エコカルティエ建設前の空き物件を活用 パリ14区の“レ・グラン・ヴォワザン”の取り組み

前回は、使われなくなったオフィスを学生寮に改装した例をお伝えしました。今回は、2017年にエコカルティエに生まれ変わる病院の跡地を有効活用している話題をレポートします。

場所は、パリ14区にあるサン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院跡。老朽化や新しい病院が建設されたことから2010年にすべての役目を終え、2011年にパリ市は6万㎡におよぶ跡地にエコカルティエを建設することを決定しました。

エコカルティエには、600戸の集合住宅をはじめ、公共機関や商店などが建設される予定で、工事のスタートは2017年夏。一部の建物は改装、老朽化した建物は解体して新築する予定とのこと。

パリ南部にあるサン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院跡地の入り口。

パリ南部にあるサン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院跡地の入り口。

工事が始まるまであと数年あることから、パリ市と土地の所有者であるAPHP(パリの公立病院を統括する公的扶助パリ病院機構)などは2012年、慈善団体「オロール」に建物の運営を委託。解体する前の建物の使用を許可しました。

「オロール」は、住宅問題を抱える人たちの社会復帰を支援する団体で、昨年3月にも当コラムで、修道院跡を開放した「ラルシペル」を紹介しています。サン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院跡でも、一部の建物を緊急用の住宅や低賃金家賃の住宅として使っています。

パリの住宅問題とソーシャルミックスを考えるスペース「ラルシペル」

活用されている建物には明るい彩色が施されていました。

活用されている建物には明るい彩色が施されていました。

現在は、オロールのほか「プラトー・ユルバン」と「イエス・ウイ・キャンプ」という2つの協会も運営に参加。2015年10月から、この敷地は一般にも開放されるようになりました。

「プラトー・ユルバン」は、使われていない住宅をオフィスやショップなどに活用させる運動を行っている団体で、サン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院跡の建物を活用したい企業や人を選定しています。現在、約70の企業・協会、アーティスト団体、そして助産婦学校が入居しています。

一般の物件と違うのは、入居の条件。教室やイベントなどを通して、敷地内に住んでいる人や働いている人たちに何かを提供し、貢献できることなのだそうです。

病院の看板やマークはそのまま残っています。現在、住宅やオフィスとして使われているのは、安全性が確認できた建物のみ。

病院の看板やマークはそのまま残っています。現在、住宅やオフィスとして使われているのは、安全性が確認できた建物のみ。

1650年に建てられた建物は、神父の修練所だったそう。

1650年に建てられた建物は、神父の修練所だったそう。

「イエス・ウイ・キャンプ」は、敷地内で誰もが入ることができるカフェ・レストラン「ラ・ランジュリー」を経営したり、コンサートや映画鑑賞会、講演会、ヨガ教室といったイベントを主催。敷地内の“住民”と外部の市民との交流を推進するこうしたプロジェクトを、“レ・グラン・ヴォワザン(Les Grands Voisins)”(偉大なる隣人の意味)と名づけています。

昨年パリで開かれたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)の際には、庭の一部をキャンプ場にして、世界中から集まった150人の環境関係者に貸し出しました。

「ラ・ランジュリー」は「イエス・ウイ・キャンプ」のオフィスを兼ねています。1840年に洗濯場として建てられ、病院となった1900年頃からは衣類保管所になっていました。

「ラ・ランジュリー」は「イエス・ウイ・キャンプ」のオフィスを兼ねています。1840年に洗濯場として建てられ、病院となった1900年頃からは衣類保管所になっていました。

古い家具や道具を集めたという「ラ・ランジュリー」。ランチやブランチも提供していて、おしゃれなパリジャンの集まる場所になりつつあります。スタッフのなかには慈善団体「オロール」が支援している人たちやボランティアも。

古い家具や道具を集めたという「ラ・ランジュリー」。ランチやブランチも提供していて、おしゃれなパリジャンの集まる場所になりつつあります。スタッフのなかには慈善団体「オロール」が支援している人たちやボランティアも。

オフィスに入ることはできませんが、「ラ・ランジュリー」のほか、アーティストが自身の作品を販売するショップ、ガーデニングのショップ、リサイクルショップ「ラ・ルシクルリー」などには、だれもが入ることができます。

古びた石やレンガに鮮やかな色でペイントされて、おしゃれなヴィンテージ風の建物になっていました。

古びた石やレンガに鮮やかな色でペイントされて、おしゃれなヴィンテージ風の建物になっていました。

左の青い建物は、アーティストのアトリエ兼ショップ。Le Chaufferieと書かれた建物は、1930年から現在までボイラー室として使われています。

左の青い建物は、アーティストのアトリエ兼ショップ。正面に見えるLe Chaufferieと書かれた建物は、1930年から現在までボイラー室として使われています。

ここは牛舎だった建物。

ここは牛舎だった建物。

ガーデニング・ショップはインテリアのお手本になりそうなおしゃれな店でした。

中はガーデニング・ショップ。インテリアのお手本になりそうなおしゃれな店でした。

入居できる期間は工事前の2年~3年ですが、家賃もパリの一般的な相場の半額。暫定的であっても、緊急に場所が必要な人や起業したばかりの人や団体にとっては、十分な場所といえるでしょう。また放置された建物への不法占拠の心配も減るでしょうから、地区の治安を維持することにつながります。

「イエス・ウイ・キャンプ」は定期的に見学会も実施していて、建物の歴史や目的、「グラン・ヴォワザン」の今後の活動について、説明をしてくれます。同協会は「閉鎖されて誰も入れない状態だった場所の活用と、一般開放をパリ市が許可した、画期的な場所」と評価。今後は、ロシア風のサウナを設置したり、夏にはキャンプ場を開く予定だそう。

“レ・グラン・ヴォワザン”プロジェクトによって、サン・ヴァンサン・ドゥ・ポール病院の跡地には、住宅の問題を抱える人、オフィスを探している若い企業家やアーティスト、こうした人たちを支援する協会や団体、カフェに訪れる市民が集まり、パリならではのミックス感あふれるコミュニティーが生まれています。

ちなみに、病院跡地に集合住宅が建つと話すと驚く方がいるのですが、フランスではあまり論議にはならないようです。パリ7区のデパート「ル・ボン・マルシェ」の隣に完成した高級住宅も、病院跡。オフィスに改装されたチャペルを除いてほとんど新築だったわけですが、高級住宅としてあっという間に完売したと聞きました。数世紀を経た建物に住んでいる人が多いパリですから、あまり気にならないのかもしれませんね。

Le Grands Voisins
http://lesgrandsvoisins.org/

2016/03/14

プロフィール

三富 千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。


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