“終の棲家”選びはいつからがベスト?~シニアのマンションライフを考える~

自分が年老いたとき、どんな暮らし方をしたいかイメージできていますか?

いまは元気だけれど、病気になったとき、このままマンションに住み続けられるのか?それとも高齢者向けマンションを選ぶべきか?

老後の暮らしに不安は尽きません。シニアの住宅選びのアドバイザー岡本弘子さんに、シニアのマンション暮らしについて伺いました。

シニア暮らしの研究所 代表 岡本弘子さん

高齢者住宅選びのアドバイザー。1万件以上の入居相談・紹介業務の経験を生かして新聞・情報誌等の取材や執筆をはじめ、年200回以上の顧客・機関・事業者等に向けた高齢者住宅セミナーで講演。2012年1月より入居相談室を開設。徹底した対面相談で入居者本位の住まい選びをサポートする。
URL:http://shinia-kurashi.jp/
住所:大阪府大阪市中央区北浜1−9−10 北浜宗田ビル207号

“終の棲家”について具体的に考えたことはありますか?

・年老いて自分の体力が衰えてきたとき
・年老いた親がいま住んでいるマンションで住み続けることに自信がなくなったとき
・夫または妻が亡くなってシニアになってから一人暮らしを余儀なくされたとき
・病気になったり介護が必要になったとき

さまざまな状況に陥ったとき、“終の棲家”として、シニア向けサービス付きマンションや老人ホームといった選択肢も考えられます。

とはいえ、どれを選べばいいのか? シニアご本人やご家族も迷うことが多いはず。

シニアの暮らし研究所の代表である岡本弘子さんは、こうした高齢期の住まいの相談に1万件以上も応じてきた、いわばシニアの住まい選びのプロフェッショナルです。

「一人でも多くのシニアに満足のいく住み替えをしていただきたい」とアドバイスに熱心な岡本先生。相談者の立場に立った真摯な姿勢が好評です。

「シニアの方々は、なかなかお子さんに本音を相談できない方が多いですね。お子さんも『うちの親は大丈夫』と思い込みがちで客観的に考えられません。

親は子どもに迷惑をかけたくないから、元気なうちに“終の棲家”を選びたいと思っているのに、子どもはまだ大丈夫という。自分が元気なうちは子どもに反対され、具合が悪くなると子どもの世話になり、やがて施設に入れられてしまうという不幸なすれ違いの事例も多くみかけます」

シニアの住宅選びには、家族の理解が必要ですが、最終的には自分の決断を信じることが大切だと岡本さんはアドバイスします。

「不安は尽きませんが、進むことが大切です。」

住み替えのライフデザインを

では、シニアの住み替えはいつがベストタイミングなのでしょうか?

「体力も気力も満ちている60代がベストでしょうね。住み替えには、お金も必要ですが、体力が必要です。60代なら新環境に慣れるための精神的な順応力もまだまだあります。

もちろん最初に購入した住み慣れた家が“終の棲家”となるのが理想ですが、子育て時にファミリー向けマンションで暮らしていた時代とは異なり、シニアになると夫婦二人または一人暮らしになり、ライフスタイルも変わります」
「ご相談を伺うのは対面相談が基本です。偏りのない情報収集と提供を心がけています」とのこと。相談から決定までに、1年以上かかることもざらにあるそうです。

とはいえどこから手をつけたらいいのか迷うシニアも多いはず。
岡本さんは、「まず自分で計画を描くことです」とおっしゃいます。

「ご相談に見えるシニアの方には、“ポジティブにご自分のライフデザインを考えましょう!”とお話するんです。

今までの暮らしを振り返り、どんなことをやりたいのか、何を続けたいのか、どこにいたいのか? リストに書き出してみると自分の希望が見えますし、不安も解消できます。

そのリストで、どんな住宅が必要なのか、条件設定もできます」

ご自分の希望を遠慮してはっきり口に出さないシニアの方も多いため、岡本さんが心がけているのは、常に具体的な質問で相手のニーズを引き出すことだそうです。

「老後の3大問題は、身体介護、認知症、病気です。個々のニーズはさまざまですが、やはりシニアは、3大問題に直面したときに暮らしを支える部分=サービスにこだわられます。

できる限り自分の生活を維持できる環境も必要ですが、サービスなどのソフトが備わった“終の棲家”をお選びになります。私たちは、そのソフト部分が本当にご希望に沿ったものなのかどうかを客観的に判断するサポートを行っています。」

いま住んでいるマンションが、シニアにやさしいマンションになるアイデア

その人の状況によって、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなどと、老後の住まいの選択肢はいろいろ増えてきました。でも、何かしらのサポートを受けながら、シニアになってもいま住んでいるマンションに住み続けるためのアイデアはないのでしょうか?

「もちろんいま住んでいるマンションに住み続けられるのが理想です。シニアの方が希望するサービスを、たとえばマンション内で提供する試みがあれば可能でしょうね。

関西ではすでに、マンションの共有部にケアマネージャーのいる介護事業所、修理の専門家、管理防災センターなどを併設している大規模マンション事例もあります。

介護事業所をマンションに誘致して賃貸収入を得ながら居住者がサービスを受けるというプランも、大型マンションならば採算がとれるのではないでしょうか。管理組合がマンションの空き住戸を購入して、託児所や介護事業所などの外部のサービスを招聘するのです。

管理組合が、居住者の生活支援を行っていけば、コミュニティの共助・互助になり、安心して暮らしていけますよね」

マンションの管理組合が生活支援サービスを誘致・導入していけば、いま住んでいるマンションが、シニアにやさしいマンションとして生まれ変わる可能性もある訳ですね。

「マンション居住者のライフスタイルも変化しています。マンションの管理組合、引いては管理会社やデベロッパーも、いつも同じことばかりしていてはダメでしょう。

マンション暮らしの現状を調査し、“マンション暮らしのマーケティング”を行いつつ、本当に求められているマンションのソフトづくりに取り組んでいかないと、実情に合ったマンションづくりはできません。皆が、高齢化社会に向けて、やわらかな発想を持っていかないと」

近すぎず遠すぎず、マンションから丁度いい距離感のお喋りの場を!

実生活でもマンション居住者で、数多くのマンションや施設を見てきた岡本さん。付加されているソフトや施設が、居住者の視線に合致していない事例も見てきたそうです。

たとえば共有部に大きい共同浴場がついているけれど、同じマンションに住んでいる他人に自分の裸を見られたくないからあまり利用されなかったという事例など、マンション居住者同士の距離感の取り方の難しさを指摘されます。

「同じ屋根の下というマンションでは、たとえばシニア向けイベントを開催したとしても、近すぎるからこそ参加しにくいというシニアの心理が働きます。お元気なシニアであればあるほどそうです。

だからマンション内ではなく、少しだけ近くに、独居シニアのお喋りの場があるといいですね。マンションに住む独居シニアは、交流する場がなく閉じこもりがちです。外に出かけても若者の集うカフェばかりで、シニアが集える喫茶店がありません。

マンションの共有部分やエントランスでお喋りすることも、人目を気にする心理が働きます。ゆっくり気兼ねなくお喋りできる場が、現代のシニアにはないんです」

誰かの家を訪れてお喋りするのも双方の負担になるので、ホームパーティなどで互いのマンションを行き来するのも、シニアの場合には敬遠されがちだとか。

岡本さんは、「シニアの目線に立った、本人が参加したいと思うイベントでなければ、押しつけにしか過ぎない」と指摘します。

困ったときは近くの友達!岡本さん流「シニアライフ近居のススメ」

いま住んでいるマンションで、シニアライフを快適に過ごす。しかし、そのままマンションに住み続けている独居シニアは、一人で閉じこもりがちで人との交流がほとんどない場合が多く、刺激のない生活が認知症やうつ症状を招くことにもなります。

この点については、岡本さんはどうお考えでしょうか?

「私も同じマンション内の違うフロアに母を呼び寄せて住んでいます。ただ、シニアのマンション暮らしはあまり高層階じゃない方がいいですね。高層階はどうしても外出が億劫になりがちですし、防災面でも不安です。住み替えでマンションを選ぶなら、外に出やすい低層階を選ぶようにアドバイスしています」

そんな岡本さんがアドバイスするのが「近居のススメ」。

「住み替えるにしても、同じマンションに住み続けるにしても、近くに誰か頼れる人が多くいる場所がいいですね。
親戚でも友達でも、新しくできたお友達でも、誰でもいいんです。

利害関係のないお友達がたくさん「近居」しているのがベストですね。食材のお裾分けやお土産の受け渡し、いい病院を教えてもらえるなど、なにかと行き来や情報交換ができるお友達が近くに住んでいる。それだけでも心強いし、安心ですね」

近居の輪があって、ときどきそういう関係の人が集える場が、マンションの外にあれば理想的なのかもしれません。

近くに住む友達や知り合いのネットワークをいかに持っているか?
そしてそんなネットワークが集える場があるか?
これらが、シニアのマンションライフの鍵といえそうです。

コミュニティも互助・共助に活用する

「私が一番苦手なのが“地域コミュニティ”とか“楽しく生活しましょう”という、いわゆる形だけ立派で実体が伴っていない言葉なんです。やはり、きちんと地に足が付いていないと。

お稽古事や趣味の関係も、時間制のコミュニケーションで、地縁の関係性とも違います。人と人との関わりが深い根っこにある、そんな関係性を育むサポートや仕掛けをいかに行えるかです。専門家がその枠組み部分だけでもサポートして、互助・共助の仕組みを構築していかないと。

そのためにも、さきほども申し上げた“マンション暮らしのマーケティング”をしっかり行い、マンションに暮らすシニア層が本当に欲するサービスを提供していくのが大切なのではないでしょうか?」


シニアの住み替え相談で数多くのニーズや本音を訊いてらっしゃった岡本さん。マンションライフのアドバイスもシニアの実情を配慮したものばかりでした。何より、シニアの心理を知るための“マンション暮らしのマーケティング”は、いま最も求められているものなのではないでしょうか。

最後に、「“終の棲家”をプランし始めるのはいつ頃からがよいですか?」という質問には、「40才からが理想ですね。老後の資金計画を立て直し、生活習慣病にならないための健康管理を始めましょう。幸せな老後のためには60代までの20年が肝心です」と岡本さん。

この言葉に奮起したマンション・ラボの編集部員は、岡本さんの取材が終わった瞬間に、「いままで吸っていた煙草をやめる!」と、持っていたタバコをすべてゴミ箱に捨てましたよ(笑)。

ポジティブにシニアライフを応援する岡本さんのアドバイス力の凄さを感じました。

2013/07/23