地域住民の要望にこたえるコンシエルジュ“私の通りのルル”がパリに誕生

“コンシエルジュ”というフランス語は、日本でもだいぶ浸透してきたようですね。集合住宅やホテルなどで、住民やお客様の要望にこたえるサービス係のことです。

フランスでは、地域に根ざした“コンシエルジュ”が少しずつ始まって、話題になっています。。パリでは2015年4月、パリ4区のサン・ポール駅前に、コンシエルジュの初のキオスクが登場しました。サービス名は「ルル・ダン・マ・リュ(Lulu dans ma rue)」。“私の通りのルル”という意味で、地域に身近な存在であることを示す名前を選んだそうです。

観光客も多い人気のマレ地区、サン・ポール駅前の広場にあるキオスク。

観光客も多い人気のマレ地区、サン・ポール駅前の広場にあるキオスク。

創設者のシャルル=エドゥワール・ヴァンサンさんは、コンピューター関連のエンジニアとして活躍した後、住宅問題を抱える人たちを支援する慈善団体エマウスに参加。社会弱者たちの社会復帰を支援するエマウス・デフィの創設者として知られていて、より地域に密着した「ルル…」の活動を通して、地域社会の再構築と雇用創出をめざしています。「ルル…」はパリ市から駅前の広場を借り受け、スタンドを設置し、テストケースとしてスタートしました。

キオスクは月曜から土曜までオープン。常駐している「ルル…」のスタッフに相談ができます。

キオスクは月曜から土曜までオープン。常駐している「ルル…」のスタッフに相談ができます。

サービス提供者は、スタンドがある4区と、周囲に位置する1区と2区、11区の住民が対象で、内容は買い物の代行から掃除やアイロンがけ、大工、行政手続きのお手伝い、荷物の配送、庭の手入れ、留守中の雑用(水やり、動物の散歩、鍵の預かり、荷物の受け取り)、宿題の手伝いまで、さまざま。

20分単位で、買い物や配送は5ユーロ、掃除や家具の組み立てなどは6ユーロ、大工仕事8ユーロ、行政手続きやコンピューター関係のお手伝いは10ユーロ。荷物の配送や大掛かりな大工工事、リストにないサービスについては、見積もりをしてくれます。月曜から土曜日の午前8時以前と20時以降、日曜日は20分につき2ユーロの追加料金が発生します。

もっとも多いリクエストは大工と荷物の運搬で、「電球を変えてほしい」「ソファを外に出すのを手伝ってほしい」など、ちょっと手が足りない場合のお手伝い。「子供のレゴの組み立てを手伝ってほしい」「セーヌ川に停留している船を掃除してほしい」といったユニークな依頼もあったそう。

昔ながらのホテルを思わせるようなキオスクの棚。住民から預かったカギもかかっていました。

昔ながらのホテルを思わせるようなキオスクの棚。住民から預かったカギもかかっていました。

サービスの内容や「ルル・ダン・マ・リュ」のパンフレットも、親しみやすいイラストで。

サービスの内容や「ルル・ダン・マ・リュ」のパンフレットも、親しみやすいイラストで。

サービスの内容を見てわかる通り、「ルル…」の特徴は、日常生活でほんの少し手が足りないときのサービスを提供していることです。コンシエルジュや管理人がいない集合住宅は年々増えていますし、都市部では家族や友達が近くにいない人も多く、かといって一般企業に依頼することもできない内容ばかりです。

職人の仕事や大規模な工事などは、地域の専門家や企業を紹介し、競合しないよう配慮しているそうです。電話で申し込むこともできますが、スタッフが常駐するスタンドで、直接相談することもできます。

「ルル…によって、住民同士のつながりを深めて、地域のあり方を考え直すことにもつながると思います。スタンドに住民が本を持ってきて交換しあったり、テーブルでチェスをしたりと、自然と交流が始まったんですよ」と、スタッフのエマさんは話します。

すぐ近所に相談できるスタンドがあることも、人と人をつなげる大切な要素になっているように思います。しかもオフィスではなく、屋台のようなスタンドというのもユニークで、身近な存在に感じられます。

住民が持ちよった本が増えて、ミニ図書館ができていました。

住民が持ちよった本が増えて、ミニ図書館ができていました。

一方、サービスを行う人は“ルル”と呼ばれていて、サービスを受ける人たちと同じ地域の住民で、現在登録者数は60人。学生や会社員、退職者など幅広く、それぞれの特技や経験を生かしたサービスを行っています。最低3回はスタッフと面接や打ち合わせをしたあと、担当するサービス内容の研修を受けているとのこと。

こうした身近なサービスの提供の場合、収入の申告をしない未申告労働となる場合もありますが、ルルたちは個人事業者として申告をしています。失業していた人も、追加で収入がほしい人も、地域の住民のために小さなサービスを提供しながら、生活を変えているそうです。またほとんどのサービスが50%の税額控除の対象となっているため、サービスを受ける側も利用しやすいといえるでしょう。

「ルル…」はスタート直後から話題となり、サービス開始からこの1年に受け取ったリクエスト数は8,500件。自分たちの地域にもスタンドを設置してほしいという要望は200件にのぼり、イタリアやベルギーからも届いているそうです。今後パリ市内に、スタンドがもっと増えていくことを期待しています。

パリ以外の地方都市でも、行政や若手企業家が地元住民を対象にしたコンシエルジュ・サービスを始めているようです。不況や治安など、フランスにはさまざまな課題がありますが、小さなことからつながる地域や住民同士の連帯感が、こうした不安を解消してくれるカギになるのかもしれません。

Lulu dans ma rue
http://www.luludansmarue.org/

2016/04/14

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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