っています。このマンションはエストニア系の人たちには人気がなく、おもにロシア系の人たちが住んでいます。ただ、最近はこういったマンションを大きくリノベーションして暮らす人も増えているようです。

3つ目は、それ以前に建てられた古い建築。多くは旧市街にあり、13世紀頃に建てられたものも残っています。歴史的な価値もあるため、分譲価格はとても高価です。内装は近代的にリノベーションしてありますが、改装にいろいろな制限が多く、住むには不便な点もあります。ですから、こうしたマンションに住んでいるのは、昔からの住民やアンティークが大好きな人ですね。

ただ、どのマンションにも共通しているのは、インターネットの環境面は完璧という点。個人が契約しているのも無線LANが主流で、タリンに住んでいる以上、よほどへんぴな場所でなければネットがつながらないことはありえません。いまではパソコンより、スマートフォンやタブレットのほうが主流になっています。

【ライター】ペーター・エルパート
エストニアの再独立を機にアメリカから帰国。この国の再発展をつぶさにみてきただけに、タリン生まれではないとはいえ、この街への愛情は誰よりも強いという。

※掲載情報は原稿作製時のものです。
※ライターの自宅マンションというプライベート空間を撮影する関係上、ライター自身で撮影を行っています。一部見にくい写真もございますが、ご了承ください。

2013/10/24