本と図書館から始めるマンションのコミュニティづくり③~西国図書室~

第3回目は、自宅の一部を地域に図書室として開放している「西国図書室」を紹介します。プライベートゾーンとパブリックゾーンが共存している住まい方にはどんな楽しみがあるのでしょうか?

西国図書室

2012年1月にスタート。本好きのご夫婦が、元洋装店だった一戸建てに引っ越したのを機に、1階の一部を私設図書館「西国図書室」として地域に開放している。“本が旅する”をコンセプトに、「西国図書室」に預けた自分のお気に入りの本が、借りたい人のもとを転々と旅していくというユニークな仕組みの図書室。

西国図書室
N9.5
http://www.n95.jp/project/nishikoku-tosho/
Facebookページ
https://www.facebook.com/nishikokutosho/

本がいろいろな人の手元に旅して、感想を携えて戻ってくる

「西国図書室」室長の篠原靖弘さん。この日も本を返しに来た人が!

西国分寺から住宅街へ入ったところに、ガラスの入り口の「西国図書室」はあります。

がらっと引き戸を開けると上がり框の奥に、本棚と本が積み重ねられた部屋が見えます。ここが「西国図書室」のスペースです。なんだか親戚の家を訪れたような懐かしさとあたたかさがあります。

「西国図書室」の本は、篠原さんと奥様の知花里華さんの蔵書と、ここを訪れて自分の本を旅させている人の蔵書とが並べられています。

こちらは、旅待ち中の本たちのコーナー。これからどんな人のもとへ旅立つのでしょうか。

図書室のメンバーは、気に入った本や読んで貰いたい本を持ち寄り、おすすめのポイントや旅をさせる期間などの細かな事項を「本籍証」に書き込み、本の後ろにつけてもらいます。それから後は、本はまさしく誰かの手元から手元へと旅をして、その感想を「旅の記録」に書き込んでもらい、さまざまな感想を携えて、期間が終了したら持ち主の元へ戻されます。

「西国図書室」にいる間に、その本はどんな旅をしてきたのか、どんな人がどんな感想を持ったのかは、「旅の記録」に綴られているのです。読んだ人の感想が履歴となって一緒に読み継がれていく。これもまた本を媒介にした新しいコミュニケーションのかたちです。

本が旅する「西国図書室」の仕組み。持ち寄った本と同じ数だけ本を借りることができます。

「旅先での出会いがたくさん詰まった本が3年後、戻ってくるとしたらワクワクしませんか?」

同じ本2冊がある場合、借りる人は、持ち主が「本籍証」に書いたコメントを読んで、どちらを借りるか決めていくのだそうです。なんとなくその気持ち、わかりますね。

自宅を図書室として開くことについて

篠原さんたちは、自宅を図書室として地域に開くことに抵抗はなかったのでしょうか?

篠原さん「もともと結婚前には、築150年の古民家のシェアハウス“松陰コモンズ”に住んでいたのですが、そこでは20畳ほどの広間を常に開かれた場所として使っていました。結婚後は別のシェアハウスに暮らしていたのですが、二人で住む場所を探し始めた時にも、住み開きができるものがいいなと考えて探しました」

篠原さんは「家って町とつながっていたほうがきっといい」という直感に従って家探しをしていたそうです。そうして見つかった家が、昔洋装店として使っていた一戸建て。1階の一部を、図書室として住み開きすることにしました。

最初は友達に声をかけて、それからは徐々に知らない人も訪れるようになっていきました。訪れる人は、30〜40代、中央線沿線に住んでいる人がほとんど。国分寺に実家がある現在徳島在住の人は、3ヶ月に1度帰省する度に「西国図書室」を訪れるという人もいるそうです。

プライベートな自宅とパブリックな図書室の区分けは明確にされているのでしょうか?

篠原さん「開館時間内は図書室として開放していますから、その時間内はパブリックですね。もちろん奥の台所や二階のプライベートの空間にどかどかと入り込んでくる人もいなくて、皆さんの方でも、どこか人の家にお邪魔しているという感覚でいらっしゃるようです。

僕は一人で本を読んで過ごすのが好きなので、お客さんが来ても来なくても同じように、日曜日のこの時間はここで本を読んで過ごします。もちろん、そこに人が来てくれることは大歓迎です。住み開きを目的として、人を集めなくちゃとかいう風になると大変なことになると思います。自然に人が来る雰囲気にして、来なければそれでもいい。でもいつも同じ日にこの場所を開けていることが大切なんだなと、この頃強く思うようになりました。」

伺ったこの日にも、顔なじみの会員がぽつりぽつりとやってらっしゃいました。一緒にテーブルを囲むと、初対面でも気軽にお話できるのも、本好きという共通項目があるせいかもしれません。

篠原さん「夫婦二人の住まいの中に、いかに他の人の風を入れることができるかというのが、住み開きのテーマみたいなものだったのですが、この場を図書室と名乗ったことで、訪れる人に図書室を訪れているのだという気持ちが生まれ、うまく作用しているような気がします。
新しい土地に二人で引っ越してきて知り合いがいなかったのに、図書室を始めたことで、いまでは地元の新しい友人がたくさん生まれました」

「西国図書室」は、西国分寺のクルミドコーヒーやパン屋さんなどに分室を展開。地域に本が旅していく仕組みを広げています。さらに国分寺市にブックタウンの提案を行い、この夏には3回の連続講座ワークショップを開催しました。ワークショップには毎回、学生からシニアに至るまでの本好きの人が30名ほど集まったとのこと。さらにその参加者で「国分寺ブックフェスティバル」を企画することになりました。

11月には、「国分寺ブックフェスティバル」を2日間開催。自宅の図書室が、どんどん街を「本」の力で変えていこうとしています。ここにも、本の持つ力強い可能性を感じます。

2014年11月に開催された「国分寺ブックフェスティバル」。

フェスティバルでは、本好きの地域の人たちが参加。一箱古本市、ビブリオバトル、絵本の料理を食べよう、みんなでつくる物語(写真左)、クイズコーナー盲本道(写真右)など、本を楽しむ企画が数多く催されました。

「絵本の読みきかせと絵本の料理をたべよう♪」では、絵本に出てくるホットケーキやおむすびをその場で子どもたちに食べてもらったそうです。

国分寺ブックタウンプロジェクト
https://www.facebook.com/kokubunjibooktown

マンションで「西国図書室」のような開かれた場を設けることは可能でしょうか?

篠原さん「うちに来る会員さんの中で、マンションのお祭りのときに自分の本を置いて交換会をやってみたという人がいらっしゃいました。やってみたら、知らない住民に声をかけられたり、話が弾んだりしておもしろかったっておっしゃっていましたね。『国分寺ブックタウンプロジェクト』でもマンションにお住まいの方が、ご自宅の一角を使ってブックバーをやろうというアイデアも提案されました。いろいろと可能性はあるのではないでしょうか。

まず僕達のように、マンションの自分の部屋で友達同士から始めてみるのもいいかもしれないし、一箱古本市のように段ボール一箱に本を詰めてブックチェンジを呼びかけてもいいかもしれません。オートロックだから無理ということはなくて、何かやり方があると思いますね」

自宅の一部を図書室として開放することから始まった、本と人とのつながり。その輪はどんどん広がって、まちぐるみの取り組みになっていったのです。やはり本には、コミュニティを楽しくしていく力があるにちがいありません。

【西国図書室の魅力のポイント】

●毎週日曜日に開館、場を続けていく
開館情報はFacebookページで告知。いつも決まった日に開いている場を続けていくことが、人が集まるコミュニティスペースとしては大切な要素です。

●もちより図書室
みんなが持ち寄った本で図書室ができあがっています。新たに本を購入するのではなく、どうしてこの本がいいのかという背景を「本籍証」に持った本が集まっていることで特別な愛着ある本になっています。

●本が旅して、コミュニケーションの媒介役となっている
「旅の記録」に借りた人が感想を書き込んでいくことで、知らない人同士の気持ちがつながります。いつか出会ったときに本を媒介にしたコミュニケーションが弾むはずです。

●本の可能性の実験室である
「国分寺ブックタウンプロジェクト」の連続講座ワークショップや「国分寺ブックフェスティバル」というまちぐるみのイベントに展開。「西国図書室」という場から、人と街とがつながって、さまざまな可能性を生み出しています。

●地域通貨の活用
2年前から始まった、国分寺で流通している「地域通貨ぶんじ」に参加。ちょっとしたお手伝いのお礼に使ったり、メッセージカード替わりに使ったりして、地域で流通する仕組みを備えています。


自宅を図書室として住み開きする「西国図書室」。本と人が集まって、ゆっくりと、しかし確かなつながりを生み出しているようです。こんな図書室が街のあちこちにあったら、地域はもっと楽しくなるはず。マンションでも、取り入れたい仕組みやアイデアがいっぱいでした。次回最終回は、マンションや団地でも民間図書館を開設している「情報ステーション」の取り組みについてご紹介します。

2015/01/22