マンションと近隣をつなげる!たぬき村のコミュニティガーデン作り

世田谷区・砧の住宅街に、「たぬき村」と名付けられた築30年・全12戸の古いマンションがある。ここでは、住民が集まるコミュニティガーデンを中心に、菜園やツリーハウス、コモンルームでのイベント開催など、グリーン・コミュニケーションとでも呼べるユニークなコミュニティ活動が活発に行われている。その「たぬき村」の住民であり、活動団体「まくびと」の代表である矢田陽介さんに、コミュニティづくりについてお話を伺った。

世田谷・砧(きぬた)の「たぬき村」誕生のきっかけ

大きな木々が茂る庭付き戸建てが多く並ぶ住宅街にあるマンション「たぬき村」。砧(きぬた)のたぬき村はアナグラムでもあるが、縄張り争いをすることのない「たぬき」にあやかったネーミングだそう。

パーマカルチャーへの関心とその実現

一級造園施工管理技士である矢田氏は、マンションオーナーの娘さんと知人だった関係で、それまで荒れ放題だったマンションの庭の手入れをきっかけに、このマンションに移り住み、彼がテーマとする「パーマカルチャー」の実践の場として関わっていくようになる。

「パーマカルチャーとは、百年先の未来まで持続可能な次世代型のライフスタイルをデザインすることです。たとえば太陽や水などの自然エネルギーを積極的に活用し、廃棄されるものは再利用して、環境負荷の少ない循環型の暮らしを実現することがそうです。さらに健康促進や地域コミュニティに貢献することまで、幅広く、自然の生産力と人間の文化とが融合したシステム作りをおこなします。もともと私自身が以前からコミュニティ・デザインに関心があったこともあり、たぬき村では、“都市の中のコミュニティガーデン”をテーマに、ソーラパネル、コンポストトイレ、雨水タンクといったものを取り入れて、自然と人と地域とがつながる場づくりを計画し、みんなを巻き込みながら取り組んでいきたいと考えています」

パーマカルチャー

パーマネント(持続的・永久の)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)の3つの言葉を組みあわせたもの。オーストラリアで体系化された実践的な学問。生態系が持つ多様な生産力を活用して、持続可能な環境をつくりだそうとする取り組み。

自然に寄り添った暮らしを模索するコミュニティガーデンの構想を語る「たぬき村」リーダーの矢田氏。

実際このプロジェクトは、地域に暮らす人々が主体となって取り組む活動を応援する「世田谷区まちづくりファンド」の助成を受けて進めていくことになる。冒頭の手書きのカラフルな「たぬき村」構想図は、その申請に用いたものだ。住民も含め、みんなでこんなことをしたい!という構想をひとつの絵に描きいれていった。

住民同士のつながり、コミュニティを深めるコツとは?

「たぬき村」は、全12戸のうち、コモンルームと呼ばれる共有スペースが2戸、残りの10戸に居住者がいる。居住者は30〜40代が主体で、矢田氏も顔なじみの居住者とお互いの部屋で飲んだり食べたりといった親しい交流があるという。はじめは、皆が皆、友達という訳ではなく、パーマカルチャーへの関心もなかったが、徐々に交流する場を設けて顔をつないで親しくなり、時間をかけて構想を伝えていくことで、現在のような交流が育まれた。

「まだ、計画に居住者全員を巻き込めてはいませんが、みんなを巻き込むためにはどうしたらいいのかを、常に考えています。私自身もここに住んでいる居住者ですから、顔見知りになって挨拶して、少しずつ段階を経てやっていきればと思っています。さらに居住者だけでなく、近隣の人たちをどんどん巻き込んでいきたいですね」と、矢田氏。

「たぬき村」のコミュニティガーデン構想は、マンションだけにとどまらず、近隣の人々をも巻き込んだ壮大なコミュニティ・デザインなのだ。

パブリックガーデン、ツリーハウス、コモンルーム

ハーブや小松菜などの菜園

通りからマンションの入り口に沿って、菜園スペースが設けられ、ハーブや野菜などが育てられている。自転車置き場にはブドウ棚、反対側の窓面にはゴーヤのグリーンカーテンが育成中だった。

マンション入口に沿って設けられた菜園スペース。裏庭ではなんと椎茸栽培も!

たぬき村の共有スペース「コモンルーム」では癒しのイベントが

現在「たぬき村」には、矢田氏の住むオフィス兼用のスペースと、イベントなどを行なう共用の部屋をあわせた、計2つの「コモンルーム」がある。ここを利用して、ヨガやお灸、マッサージ講座を一日時間割で開催する「たぬき村の保健室 オリエンテーション」や、新潟出身の「みよおばあちゃん」に越後の笹だんごづくりを学ぶ「みよちゃんプロジェクト」など、あたたかみある癒しのイベントが行われている。他にも、味噌造りや塩麹造りなど、オーガニックな食イベントなどもある。

さまざまなイベントを行うコモンスペース。キッチンもあり、かなり広い。

矢田さんがオフィスとして使用している部屋は、コモンルームとしてさまざまなイベントが催されている。皆が集まるリビングを囲む押し入れの扉は、なんと黒板。おもしろいアイデアだ。

「たぬき村」1階コーナー。防虫効果のあるハーブのポプリが籠に盛られて「ご自由にどうぞ」。なんだか宮沢賢治の家にある「下ノ畑ニ居リマス」と書かれた黒板を彷彿とさせる。

「たぬき村」の庭にある大きな木を利用して建築中のツリーハウス。現在、完成系を模索中のため、まず仮組みの竹で作ってみているという。

近隣の人を巻き込みたい!「たぬき村祭り」開催に向けて準備中

マンションと近隣とのグリーン・コミュニケーションの輪

矢田氏は、いかに住民や近隣の人たちを巻き込んでいけるかが大きなテーマだという。「たぬき村」の隣には、大きな庭に銀杏の木やハーブを育てる一戸建ての家があり、最近は造園師としてその庭作りに関わって親交を深めているという。

「近隣の戸建ての方々は、この地にずっとお住まいの人達なので、昔からのご近所づきあいのネットワークを持ってらっしゃいます。お隣のお家では、ビワや銀杏の木から採れた実を小袋で玄関先に置いて売ってらっしゃいますし、先日はお庭でハーブのイベントをやらせていだいたりしました。他にも、数軒先にはご自分の庭で畑をやっているおばあさんもいらっしゃるようです。砧の住宅街は、グリーンを通じてコミュニケーションを深めていくには理想的な立地なんです」と、矢田氏はグリーンを通じて地域コミュニティに溶け込んでいくのが嬉しそうだ。

11月には、近隣と交流する「たぬき祭り」を開催

来る11月24日(土)には、第一回「たぬき村祭り」を開催する予定だという。いったいどんなお祭りになるのだろうか?

「お祭りでは、マンションの住民だけでなく、近隣の人を招いて一緒に巻き込んで楽しめるように、いろいろなイベントを企画中です。たとえば、近所のおじいさんを講師に招いて子どもに竹細工づくりを教えてもったり、園芸好きのおばさんに苔玉の作り方を教えてもらったり、地域の人の知識や技術を学び教わりながら、いろんな年代の近隣の方々とのつながりを深めて、コミュニティガーデンづくりを進めていきたいなと考えています」

「たぬき村」という独自のコミュニティ活動を行うマンションを中心に、近隣の戸建ての住民とのつながりが、お祭りを通じて深まっていく。これは非常に興味深い、マンションコミュニティの新しいかたちといえる。地域のお祭りがない街でも、こんなオリジナルのお祭りを催して地域交流していく方法も考えられる。また、共有スペースとしてのガーデンづくりに居住者が関わることで、親交が深まると共に自分たちのマンションの庭を作っているという共同体意識も生まれそうだ。

コミュニティガーデンを中心に据えた、たぬき村のコミュニティ活動は、いろいろなタイプのマンションで参考にできる。皆さんも、コミュニティガーデンという視点で、マンションコミュニティを一度考え直してみてはいかがだろうか?

矢田陽介

ボタニカン代表。
一級造園施工管理技士。たぬき村住民。

「たぬき村」を拠点に活動するグループ「まくびと」を主催。都市にコミュニティガーデンをつくることをライフワークとして取り組む。

・ボタニカン http://www.botanican.jp

2012/10/30