パリ最古の社会住宅 城壁の跡地に建てられた「 シテ・モンマルトル」

低所得者層を対象にした社会住宅(公団)について、これまで何度か取り上げてきましたが、パリで初めて建てられた社会住宅のひとつが、パリ北部の18区にあります。

かつて“シテ・モンマルトル”と呼ばれていた公団住宅で、パリの北部ポルト・ドゥ・クリニャンクール駅から徒歩5分ほど、ネイ大通りの北側に立地。先日お伝えした、駅舎を改装した“ラ・ルシィクルリー”から200mほど北西に歩いた、パリの市境にあります。

パリの駅舎を改装した「ラ・ルシィクルリー」がオープン キーワードは、エコロジカルな3R

毎年9月に開かれる『歴史的遺産の日』にあわせて、シテ・モンマルトルのガイドツアーがあると聞いて、参加してみました。

地下鉄のポルト・ド・クリニャンクール駅からクリニャンクールの蚤の市に向かう道にある住宅のひとつ。

歴史を簡単に振り返ってみます。19世紀半ば、外部からパリへの攻撃を防ぐために、パリの外周にそって“ティエールの城壁”と呼ばれる壁が造られました。19世紀終わりになるとその役目を終え、1919年から1929年までにすべて解体されます。

当時パリは、住宅不足の問題を抱えていました。そこで第一次大戦後の1919年、パリ市はHBM(Habitation à Bon Marché=安価な住宅)オフィスを設立。市境をぐるりと囲む城壁の跡地に、社会住宅を建てることになったのです。

シテ・モンマルトルは1923年から1930年にかけて造られ、幅700m、奥行き100mほどの土地に、3棟が建っています。

ネイ大通りから見る公団。柵の中は緑にあふれていました。

住宅は7~8階建て。建築様式はさまざま。

緑あふれる中庭も。ただし、許可を得た催し以外は使用できないそう。

どの住宅も、白い石壁とレンガの組み合わせの美しさが印象的。現在は同じ素材や技法を使わなくなったため、修復する際に業者を見つけるのが大変とのことでした。

ネイ大通りの向こう側(写真中央)には50年代に建てられた住宅が見えます。公団の美しさが際立ちます。

当時の公団の特徴は、住宅の周囲に、公園や幼稚園、シャワー施設などを併設し、ひとつの“村”を形成していたこと。住宅内には、職人やアーティストのアトリエもつくられました。

アーティストのアトリエは、いまもアーティストが住み続けているそうですが、公園や幼稚園はパリ市が運営しています。

真ん中の棟の最上階がアーティストのアトリエ兼住居。

さらに当時は、建物には複数の出入り口があり、住宅を囲む柵もなく、隣の住宅とも自由に行き来ができていました。

案内してくれたガイドさんに「19世紀後半、パリの中心地に建てられたオスマン様式のアパルトマンと比べてみると違いが分かりますよ」といわれて考えてみると、まさにその通り。オスマン様式のアパルトマンは、隣の建物との隙間はなく、中庭など中の様子は外からいっさい見えません。

現代ではセキュリティーの問題などから、住宅を柵で囲み、入り口には暗証番号を押して入る仕組みになっています。

公団の一部は、さまざまな文化活動を企画している『カンパニー・レゾナンスCompagnie Résonances』のオフィスになっていて、地元住民とともに世話をしている中庭もありました。

手づくりのベンチやテーブルが置かれた中庭。

今回、ガイドツアーを企画したのは、地元住民が20年前に立ち上げた市民団体『ル・プティ・ネイ Le Petit Ney 』。文学カフェをつくり、住民のために文学や映画上映会などを開いています。住民のための共同菜園づくりなども計画中とか。

同団体の方によると、この地区は公団住宅が多く、経済的に豊かとはいえませんが、住民たちの意識は高く、開発計画には積極的に賛否を表明しています。また商店の看板の統一など街の景観づくりに注力したことで、人が集まり、雰囲気が変わりつつあるそうです。

「ラ・ルシィクルリー」のオープンも変化の一因といえますが、2017年に予定されているトラムウエイが運行されれば、さらに人の流れは変わっていくでしょう。取り囲む環境の変化が、公団や住民たちにプラスに動くことを願います。

Le Petit Ney – 10 avenue de la Porte Montmartre, 75018 Paris
http://lepetitney.fr/

※シテ・モンマルトルの歴史に関する写真展も、10月11日まで地元の図書館で開催中
bibliotheque.jacqueline-deromilly – 16 avenue de la Porte Montmartre 75018 Paris

2014/10/02

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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