パリの社会住宅 1世紀の歴史を考える展覧会が開催中

100年にわたるパリの社会住宅の歴史を振り返る「パリ・アビタ-街の100年、生活の100年」と題した展覧会が、パリのアルスナル建築博物館(Pavillon de l’Arsenal) で開かれています。

「パリ・アビタ(Paris Habitat) 」は、パリ社会住宅供給公社のこと。現在、12万以上の住宅を運営しています。1920年代から現在進行中のプロジェクトまで40の社会住宅を紹介。写真や資料、設計図などを展示して、その意義や歴史を振り返っています。

アルスナル建築博物館の2階が会場。下に見えるインスタレーションは、パリ・アビタがパリに建設した社会住宅の模型。

パリとパリ近郊にある40の社会住宅について、当時と現在の写真、設計図、建築家や住民へのインタビュービデオなどを見ることができます。

パリ市の資料によると、社会住宅が誕生したのは1912年で、本格的な建設が始まったのは第一世界大戦後。当時の住宅は、定期的な収入がある労働者に限られており、中庭付きの比較的きれいな建物だったようです。

1922年にパリ20区に建てられ、1985年に改装工事が行われた住宅の資料。

住宅問題が深刻化したのは、第二次世界大戦後。理由のひとつはベビーブームで、人口が増えたこと。そして多くの外国人労働者を呼び寄せたため、移民たちのための住宅が必要となったのです。

1952年、パリ13区に建設された住宅。レンガの外壁と白いバルコニーが美しく、“洗練された社会住宅”の例として紹介されていました。地上階に商店が入居しているのは、パリの住宅らしい光景。一部の外壁はつたがはっていて、時の経過を感じさせます。

さらに1975年にはオイルショックが発生して失業者が急増。1970年代後半から80年代初めには、都市の郊外にある社会住宅の住民たちの暴動が勃発。社会住宅が、ネガティブな社会問題となってきたのです。

そして2000年に都市の連帯と再生(SRU)法が制定され、2003年には都市再生全国機関(ANRU)が創設。ANRUは、社会問題の解決が優先とされる地域や町の再活性化やソーシャルミックスについての再生計画を実施する機関です。社会住宅の建設は、都市計画や建築の観点から、新たな熟考が求められるようになりました。

展示されている40の住宅例は、立地条件や環境、その目的もさまざまです。アーティストのアトリエを兼ねた住宅、鉄道の線路沿いに建てられた住宅、現存する建物に同化するよう建てられたパリの市境の建物、学生用アパルトマンと一般住宅と同じ敷地内に建設した住宅など……。

以前とりあげたパリ20区の「エデン・ビオ」、パリ17区に“デザイナーズ・アパルトマン”通りも紹介されていました。

エデン・ビオ パリの「21世紀型」集合住宅とは?
デザイナーズ・アパルトマン

またリノベーションの好例として展示されていたのが、1960年代にパリ西部の17区に建てられた高層住宅「ボワ・ル・プレートル(Tour Bois-le-Prêtre)」。16階建てに100戸が入居する建物で、2009年から2011年にかけて行われた改装で、エレベーター2機とバルコニーを新設。さらにバルコニー沿いにガラス張りの部屋をつくることで、50%のエネルギー削減を実現したそう。

改装前と後の写真を見ると、その変化がわかります。アパルトマンの面積も広くなり、快適さがアップ。

今後予定されているプロジェクトもありました。

パリ11区のブレゲ通りでは、1000㎡の市立公園が建設されることになり、地区全体を見直し、2016年に49の社会住宅を建設するほか、公園沿いには幼稚園やスポーツセンターもつくられる予定。

緑に包まれた住宅の予想図(左下)は、「エデン・ビオ」も設計したエドゥワール・フランソワ氏によるもの。その右隣の写真と設計図は、日本人の建築ユニットSANAAが手がけるブローニュの森に面した16区の住宅。

アルスナル建築博物館は、こうした特別展のほかに、地上階では、パリの建築物の歴史や将来的なプロジェクトを常設で展示しています。

現在進行中の都市開発プロジェクトが、タッチパネルと画面ですぐに調べられます。

パリの都市開発、建築物の歴史資料が約1000点。

2階には、子供が遊べるスペースが。建築に関する子供向けの本もあります。

社会住宅の歴史には、国や街、人口、経済、社会、環境の変遷、家族のあり方の変化など、さまざまな要因が反映されています。今日、パリの社会住宅にもっとも求められているのは、ソーシャルミックスの考えや、環境に配慮した建築です。

日本の公団住宅も、サラリーマン向けの住宅として建設されたのが始まりと聞きましたが、パリと同様、現在ではその目的やあり方も変わってきているでしょう。日本では耐震設計など、フランスとは異なる基準も必要とされますね。社会住宅を通して、街に住まうということについて、考えてみるのも興味深いと思います。

展覧会:Paris Habitat- cent ans de villes, cent ans de vie
場所 :アルスナル建築博物館 Pavillon de l’Arsenal
21 boulevard Morland, 75004 Paris
2015年5月4日まで
http://www.pavillon-arsenal.com/

2015/03/23

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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