多世代交流・子育て支援型の集合住宅 「湘南台チャンプハウス」の挑戦からみる、新たなマンションライフの可能性

神奈川県藤沢市。湘南台駅のすぐ近くに位置する12階建てのビル。その10階~12階部分に、全26戸のユニークなコミュニティハウスがある。名前は「湘南台チャンプハウス」。今年でオープン6年目を迎えるこの住まいは、多世代交流と子育て支援型のライフスタイルを実現するために計画された国内でも稀しい賃貸マンションだ。

核家族化が進み、地域コミュニティの絆が失われつつある今。人と人が助け合いながら楽しく暮らしていくために求められるものとは、いったい何か。今、マンションでも注目されているこれらの課題を解決するヒントを探るため、今回「湘南台チャンプハウス」の取り組みと今後の展望を伺った。

元気な成熟世代に、もっと生き甲斐を。多忙な子育て世代に、もっと安心を。「湘南台チャンプハウス」ができるまで。

全3フロア、26世帯が入居する「湘南台チャンプハウス」には、居住スペースのほかにさまざまな設備が備えられている。広々としたコミュニティスペースや、プロの保育士が常駐するキッズルーム(託児室)、会議や学習の場として利用できるアカデミー…など。このような設備を備えた賃貸マンションは、国内でもまだまだ稀な存在。2007年4月にオープンし、多世代交流や子育て支援を目指す賃貸マンションのパイオニアとなった「湘南台チャンプハウス」は、そもそもどんな背景や想いから生まれたのだろうか。

「湘南台チャンプハウス」を運営する株式会社チャンプハウス・代表取締役の山本儀子(やまもと・のりこ)さん

きっかけは今から14年前。1998年の任意団体「CHAMP」設立にまで遡る。

「『CHAMP』とはCross Hands Association of Mature Personsの頭文字を取った名称で、日本語に訳すと『成熟人が手をつなぐ会』。アメリカの現在3800万人もの会員を擁する世界最大の熟年者組織『AARP(全米退職者協会)』の理念に感銘を受けて日本で設立した任意団体です」。とは「CHAMP」の代表で「湘南台チャンプハウス」の実現にあたっても中心的な役割を果たした山本儀子さん。

アメリカで住宅関連の情報会社を経営し、長年にわたってアメリカと日本を行き来していた山本さんは、50歳以上の人々で構成される「AARP」が、それぞれ会員が持つ知識や経験を活かしながらボランティア活動や相互扶助・交流プログラムを展開していることに共感。元気な中高年たちが楽しく助け合いながら、自身のスキルを活かして社会貢献する場として「CHAMP」を設立したという。

「それまで日本で“シニア”といえば社会的弱者と思われがちでした。でも、実際にはまだまだ元気で活躍できる人が9割以上なんです。現在『CHAMP』の会員は200人ほど。それぞれの知識や経験を活かしながら「英語を共に学ぶ会」や「コーラスを楽しむ会」などの同好会や講演会を通して、様々な活動を行っています。この『湘南台チャンプハウス』構想も、『CHAMP』の活動会「成熟人の住まいを考える会」の成果として生まれしました」(山本さん)

「シニアが気軽に、安心して入居できる賃貸マンションがない」、そんな会員からの声をきっかけにスタートしたという「湘南台チャンプハウス」構想。元気な中高年が楽しく、社会貢献しながら生活する場という意義に加えて「子育て支援」というテーマが組み込まれた背景には、長年キャリアウーマンとして活躍してきた山本さんの想いがあった。

12階に備えられた保育施設『マーミーブー・チャンプ湘南台保育室』には、この日も小さなお子さんたちの姿が。住まいから徒歩0分の保育施設は、働く子育て世代にとって心強い存在

「現在でも待機児童の問題などが取り沙汰されていますが、世界各国の働く女性達を見てきて感じたのは、子育てと仕事の両立の難しさです。もし住んでいるところに子供を安心して預けられる託児室があれば、若い世代がキャリアを諦めることなく、楽しく子育てに取り組めるのではないかと思いました」(山本さん)

山本さんはこの後、「CHAMP」会員20名に株主になってもらい「株式会社チャンプハウス」を設立。2007年に「湘南台チャンプハウス」の実現にこぎ着けた。

コミュニティハウスならではの安心・安全が大きな魅力に。試行錯誤の末、たどり着いた現在地点。

多世代交流と子育て支援。ふたつの柱を持つコミュニティハウス「湘南台チャンプハウス」。全3フロアの最上階となる12階部分には、早朝から深夜まで利用できるキッズルームや、居住者同士が交流を楽しめるエントランスライブラリー、知識や経験の交換が行われるアカデミー、住人家族やチャンプ会員が宿泊可能な和室ゲストルームを備えたラウンジスペースや眺望抜群の屋外ウッドデッキなどの豊かなスペースがある。これらの空間を通じて4“成熟人”と“子育て家族”が交流を楽しむ。そんな理想像を描きながら「湘南台チャンプハウス」の歩みは始まったのだ。

0歳児~5歳児を対象とするキッズルームの保育時間は最大で7時~23時45分。プロの保育士による保育サービスが受けられるほか、子育て支援イベントなども行っている

ただし、すべてが計画通りに進んだわけではなかった。

「駅前という立地、新築で分譲マンション並の設備仕様、豊富なコミュニティスペースなどを備えた『湘南台チャンプハウス』の賃料水準は、周辺に比べて2万円~3万円ほど高額でした。そのため、目標としていた子育て世代の若い働く家族やシングルマザーの賃貸者は期待していたほど集まりませんでした。そこで、当初は就学前のお子さんがいる子育て世代に限定していた入居条件を取り払うことに。もともとの理想からすると、ある意味で妥協とも言えますが、どんな理想も施設自体が存続できなければ目標をかなえることはできませんから」(山本さん)

この判断が功を奏し、「湘南台チャンプハウス」は常にほぼ満室の状態になる。もともと湘南台は、慶應大学湘南藤沢キャンパスをはじめ、数多くの学校が点在する土地。地方からの学生や幅広い世代が集まっている。。その際に「湘南台チャンプハウス」の大きな魅力のひとつとなったのが、コミュニティハウスならではの安全性の高さだ。

「たとえば『湘南台チャンプハウス』には、ハウスマザーが一緒に住んでいます。彼女は普段の交流をサポートするだけでなく、万が一のトラブルや緊急時には、入居者の相談相手となり、必要なサポートも行っています。実際に、ストーカー被害にあった学生のお嬢さんに相談を受けたことや、急病に見舞われてしまった入居者の方と救急車に同乗したこともあります。特に地方から出てきている学生さんたちにとって、ハウスマザーは頼もしい存在。ご両親に感謝されることも多いんですよ」(山本さん)

ハウスマザーの役割は、マンションの管理員やコンシェルジュよりも、より一歩住民の側に立ったものだ。マンションではなかなか難しいかもしれないが、こうした役割を担う人がいるだけでも、居住者は、より安心で快適な暮らしができるのではないだろうか。

現在の「湘南台チャンプハウス」の入居者は、幼い子を持つ子育て世代が4世帯、シニアが3世帯。そのほか、大学生の兄妹や姉妹、小学生の子供を持つファミリー、単身の研究者など多彩な顔ぶれが暮らしている。設立当初の「“シニア”と“子育て世代”が助け合いながら暮らす住まい」という方針は、試行錯誤の末に変化しているが、ここには「安全」というコミュニティハウスならではのメリットが生まれているのだ。

住民同士の交流や地域との関わり方。「湘南台チャンプハウス」が見据える未来とは。

会議や講座などに利用できるアカデミーでは、チャンプの様々な活動会を開いたり、。パソコン教室の会場として利用する地元会員もいる

幼い子供から、大学生、そしてシニア。幅広い世代が暮らす『湘南台チャンプハウス』だが、山本さんは向こう数年のうちに、設立当初に思い描いた“シニア”と“子育て世代”を中心としたコミュニティハウスへの軌道修正を図っていきたいと話す。

また、楽しく、入居者が支え合いながら暮らせる生活空間を実現するために、現在もさまざまな試みを続けている。

たとえば地域との関わり方もそのひとつだ。設立当初は入居者限定のクローズドな空間だったコミュニティスペースやアカデミーだが、現在はチャンプの輪が広がるにつれて地元の人々の利用も増えているという。

「入居者と地域の橋渡しをするという意味でも、地元の資源として『湘南台チャンプハウス』を活用してほしいと思っています。ただし、セキュリティ上の問題もあるので、不特定多数の人が無制限に入れるというわけではありません。『CHAMP』の趣意に賛同していただき、会員になって頂いた地元の方に利用して頂いています。たとえば、アカデミーでパソコン教室を開かれる方もいますし、ラウンジでコンサートを開く地元のコーラスグループも。そのほか、地元の眼科医や小児科医のお医者さま講座も好評でしたね。地元の方々に利用して頂けるおかげで、コミュニティスペースが少しずつ活性化している手応えはありますね」(山本さん)

「湘南台チャンプハウス」の内廊下に備えられたエントランスライブラリーは、入居者が自由に利用できるコミュニティスペース。マンションでも、このようなちょっとした休憩スペースを設けると、同じフロアに住む住民同士の交流につながるかもしれない。このほか、有料で使用できる広いラウンジ兼ゲストルームなどもある

こうした取り組みは、マンションでも行なえるだろう。特に大規模なマンションでは、さまざまな共用施設や設備が備わっているものの、思いのほか利用頻度が少ないことが多い。利用されていない施設や設備を地域の住民に開放したり、交流の場として使うことで、スペースの有効活用や地域住民との交流につながるのではないだろうか。

「湘南台チャンプハウス」は現在オープン6年目。「10年目を目処に、コミュニティハウスとして理想的なモデルを実現したい」と笑顔で話す山本さん。

さらに、入居者同士の交流を促すための取り組みもしていると山本さんは続ける。

「これまでも納涼会やクリスマス会を開いてて、入居者の方に参加してもらっています。ただ、入居者同士のコミュニケーションは、もっともっと盛んになってほしい。その方が、楽しく、安全に暮らせると思うんです。今後は、私やハウスマザーがより積極的に関わっていくことで、より活発な交流が生まれればいいですね」(山本さん)

さまざまな試行錯誤を繰り返しながら、コミュニティハウスとしての最適解を模索する「湘南台チャンプハウス」。山本さんの見据える未来には、人々が集まって住むことで生まれる安全性や安心感。コミュニティと関わっていくことで育まれる楽しさや刺激。そしてシニアや子育て世代が共に手を取り合いながら暮らしていける理想の住まい像がある。

「湘南台チャンプハウス」の取り組みのなかには、私たちのマンションライフに取り入れられる工夫も少なくない。多彩な世代がふれあい、助け合いながら暮らすことは、より豊かなマンションライフを実現させる上で、大切な要素に違いないはずだ。

2012/10/16