世界的に活躍する建築事務所が手がける、パリ17区の“デザイナーズ・アパルトマン通り”

以前のコラムで、パリ17区で開発が進むエコ・カルティエを紹介しました。建設されるアパルトマンのおよそ半数が社会住宅となります。内訳は、20%が低家賃住宅(フランス語でHLM)、30%が低価格で販売される住宅だそうです。

いまパリの各地で社会住宅が建てられていますが、なかでも17区のピエール・ルビエール通りは、“デザイナーズ・アパルトマン通り”とでも名づけたい場所。
620mの通りの北側に20棟の集合住宅が新たに建てられ、しかもすべて、世界的に活躍する9つの建築事務所が手がけているのです。

通りの西端から見たところ。南側(写真で見ると右側)には高校と国立商業学校があります。

実はこの通りの北側(写真の左側)には、11ヘクタールにおよぶ広大な墓地があり、壁で囲まれています。この壁に沿って、20軒の新しい集合住宅を建設したのです。

これは“オートルモン・リュ・ルビエール(Autrement rue Rebière)”(直訳すると「ルビエール通りを、別のものに」)と名づけられたプロジェクトで、パリ市が進めていた17区の地区開発の一環。パリの社会住宅管理会社パリ・アビタと不動産開発業者ネクシティーが2008年から建設を開始、2012年に完成しました。

20棟の集合住宅には、180軒のアパルトマンが入居し、そのうち140軒が社会住宅。道幅は以前の半分の12.6mとなり、一方通行になりましたが、駐車スペースも確保されています。

建設にあたっては、9つの建築事務所のほか、アジャンス・ペリフェリック建築事務所が調整役として参加。建築家をはじめ、住民、地元の議員、工事関係者らによるワークショップを開き、環境への配慮、公共の場とプライベート空間の関係、外観デザインなどを討論して、共通認識を深めていったそうです。

墓地の隣と聞くとネガティブなイメージもありますが、このプロジェクトでは、プラタナスやマロニエの木々が茂る墓地は豊かな緑地であり、また住宅の正面に家が建つ心配がないことも、“利点”としてとらえています。

ルビエール通りを西から入ってみると、すぐに円形のカラフルな塔が目に入ります。

オンドラット・ラポルト建築事務所(Hondelatte Laporte Architectes)によるもの。カラフルな塔の部分はテラスです。

2つの建物に分かれていて、真ん中が中庭になっています。

お隣は、日本の建築事務所アトリエ・ワンAtelier Bow-Wowが手がけた真っ白な住宅。すべての窓にテラスがついています。

アトリエ・ワンは塚本由晴さんと貝島 桃代さんの建築家ユニット。

パリ市の決まりでは、墓地に面した壁に窓を開けるとはできないとのこと。そこで建築家たちは、アパルトマンの中に最大限に明るさを得られるよう、テラスの設置を重要視し、窓の向きを考えたり、さまざまな工夫を凝らしています。

また社会住宅の場合、建設費の制約もあるため、建築家にとっては、限られた予算とスペースを最大限に活用することも課題だったようです。

下の写真の住宅は、テラスを通り側ではなく、中庭に向かって向かい合うように設置。外観の形から“エム・ビルディング(M building)”と名づけられています。

エム・ビルディングの建築は、ル・ファンタスティック事務所(Le Fantastic Agence)のステファン・モーパン氏(Stéphane Maupin)。

バルコニーは階段状になっているので、すべてのアパルトマンに日が差し込みます。テラスの横には墓地が広がっているわけですが、住宅沿いには大きな木々が植えられているため、墓地を隠す壁はつくっていません。また光の反射をつくるために、外壁はメタリックな素材に。真っ白な道路側の壁と、対照的です。

さらに個性的なアパルトマンが続きます。

うろこのような外壁の住宅の作者は、アヴィニョン・クルエ&アトリエ建築事務所(Avignon-Clouet Architectes)。壁は植物が植えられています。

プティディディエ・ピルー事務所(Petitdidier Prioux Architectes)が手がけた住宅。正面はシンプルですが、建物の両側にテラスが飛び出ています。

こちらは対照的な建材を使った2つの住宅。どちらもニコラ・レネ氏(Nicolas Laisné)とクリストル・フッセル氏(Christophe Rousselle)が共同設計しています。

黒いコンクリート&ステンレス、そして木を使った住宅を隣り合わせに建設。

テラスを不規則に突き出すことによって、すべてのアパルトマンから空が見える!だれもが最上階に住んでいる気分を味わえます。

コンクリートを木で覆うことで、防音効果も。ずっしりと静的な印象を与えるこの住宅と、テラスが水平に伸びた隣の住宅が、互いにひきたてあっています。

芝生の中庭がある建物は、ブルドゥーズ&グランドルジュ事務所(Bourbouze & Graindorge)によるもの。

透明感のあるデザイン。写真の左側にも同じデザインの住宅が建っています。

最後の住宅は、白とグレーのストライプ。

スイスの建築事務所EM2Nは、テラスを三角形にデザイン。窓が開いているときと閉めきったときでも、印象ががらりと変わります。

このように、ひとつひとつ建材もデザインも異なりますが、通り全体を見渡すと、不思議と違和感はありませんでした。白やグレーといったニュートラルな色が基本に使われているので、明るい印象です。

このプロジェクトでめざしたことは、「建築作品のショーケース」でも「隣に並べた建築」でもなく、「多様な建築の集合」をつくること。

さらに資料を読むと、目的は「高層ビルに代わる、交流が生まれる緑にあふれた生活環境を提案すること」とあります。というのは、1960年~70年代、パリの外周部やパリ郊外に高層の集合住宅や社会住宅が続々建てられましたが、その後、社会住宅の管理が不徹底であったり地区の開発が進まないなど、“放置”された感のある地区もあるのです。

ルビエール通りの試みで興味深いのは、パリの外れの通りに新たに集合住宅を建設したこと、さらに、その住宅が機能性やデザインを熟慮されたものであったこと。わずかでも住宅不足への対応となり、かつ地区のイメージをよりポジティブに変えることにつながりそうです。

低所得者層向け住宅は、明るいイメージばかりではありません。集合住宅の価値を高めることで、住民たちの誇りも高められるはずです。17世紀の古い建築物を守ることも、機能的なモダンな住宅をつくることも、現代のパリには不可欠なのでしょう。

日本でもデザインの力でマンションや地域の価値を高める活動が出てくると、魅力的になっていいですね。

こちらのサイトからは、ルビエール通りのかつての姿と現在の様子が見られますので、合わせてご覧ください。
http://www.pavillon-arsenal.com/videosenligne/collection-2-423.php

2014/06/03

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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