600世帯の高層マンションの超・ご近所コミュニティに学ぶ交流&カイゼン術

写真提供:峰脇英樹

都心の高層マンションにコミュニティがないとよくいわれます。しかしその定説を覆すような、超・ご近所コミュニティを育んでいる高層マンションがあります。しかもコミュニティ誕生の鍵は、アイデアマンのリーダーとそれを実行する理事会メンバーによる交流アイデアと積極的な暮らしカイゼン活動にありました。

入居から1年で50回以上の交流イベントを実施!

エントランスを入ると、高級ホテルのロビーのような雰囲気です。

プラウドタワー東雲キャナルコートは、2012年12月に竣工されたマンションです。都会的でクールな外観とは裏腹に、エントランス内で出会った住民が挨拶や立ち話をしている和やかな様子があちこちで見られます。

【プラウドタワー東雲キャナルコート】東京都江東区の52階・地下2階建て600戸の高層タワーマンション。2012年12月竣工。ゲストルーム、ラウンジ、キッズルーム、フロントサービス、AVルーム、スポーツジム、空中庭園などの共有施設が充実。

副島理事長がエントランスに姿を現すと、遊んでいた子どもたちが「あ、理事長だ!」「副島さんだー」と自然と声がでるようなフレンドリーな雰囲気です。

世帯数600戸の大規模マンションで、入居後1年間の間に実施された交流イベントは50回。毎月4〜5回のイベントを実施しているそうです。

だからこんな風にみんなが声をかけあうコミュニティができあがっているのでしょうか。しかしどうすればこんなに多くのイベントを開催できるのでしょう?

プラウドタワー東雲キャナルコートの副島理事長と理事の馬場さんにお話を伺いました。

副島理事長(写真左)と理事の馬場さん(写真右)。

まずどのような交流イベントを開催してこられたのかについて伺いました。

「2013年4月に入居してから、理事に立候補し、理事会のメンバーと一緒にこれまで行ってきた交流イベントは、あいさつ大会、プロカメラマンによる家族写真撮影、県人会、ママたちのしゃべくり会、防災訓練など、本当に多岐にわたります。これも入念に考えた計画によるものなのです」と副島理事長。

開催イベントの一部をご紹介します。

住まい関連でヨコにつなぐイベント

【あいさつ大会】

入居後1ヶ月目に行った住民同士の顔合わせイベント。合計280世帯720名が集まりました。 写真提供:プラウドタワー東雲キャナルコート

【防災訓練】

今年5月に行われた防災訓練では、なんと住民の60%にあたる370世帯が参加。 写真提供:峰脇英樹

趣味や関心事でタテにつなぐイベント

【プロカメラマンによる家族写真撮影会】

住民のプロカメラマンによる家族写真撮影会。ロビーの一角で撮影。 写真提供:プラウドタワー東雲キャナルコート管理組合

【子育てママのしゃべくり会】

同じ年代の子育てをしているママと知り合いたい。そんなママの願いから実施。 写真提供:プラウドタワー東雲キャナルコート管理組合

プロの技術を安く提供するプラウド商店街は大人気です。他にもこんなイベントがあります。ラフターヨガ/プリザーブドフラワーアレンジメント/夏の美容と健康の説明会/食空間コーディネイターによるホームパーティレッスン/まつげエクステとネイルのお姫様コース

これら交流イベントはすべて管理組合で企画・実施されているそうです。
またこの夏には1階カフェラウンジが、プロのシェフが提供するスペースに生まれ変わったばかり。オープニングイベントは、完全入れ替え制のビュッフェ形式でおいしいイタリア料理の食べ放題。大人にも子どもにも大人気だったそうです。

カフェでのビュッフェ風景 写真提供:峰脇英樹

ここがポイント!住民をヨコ軸とタテ軸とで結ぶ交流イベント

「あいさつ大会」や「防災訓練」が住民同士を、ヨコ軸でつなげる住まい関連のイベントとすると、「県人会」や「ママのしゃべくり会」は嗜好や興味にあわせて住民同士をタテ軸でつなぐイベント。タテ軸とヨコ軸のイベント計画によって、縦横無尽に住民同士をつなごうという意図があるそうです。これは真似したいポイントですね。

大切なのは、ふだんから声をかけて情報収集すること

各種イベントの講師となるプロのネイルアーティストやカメラマンなどは、すべて住民の方々ばかり。マンションに住むさまざまな人材リソースをうまく活用されています。

「いつも屋上で眺望写真を撮影している住民がいるので、声をかけてみたらプロのカメラマンの方でした。そこからなにか一緒にできることはないかなと考えて思いついたのが家族写真撮影会です。入居したばかりだから、年賀状で新しい住所を知らせたいご家族もたくさんいるだろうと思って限定80組で募集してみたらアッと言う間に満員御礼でした。」と副島理事長。

最近入居された方が、映画でも活躍するプロのネイルアーティストだったので、女性向けの美容イベントを企画。「まつげエクステとネイルのお姫様コース」は、エクステとネイルの同時施術でお姫様気分を味わるという、女性心をくすぐる内容です。こうした美容イベントは、参加者同士のお喋りも楽しみのひとつ。また、同じ住民同士だからということで協力していただけることが、マンションならではの強み。実費だけで安価に提供している点が、人気の秘訣です。

本業は経営コンサルタントの副島理事長。常にアンテナを張っていろいろな人と会話する仕事が、理事会運営でもどんどん発揮されているようです。

「コンサルティングの仕事でもそうですが、大切なのは一人ひとりの声を丁寧に聞くことです。子育てママに会ったら、どんなことがしてほしいのか、ニーズを聞いてそれを具現化します。それからイベントを企画したら、『こんなんやるから来てね〜!』とさりげなくアナウンスをすることでしょうか。メールやチラシを貼ったから告知がおしまい、ではないですね。住民は一緒に暮らしている仲間なんですから、声かけはすごく大切ですよ。」と副島理事長。

ここがポイント!常に声かけして情報収集&活動に反映する

副島理事長は、住民との立ち話も情報収集の場として捉え、隠れたニーズやリソースを発掘していきます。理事会の場で出てこない本音や、こんなことを企画したらみんなが喜ぶのではないかという隠れたニーズは、実はマンション内の立ち話から生まれているのかもしれません。住民との立ち話は、コミュニティ形成のためのアイデアの宝庫。どんどん住民と話して、情報収集や視野を広げておくことが大切ですね。

3.11以降、みんなが結びつきを求めていたこともひとつの要因

この1年でほぼやれることはすべてやったという副島理事長と馬場さん。順風満帆なように見えますが、「いえいえ、日々悩みだらけですよ」とも。
そもそもここまで活発なコミュニティ活動が生まれたきっかけは何なのでしょうか?

「このマンションは東日本大震災後初の湾岸地区に建設された大規模タワー型マンションということで世間的にも注目を浴びていました。住民たち自身も、防災意識やコミュニティの必要性を実感してこのマンションを選んだはずです」と馬場さん。

「蓋を開けてみれば、理事会21名定員のうちなんと18名が自ら立候補してきた理事なんですよ。僕もむろんその一人です」と副島理事長。

副島理事長は、以前新浦安のマンションに住んでいたそうです。3.11の際には大きな被害はなかったものの、同じフロアに11世帯いるが両隣以外は顔も名前も知らないという状況に愕然となったそうです。今度住むマンションでは、コミュニティをつくる担い手になろうと強く決意されました。

「理事に立候補した人たちの動機はさまざまでしょうが、コミュニティをつくろうという意識が高いメンバーが揃いました」と副島理事長。

理事会メンバーは30代男性が多く、50代の副島理事長がさまざまなアイデアを出して、他のメンバーがブラッシュアップして、具体化して仕上げていくという流れができているそうです。

「入居前に理事を決める集まりでも、副島さんはGジャンを着て関西弁ですごく目立っていましたね。理事会では、アイデアマンの副島理事長が突っ走っていくのを、僕たち他の理事がときにストッパーとなりつつ(笑)、やりたい人が手を上げて実現していくんです」と馬場さんは笑いながら言います。

「副島さんは、自分で会社を営んでいる人だから、僕たちのようにまわりの意見を気にして発言を控えがちな会社員発想ではないんですね。その点も勉強になりますし、実はもっと積極的に関われば変わるんだということがわかりました」と馬場さん。

まもなく初代の理事会メンバーでの任期が終わりますが、後継者育成にもぬかりはなく、「県人会」などの交流イベントの場で、次期理事の人材スカウトも行っているそうです。交流イベントの場は、さまざまな意味での出会いの場として活用されているのですね。

ここがポイント!理事会の仲間づくり

コミュニティ活動に意識の高い仲間を集めるのは難しいことですが、一人でもいいから一緒にできそうな人を見つけることが、きっかけになりそうです。自分がまずリーダーとなってアイデアをだしてみて、それに賛同してくれる仲間を一人ずつ集める努力をしたいですね。

マンションの住みやすさは、自分たちでカイゼンしていくもの

副島さんたち理事は、交流イベントだけでなく、共有部分の改革にもどんどん着手しています。たとえば利用率の悪かったAVルームに、メーカーを招いてカラオケを導入。当初はカラオケに反対していた住民もいたそうですが、安価で利用できるカラオケが入ったことによってAVルームの利用率がアップ。3ヶ月の試験期間ののち、売上が30倍、利用者数が100倍になったため、総会で本格導入を議決しました。きちんと数値データをとって、みんなが納得する情報を提示するのも、理事会運営では大切なことです。

しかし理事の皆さんは、マンションのためにかなりの時間を費やしているような気がします。理事の仕事は、ときに負担にならないのでしょうか?

「自分たちのマンションが住みやすくなるんですから。特別なことをやっている訳ではありません。自分のマンションのためにやることだから、資産価値向上になり損する訳じゃありませんよね。互いの顔も知っているから、他の人に喜んでもらえればこちらも嬉しいですし」と副島理事長。

馬場さんも「コミットすればするほどおもしろいということがわかってきましたね。たとえば他の理事も、カフェの変革にかなりコミットしてがんばってきた人もいます。みんな労力を惜しまずに真剣に取り組めばできるということがわかってきておもしろくなっているところです」と、日々の手応えを感じている様子です。

ここがポイント!住みやすく変えていくというカイゼン意識が大切

理事会活動は、住民からの不満解消の場になっていることが多いものです。問題点があったらマイナスからプラスに変えていく。継続的に日々の作業の見直しを行うトヨタの「カイゼン」方式は有名ですが、理事の仕事も、そんな意識で、自分たちで住みやすくマンションを変えていくのだという気持ちが大切なのではないでしょうか。

年間50回のイベント開催に、1円の管理費も使っていない

マンション1階のボードに貼り出された告知イベントなどの情報共有の数々。

年間50回のイベントによるコミュニティ力アップの効果はすごいことですが、その予算はどうなっているのでしょうか。

「年に3回の全体イベントだけは、コミュニティ形成費を使っていますが、頻繁に行っている交流イベントの費用は管理費からは一切だしていません。共有施設の改革で生み出した利益や材料の実費だけでまかなっています。講師の方はさきほど申し上げたとおり、住民のボランティアですから。」

住民リソースを活用し、実費だけで安価に参加費を抑えていることによって、お値打ち感のある魅力的なイベントになっているようです。またイベントを充分に楽しめるよう、きちんと定員の枠を設けて設計している点も見逃せません。どのイベントも、先着順ですぐ定員に達してしまうそうです。

普通のマンションでも年に数回のイベントが行われていますが、それとはどう違うのでしょうか?

「自分が参加したい!と思える魅力だと思います。普通のマンションでは、コミュニティ形成費を取って、季節に絡めた餅つきやクリスマスなどの年3回程度のイベントをやっていますが、こんな程度の回数と企画では、同じ映画館で居合わせた観客と同じです。互いに知ろうとする気持ちも機会もなく、映画が終わったらまたバラバラの生活に戻っていく。さらにその映画の内容も毎年同じ内容だったりするでしょう。これではコミュニティをつくる努力をしているとはいえませんよ」と副島理事長。

ここがポイント!住民活用でお金をかけない・魅力的な企画を両立

マンションの人材リソースの活用、魅力溢れる企画力、お金をかけない工夫が、3つのポイントといえそうです。たとえばプロがいなくても、得意な分野や趣味を持つ住民の力を借りれば、さまざまな交流イベントが企画できそうです。企画に自信がない場合は、住民アンケートでニーズを探ったり、時には外部の業者の手助けを借りたりしてみてはどうでしょうか。

言い出しっぺを支える仲間、「理事会を休みたくないんです!」

一年間の交流イベントにより、コミュニティをつくる基礎固めができてきたというプラウドタワー東雲キャナルコート。いろいろな企画が次々とヒットし、住民から認められてきたことで、理事会のメンバーの自信や手応えにつながってきました。

「理事の仕事は楽しいことばかりではありません。でも、少なからず実績を積みあげることによる手応えが原動力になるんです」と副島理事長。

「毎月第3土曜日の理事会だけは休みたくないんですよ。一度仕事の徹夜明けに出席したら、休養が優先だと副島さんに言われて家に返されそうになったこともあります(笑)。理事会にはさまざまな業種の人が集まっていて、何でも言える理事会の雰囲気が基本ですから、とても勉強になります。それにいつも笑いも絶えませんね」と馬場さん。

アイデアをどんどんだす言い出しっぺの副島理事長と、それをサポートする実行力ある理事会メンバー。コミュニティを支えるメンバーが良好な関係を築き上げているからこそ、マンション全体で素晴らしいコミュニティが育まれているのでしょう。

「うちのマンションだけが特別な訳ではありません。若い人を取り込む仕掛けや仕組みづくりさえうまく行えば、誰もができるはず」と言う副島理事長は、現在、この1年間の理事会運営で培ってきたノウハウや事例をまとめた指南書的書籍を執筆中だそうです。来年早々には出版されるそうですので楽しみに待ちたいですね。


「やればできる!」、プラウドタワー東雲キャナルコートの活動を伺うと、そんな気持ちになって元気をもらえた気がします。コミュニティづくりは、一人ひとりの良好な人間関係からスタートするもの。皆さんも、できる部分から何か交流イベントを始めてみてはいかがでしょうか?

2014/09/11