本と図書館から始めるマンションのコミュニティづくり①~まちライブラリー~

芝生の上で、個人の家で、みんなの思いが図書館の場になる

礒井さんは、「まちライブラリー」をやりたいという人達の話を聞き、その人や場所に合ったやりかたをアドバイスします。また、貸し借りのルールや運用方法も、自分達のやりやすいように委ねているそうです。

たとえば子育て中の主婦からの「場所がないけれどやってみたい」という相談には、近所の公園の芝生の上で本を持ち寄ってやってみたらとアドバイス。不定期に近所の公園に出現する「グラスまちライブラリー」は、新聞やテレビにも取り上げられて話題となりました。

「グラスまちライブラリー」第1回ピクニック×ライブラリーの様子。公園の芝生に本を持ち寄ってのんびり過ごすまちライブラリーです。

グラスまちライブラリー
http://grassmachilibrary.tumblr.com/

礒井さん「昨年秋には、新聞で活動を知った高橋さんという方から、亡くなった奥様が遺された2,000冊ほどの植物関係の本を活用して自宅を図書館にしたいというご相談を受けました。それならば一緒にやりましょう!とボランティアと一緒に何度か訪れて、本の整理や登録、本棚に並べる作業を行いました。最終的には奥様の名前を冠した『高橋春江文庫』として完成。作業を進めるうちに、寡黙な高橋さんがボランティアとの交流で徐々に元気になっていかれたのが印象的でしたね」

「高橋春江文庫」が徐々に出来上がっていく様子。

高橋さんの手作りカレーを囲む礒井さんやボランティアスタッフ。

「READY FOR?」に掲載された、「高橋春江文庫」をつくる過程
https://readyfor.jp/projects/microlibrary2014/announcements/12514

礒井さんご自身も、大阪にある実家ビルで「ISまちライブラリー」を現実的に実践しておられます。「IS」はISOIの名前からとりました。会員が持ち寄った蔵書約4,000冊のライブラリーは、有償会員が書斎やシェアオフィスとして使用するとともに、ワンデーメンバー登録により誰でも利用することができます。

また、毎月第3土曜日には、「本と人とバルの日」を開催。本と手作り料理とドリンクを楽しむイベントで交流を深めます。初めての参加者といつもの参加者が、だいたい半々くらいの割合で集まり、関心事のコミュニティが出来上がっているようです。

礒井さん「『本と人とバルの日』には、みんなが本を持ってきてそれぞれ本を紹介しあいます。カタリスト(語る人)と呼ぶ人に、何かのテーマで喋ってもらい、そこから食事とお酒のバルタイムにつながっていき、本と食を媒介にすることで、どんどん話が弾んでいきます」

吉野の杉で作られた本棚や机のウッドゾーン。最初は、何もない空き室だった部屋に木を持ち込み、近所の人や仲間と一緒に本箱づくりをするところから始めたそうです。

ISまちライブラリー
http://is-library.jp

個人のやりたいという思いが原動力となって、まさに十人十色の「まちライブラリー」という場ができあがり、人の交流が活発になっているのがわかります。こういう場が、マンションにもあればとてもおもしろい交流の場となりそうです。

大切なのは器ではなく、やりたいという思い。

礒井さん「マンションもそうですが、“コミュニティ”という場には、面倒なことも多いんです。ゴミ処理、騒音、公共、扶助など、生活の上での必然性が伴いますから。ある意味、そういう場は“コミュニティルーム”とでも呼べばいいのかもしれません。

一方、人々が関心や趣味で共感してつながる“ソサエティルーム”のような場もある。『まちライブラリー』のように、図書館でつながる人たちがいる場がまさにそうですね。そこでは、仕事や役職、所属グループなどの属性的なバックグラウンドはまったく関係なく、個人同士がゆるやかでフラットなつながりを構築していきます。

現代は、そうした“ソサエティルーム”と“コミュニティルーム”がハイブリッドになった場が必要なのかもしれません。いわば“コミュニティ”と“ソサエティ”のいいとこどりですね(笑)」

礒井さんは、いろいろな“コミュニティ+ソサエティ”がレイヤー構造で重なっていると、世の中はもっとおもしろくなっていくのではないかと言います。
では、「まちライブラリー」のような場をマンション内で設けることは実現可能でしょうか?

礒井さん「個人図書館は、マンションの“ソサエティルーム”の器として非常に向いています。人と人とが、自然発生的につながっていきやすい仕組みですから。ただ、まず使用ルールをつくろうとか、本棚をどこに何個つくろういとかいうフレームワークから始めると失敗しやすいでしょう。立派な本棚と本だけが集まって出来上がっても、人は集まりません。人が集まる雰囲気になるのは、空気感が心地いいとか、そこに人がいるからなんですね」

では、マンションで「まちライブラリー」のような場を開くにはどうしたらいいのでしょうか?

礒井さん「まず、人の“思い”ありきでスタートすることが重要です。いきなりマンションの管理組合で図書館がコミュニティづくりにいいからという理由でやろうとすると、このマンションでやる価値があるのか、管理規約はどうするのか、と言い出す人が出てきそうです。それではきっとうまくいきません。まず、おもしろいからやってみようと共感した人数名で集まって、個人で気軽に始めてみたらどうでしょう? 誰かのリビングに集まってもいいし、庭に集まってもいいじゃないですか。そこからだんだん人数が多くなっていけば、賛同者も増え、じゃあ集会室を借りようとか、段階的に発展していけるのではないでしょうか」

マンション内に有志を集めて、図書館づくりの下地を築き上げていけば、だんだんと仲間が増えていき、マンション内に「まちライブラリー」のような、本を媒介にした交流の場が増えていく。そんなやり方もあるのかもしれませんね。

さらに、マンションの図書館が将来的に地域の人とも交流していく場になっていけば、マンション自体の価値も上がっていくのではないかと、礒井さんは言います。有志から始めるマンション内個人図書館づくり。本との出会いの場が、次第にマンション内の仲間づくりにつながっていけば、理想的ですね。

まちライブラリーの魅力ポイント

●始めたい気持ちからすぐにスタートできる
「まちライブラリー」は、始めたい!と思った人がすぐに始められる仕組み。そこに本棚がなくても、すぐ始められるのが魅力です。

●メッセージをつけた本がつながりを生む
本に付けた「みんなの感想カード」に読後のメッセージを書き込んで、また次の人がそのメッセージをきっかけに手に取るという、本が媒介になってつながりが生まれます。

●一緒に学びあってご縁づくりができる「まち塾」
そこに集う身近な人から学び合う勉強会やイベント「まち塾」が、あちこちの「まちライブラリー」で開催されています。学び合いからご縁ができる学縁活動が活発なのも特長のひとつです。

●何のためにやるのか、目的を明確にする
明確な目的を持っていないと持続できません。また、「まち塾」のようにテーマを持って互いに学びあえる場があればさらに目的意識が高まります。

●ルールや道具に振り回されない
本棚や使用ルールなど外側から構築するのではなく、やりたいという「思い」から始めるのが一番。最初は本棚や常設の場がなくても、段ボール箱や月に一度のイベントから始めてみてもいいのかもしれません。

書籍『本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた』

礒井さんの新刊が発売中です。ぜひ個人図書館つくりの参考にしてみてくださいね。

学芸出版社ページ『本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた』
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1345-0.htm
四六判・184頁・定価 本体1800円+税

カフェやオフィス、個人宅から、病院にお寺、アウトドアまで、さまざまな場所にある本棚に人が集い、メッセージ付きの本を通じて自分を表現し、人と交流する、みんなでつくる図書館「まちライブラリー」。その提唱者が、まちライブラリーの誕生と広がり、個人の思いと本が織りなす交流の場の持つ無限の可能性をお伝えします。

次回は、個人図書館づくりを楽しくする仕組みを提供する「リブライズ」の活動を紹介します。「すべての本棚を図書館に」という野望を掲げるその取り組みとはどんなものでしょうか?

2015/01/08