世界でいちばんあたたかなホテル、サンセルフホテルのおもてなし力

生活の場をアートに変える!現代美術家 北澤潤さんの錬金術

サンセルフホテルというアートプロジェクトの仕掛け人は、現代美術家の北澤潤さん。以前マンション・ラボでもご紹介した、町に突然居間をつくりだす「リビングルーム」も、北澤さんが考案したプロジェクトの一つ。

日常の中に突然非日常を生み出す手法で、生活空間の場そのものをアートに変えてしまう、興味深いアプローチを行っている作家の方です。当日も、ホテルマンの一人として、忙しく動き回っていらっしゃいました。

そもそもサンセルフホテルを思いついたきっかけは何なのでしょうか?

北澤氏「どのプロジェクトもそうなのですが、最初の構想を練るときは、地域に住んでいる方々と、地域に元々ある要素が関わりあうことで、新しい『風景』をつくれないかと1人で頭をひねり続けます。単なる見た目だけの『景観』ではなく、人の営みが含まれた新しい『風景』を、です。

井野団地をリサーチしながら目をつけた地域の要素というのは、団地の画一的な『部屋』と、団地に降り注ぐ『太陽』でした。この2つをキーワードにして、考え続けた果てに、『サンセルフホテル』というプロジェクトが生まれました。リサーチしながらこの構想をまとめるまでに約2年ほどかかっています。

はじめて井野団地の自治会の方々にこのプロジェクトの説明をさせていただいた時、意味不明と突き放すのではなく、何だか不思議だけど面白そうね、とみなさんワクワクしてくれました。その時にやっとこのプロジェクトはうまくいくなと確信しましたね」。

サンセルフホテルの一室から眺める井野団地の風景。

ゲストの部屋の一泊分の電力は、蓄電した電気でまかなわれます。

プロジェクトは、ホテルマン募集の呼びかけに集まった方々が、毎週土曜日「いこいーの+Tappino」で、ソーラーワゴンづくりや、おもてなしのアイデア出しなどのホテルマン活動を重ねて少しずつ進行していきました。
特に宿泊客のための部屋づくりは、アメニティや座布団、インテリアの雰囲気を細部にわたるまで丁寧にみんなでつくりあげていったそうです。

サンセルフホテルプロジェクトの醍醐味は、この住民参加・住民主導でひとつの場をつくりあげていくことでしょう。これはマンションコミュニティの場づくりでも真似たい部分ですが、みんなが楽しく場づくりに関わるために、何か仕掛けはあるのでしょうか?

北澤氏「それは、プロジェクトの構想段階でいろいろと丁寧に見えない部分を設計しているのですが、一言でいうと“アートの力”でしょうか。アートプロジェクトは「答え」を提示するのではなく、「問い」を投げかけることができるんです。答えがないからこそ、まだ見ぬものをつくろうという一体感が生まれてくるのだと思います」。

当日に向けた半年の準備期間に、ホテルマンの皆さんはさまざまなワークショップを行ってきたといいます。たとえばアイデア会議では、宿泊する部屋にこんなものがあるといい、こんなルームサービスがいいと、ホテルマンそれぞれがアイデアを出し合ったそうです。

宿泊する部屋には、子どもホテルマンが描いたオリジナルのマンガシリーズが。

2月に行われた「サンセルフホテルとは何なのか?―アート、建築、演劇、環境、コミュニティデザインから読み解く」と題されたシンポジウムの中で、東京藝術大学の熊倉純子教授が、「北澤さんは皆さんの妄想のスイッチを入れるのが上手。世の中に既に存在しているなんらかの役割みたいなものを、参加してくださった一般の方々が自ら発見して、それを演じることに面白味を見いだしていく。そしてそれを真剣に実現するというタイプのアーティストなんです」と評されていました。

みんなが一緒にサンセルフホテルというひとつのプロジェクトをつくっていく。そのプロセスには、活動に関わる一人ひとりが何かを創造したいと願う、強い磁場があるようです。

参加した人が自発的に行動していくのは、北澤さんのリビングルームプロジェクトでも同様でした。しかし、こんなにも多彩な年代がホテルマンとして参加されていますが、その秘訣はあるのでしょうか?

北澤氏「高齢層、中年齢層、低年齢層と、歳で世代を区切る考え方がありますが、高齢層だからみんな同じ趣味や関心事を持っている訳ではありません。映画が好きな人もいれば、歌謡曲が好きな人もいる。人の個性は、マーケティング的な年代で区分けできるものではない、複雑なものです。

そして、正解のない、見たことのない風景をつくりあげていくサンセルフホテルのようなアートプロジェクトは、人の好奇心や創造性を引き出し、横に重なって考えられがちな世代構造を、タテに一本柱のように貫くことができるのです。世代も関係なく、さまざまな人の心に響く、それがアートの力なのだと思いますね」。

確かに、コミュニティのアクティビティでも、高齢者は演歌や民謡が好きだから歌を、子育てママには絵本の読み聞かせを、というようなスタイルは、短絡的すぎるのかもしれません。多世代が住まう集合住宅のコミュニティでは、世代を超えて人の心を魅了するアートの力を借りることも、ひとつの鍵となるのかもしれませんね。

北澤さんは、「マンションでも、空き室やゲストルームを利用してサンセルフホテルを出現させることができると思いますよ。きっとまた、井野団地とは異なるサンセルフホテルができあがるにちがいありません」とおっしゃっていました。あなたのマンションでも、もしかしたらサンセルフホテルをつくることができるかもしれません。

いろいろな可能性を感じるサンセルフホテルは、まず体験してみることが一番です。第4回目サンセルフホテル井野団地は、9月13日〜14日に出現予定。7月4日までホームページで宿泊予約を受付中です。興味のある方は、ぜひ申し込んでみてはいかがでしょうか?

SUN SELF HOTEL
http://www.sunselfhotel.com

井野団地ホテルマン日記
http://sunselfhotel.com/blog/

取手アートプロジェクト
http://www.toride-ap.gr.jp

「シンポジウム「サンセルフホテルとは何なのか?―アート、建築、演劇、環境、コミュニティデザインから読み解く」イベントレポート」
http://www.toride-ap.gr.jp/danchi/kitazawa_ssh/?p=1816

夜に団地やマンションの灯りを見ていると、ひとつひとつの窓ごとに、ひとつひとつの家庭があるんだなと感じます。団地の中はどんな部屋? どんな家族が住んでいるの? そして、もしそこに一夜だけ泊まれるとしたら? コミュニティのあたたかみを感じるサンセルフホテル井野団地は、新たなかたちのコミュニティの実験のように感じました。

2014/06/27