パリの「21世紀型」集合住宅とは?

以前の記事では、19世紀から20世紀を代表する建築家による集合住宅を紹介しました。
こうした古い歴史ある建物の保存にパリは力を入れていますが、同時に未来のアパルトマンや集合住宅のあり方も探っています。

より快適な住空間、環境に配慮した建築方法、街づくりの一環としての集合住宅など、他都市と同様、検討すべき課題は多種多様。古い建物を解体できないパリにとっては、土地不足も重要な課題です。

そこで今回は、未来を見据えた新しいコンセプトのアパルトマンを探してみました。

フラワー・タワー

まずは、2004年に完成して話題となった驚きの建物から。

その名も“フラワー・タワー”、つまり、花の塔です。30のアパルトマンが入居している建物のほぼ三面を、380個もの巨大な鉢がぐるりと覆っているのです。

遠くからも目立つフラワー・タワー。ZAC(集中開発整備地域)の中にあり、周囲にも集合住宅が建っています。正面は、子供専用の遊具もあるパリ市立公園。

コンクリート製の鉢には竹が植えられ、バルコニーに固定されています。鉢の内側に欄干が通っていて、雨水を再利用した水が自動的に流れる仕組み。鉢はコンクリート製ですが、バルコニーが過重にならないよう、デュカテルという特別に軽い製品を使っているとのこと。

建築家はあえて竹を選んでいますが、その理由は、まず竹が耐久性があり、風に強いこと。さらさらと揺れる葉は、外部の熱や光を拡散する役割を果たしてくれること。さらに、風で竹が共鳴して音を出すことも、考慮しているそうですよ。

環境にやさしいといわれる竹は、パリの人にも人気の植物です。

一般の方が住んでいるため、中の見学ができないのが残念ですが、内側からはどんな光景が見えるのでしょう。パリの人たちは、バルコニーに花や植物を飾ることが上手ですが、この建物なら、文字通り、自然と共生する暮らしといえるかもしれません。

ちなみに、フラワー・タワーは8階建てで、地下3階分が駐車場になっています。建設費は約400万ユーロ(約4億5300万円)。

エデン・ビオ

フラワー・タワーを設計したエドゥワール・フランソワ氏は、シャンゼリゼ大通りのすぐ近くにある高級ホテル「フーケッツ・バリエール」なども手がけた建築家。パリ東部の20区では、2008年、“エデン・ビオ”と名づけられたプロジェクトも完成させていました。

ビオとは、オーガニックのこと。建築用材として、木、レンガといった環境にやさしい素材を使っており、99の住宅と12のアトリエ、52台分の駐車場、そしてオーガニック庭園も整備。7700㎡におよぶ土地にわたっていますので、住宅というよりも、地区の再構成プロジェクトです。

エデン・ビオの住宅。石造りの荘厳な教会との対照もおもしろい光景です。(左)エデン・ビオの木材がむき出しの建物。(右)

住宅は、2本の細い路地にあり、路地の入り口には、コード付の鉄柵があります。さらに隣の路地には、アトリエが造られています。木材がむき出しの建物は、まだ建築途中かと見間違うほど。しかし、住宅の下に植物が植えられていて、木の外壁を、少しずつ緑が覆っていくのです。長期的な景観を考えた、緑の住宅です。建設費は約1070万ユーロ(約12億1090万円)。

(※2011年2月現在、1ユーロ=約113.5円)

住宅の隣の路地にあるアトリエ。

アトリエのある路地から見た住宅。

エコ・カルティエ

さらに、エデン・ビオのすぐ近く、フレケル通りとフォンタラビ通り周辺では、エネルギー削減をめざした集合住宅が建設中です。

庶民的な雰囲気が残る地区に現れた、木と鋼鉄の住宅。

既存の住宅の改修もふくめて、2009年に工事がスタートし、2012年までに105の住宅が生まれる予定。市営幼稚園や1000㎡におよぶ公園なども造られます。つまり、地域一帯を“エコ・カルティエ”(エコ地区)にするというプロジェクトです。

新築物件に関しては、エネルギー消費が少ない建築資材を選び、外壁の断熱性能を高めたり、雨水の再利用ができるシステムを設置するなど、省エネ住宅をめざしています。

現在、パリの3分の2にあたる世帯が、1㎡あたり年間300kwを消費しているそうですが、パリ市が掲げている目標は、新築住宅で50kw、旧建築で80kw。パリ市は、エコ・カルティエを新基準のモデルケースにしたい考えです。

完成している住宅の外壁は、カラマツ木材とアンティーク風な色合いの鋼鉄の組み合わせで、木製の入り口はどことなく和風です。庶民的な雰囲気が残るこのカルティエの変遷を、見ていきたいと思います。

3物件とも、持ち家率上昇をめざした施策

注目したいのは、フラワー・タワー、エデン・ビオ、そしてエコ・カルティエの3物件とも、福祉住宅として建てられていて、発注主は「パリ・アビタ」という住宅公団であること。

つまり、低所得者層向けに販売されることを前提に建てられた物件で、販売価格は通常の相場より低めに設定。購入希望者も、低所得者向け住宅に3年以上住んでいる人にかぎったり、所得上限を設けるなど、特別な条件が設定されています。

第1回のコラムで、フランス人の持ち家率の低さにふれましたが、フランス政府やパリ市にとっては、こうした福祉住宅の建設も、持ち家率上昇をめざした施策のひとつなのです。

さらに3物件とも、隣町に近いパリの境界部分に位置しています。パリの中心部では、歴史的建造物として保護されている建物が多く、解体ができないため、新築はほぼ不可能なのです。

中心部の重厚な古い石造りの街並みに、今回紹介したような新時代の住宅が少しずつ加わっていくことで、新しいパリの光景が生まれていくのでしょう。

2011/03/31

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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