フランスの高齢者向けのアパルトマン売買制度“ヴィアジェ”

1月半ばにINSEE(国立統計経済研究所)が発表した2013年の国勢調査によると、フランス人の人口は昨年より0.4%増の約6600万人。平均寿命は女性85歳、男性が78.7歳。女性の出生率は1.99人(2012年は2.01人)でした。

こうみると、フランスは平均寿命が長く、出生率も高く、日本より少子化や高齢社会の問題が少ないようにも思えますが、1人で一生を終える方や子供がいない夫婦ももちろんいます。所有しているアパルトマンや家を相続する人がいない場合、フランスにはヴィアジェviagerと呼ばれる独特の売買システムがあります。

エッフェル塔の1階からのパリの街並み。エッフェル塔周辺の7区は、パリで2番目にアパルトマンの価格が高い地区です

特徴は、持ち家やアパルトマンを売却しても、亡くなるまで住み続ける権利があるということ。反対に買主は、買ってもすぐに住むことができません。売買契約が成立したときに前払い金を支払い、その後は月々、定額を売主に支払っていくのです。

売り手の年齢に関する法律はないそうですが、平均的には男性70歳、女性は75歳以上。やはり売り手が若いと、買い手がつかないとのこと。ヴィアジェを辞書でひくと、“終身年金”とあります。アパルトマンを売却したお金が、まさに売り手にとって“終身年金”となるわけです。

初めてこの制度を知ったときは、人が亡くなるのを待つような、なんだか不謹慎な制度に感じたものです。買主にとっては、購入した家にいつ入居できるか分からない、一種の賭けのような制度でもありますし。

事実、フランスでは有名なこんなエピソードがありました。

1997年、当時フランスで最年長だったジャンヌ・カルマンさんが、122歳の長寿を全うして亡くなりました。実は彼女は90歳のとき、ヴィアジェでアパルトマンを売却していたのです。しかしその買主は1995年、カルマンさんより先に逝去。買主の奥様は、法律にのっとって、カルマンさんが亡くなるまで毎月、支払いを続けたのだそうです。

一方、プラス面もあります。買主側は通常の手続きで購入するより安く買え、売主にとっては月々の生活費が手に入り、人生の最期まで自宅で生活することが保障されます。年金だけでは生活が苦しい高齢者も多く、年金の足しになると考える人も多いようです。フランスらしい割り切ったドライなシステムということでしょうか。

ただヴィアジェ物件は、パリやバカンス地として人気のあるコートダジュール地方などで多く、地方都市や農村部ではほとんど見られません。パリをはじめとする大都市には、ヴィアジェを専門に扱う不動産業者もいます。

古いアパルトマンがぎっしり並ぶ光景は、やはり美しいですね。遠くにモンマルトルの丘に建つサクレクール寺院も見えます

先述したように、フランスも人口20%が60歳以上という高齢化社会。ヴィアジェはリスクもあるシステムですが、フランスでは今後さらに供給が増えていくと考えられています。

パリのヴィアジェ専門の不動産業者のコメントに「若い世代と高齢者の橋渡しでありたい」という言葉がありました。日本人の私たちには心情的にも受け入れにくい制度にも思えますが、高齢化社会や年金問題を考えるうえで、何か参考になる部分もあるかもしれません。

2014/02/17

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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