前代未聞のセルフビルド建築、沢田マンションが今の時代に問うこと。

建物の中を歩いていると、気づくことがいくつもあります。例えば、緑が驚くほど多いこと。スロープ沿いで柿が実り、4階で松が伸びやかに枝を張り、そこかしこで季節の花が咲く。よく見ると、各階の外壁部分には土が盛られ、ひと続きの花壇になっています。

この花壇は住民が好きに使えるようになっていて、草花を植えるだけでなく家庭菜園として利用する人もいます。何階に住んでいても1階で暮らすような環境を提供したい。その思いが大がかりな花壇を設置する動機になったそう。

今でこそ積極的に取り入れられる屋上緑化のルーツがここに

“何階でも1階のような暮らし”を最も体現しているのが、5階にある沢田家の住居でした。建物の頑丈さには自信があるから、と最上階に居を構えた沢田さん。敷地はおよそ100坪あるのですが、庭には何種類もの樹木が茂り、ニワトリが元気に走り回っています。外に目をやれば、眼下に高知市街地を望む素晴らしい眺望。その眺めがなければ、5階だとはとても思えません。

庭には屋上へ続く螺旋階段が設置されています。屋上にも、やはり驚きがありました。そこは沢田家の家庭菜園。いえ、約60坪もあるのですから、立派な農園です。栽培するのはお米や季節の野菜など。そもそもの発想が、断熱のために土を敷き田畑を造ったといいます。今でこそ屋上緑化は各地で積極的に取り入れられていますが、沢田マンションは1970年代半ばからこのスタイル。自分のマンションにも、こんな屋上があったら……。つい、そんなことを考えてしまいます。

すべての部屋が異なる間取り短期滞在用に貸し出す部屋も

沢田マンションは長屋的な造り、といわれます。その理由は、一風変わったベランダの設計にありました。通常マンションはプライバシーに配慮し、ベランダも戸別に板などで仕切るもの。ところが、沢田マンションのベランダには仕切りがなく、まるで廊下のよう。自由に行き来が可能なのです。そのため、カーテンを開けていれば誰に室内を覗かれても文句が言えないのですが、逆にオープンであるのはコミュニケーションをとりやすいことでもあります。これは、老人の入居者を念頭に置き、沢田さんが敢えて意図したこと。ここでは、時に隣人の顔さえ知らないマンションとは異なる連帯意識が住人の中で生まれているようです。

居住空間の設計も、実に独創的です。いくつか部屋を覗かせていただいたところ、同じ間取りはありませんでした。聞けば、すべての住居が異なる間取りだといいます。どうせ自分たちでやるのだから、と沢田さんが1室ごと考えながら造ったのだとか。ちなみに、完成当初は全部で85室あったそう。その後、スロープを造るために部屋を潰したり、小さな2部屋を改築して1室にしたりして、総数は減り現在に至ります。

利用法としては賃貸住宅とテナントのほか、ウィークリーマンションとして短期滞在の宿とする部屋も。マンションとしてはあまりない発想ですが、都心部でも立地条件によれば空室の有効活用になる可能性もあります。

今回、沢田マンションの中を歩いていると、改装中の部屋がありました。沢田一家が木材を切り、玄関を建て付け、黙々と働いています。建物自体の大きさはもう変わりませんが、内部は今も変化を遂げています。沢田マンション、まだまだ進化中。時代と共に変われる柔軟性があるのも、魅力のひとつかもしれません。

沢田マンション・データ

5階建て/総戸数68
賃料 2万円~5万円
敷金1カ月/礼金なし
※入居後は、改装をしなければ賃料も据え置き
※マンション内で引っ越す場合は、賃料の高い部屋へ移る時、差額分が敷金になる

次のページでは、沢田マンションを建てた沢田裕江さんに、マンション建設時や現在の活動まで、詳しくお話しをお聞きします。

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2012/12/12