フランスの不動産コンサルタント会社CBREが2016年1月に発表したレポートによると、パリの不動産価格は世界4位(トップ3は香港、ロンドン、ニューヨーク)、一方、家賃平均は世界10位(同ロンドン、アブダビ、シンガポール)で1519ユーロだそうです。
不動産価値に比べて家賃相場が意外と低い順位にも見えますが、住宅省によると、パリのアパルトマンの家賃は10年間で34%も上昇。収入の20%が家賃にかかっている計算で、家計のなかで最大の支出になっているそうです。
パリにおけるアパルトマンの需要は大変高いですが、借りられるアパルトマンの数が足りず、家賃が高いと思っても「見つかっただけラッキー」と思って借りるしかない、という場合もあります。また、賃貸契約には家賃の3倍の収入が必要といわれていますが、その条件を満たす人は多くないであろうことは、十分に想像できます。さらに契約の更新時に一気に家賃が上がったため、引っ越しせざるを得なくなったという人もいます。
そこで2015年6月にフランスの住宅省は、同年8月1日以降の賃貸契約に関して、家賃の“参照価格”を設定する法律を発令。今年7月終わりには、その参照価格を簡単に確認できるサイトを開設しました。今のところパリ市内のみですが、徐々に広げていく予定だそうです。
Encadrement des loyers →http://www.encadrementdesloyers.gouv.fr/
この法律にかかわっているのはパリを含む28の都市圏(1290市町村)。パリ以外の市町村は原則的に家主が家賃を設定できますが、パリでは家賃の上限が定められます。
家賃の参照価格を計算するのは、非営利団体のObservatoire des Loyers de l’Agglomération parisienne (OLAP) (パリ都市圏の家賃監視機関)。パリは14区画に分割され、計算された参照価格は毎年、県令として発表されます。許容される最大の家賃は、この参照価格の20%増しまでです。
ただし、前に借りていた人が退去した後に工事をした場合や、以前の家賃が低すぎた場合、さらに立地条件が優れているといった理由がある場合は、条件を満たせば、さらに高い家賃に設定できるそうです。
実際にサイトでテストをしてみました。まず家主か借家人かを選び、建設時期(1946年以前、1946~70年、1971〜1990年、1991年以降)、部屋の数、家具付きか家具なしか、契約時期(2015年8月1日~2016年7月31日、2016年8月1日~2017年7月31日)、住居面積、家賃(管理費を除く)を順に選んでいき、最後に地域を選択すると、面積に応じた家賃と1㎡当たりの家賃、家賃の最大価格が出てきました。
たとえば、1971年~90年の建築で2部屋、家具なし、50㎡、2015年8月1日~2016年7月31日の契約、エッフェル塔周辺の7区を選んでみると、参照価格は1190ユーロ、最大価格が1460ユーロ。簡単に家賃チェックができました。
この参照価格より高い家賃を払っているときは、まずは家主と話し合うことを提唱しています。第二段階としては専門の調停委員会への提訴で、2015年は175件の提訴があったそうです。友好的な解決ができなかった場合は、裁判所への提訴が考えられます。
この法律はアパルトマンの賃貸市場を減速させるのでは、という懸念の声もあったようですが、住宅省は、法律が制定されからこの1年間、そうした動きはなかったとコメントしています。さらに同省は「この対策は家賃を固定するためではなく、一部で見られる家賃の過度な上昇を抑え、不動産市場をより健全なものにし、さらには家計の購買力を高めることが目的」としています。
一方、家賃高騰の陰に、民泊の影響を挙げる声もあります。賃貸より利益が見込まれる民泊に移行する家主が、契約更新を拒否したり、家賃を大幅にアップしたりする例が増えていると指摘されているのです。民泊は世界規模で不可欠な宿泊施設になってきているからこそ、今回の賃貸アパルトマンの家賃規制と同様、認可要件やチェック機構のさらなる強化が求められてくるかもしれません。
2016/09/06