Vol.17 コミュニティ×共用空間

毎回、さまざまな分野でスペシャリストとして活躍するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じてマンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは、建築家で日本女子大学住居学科教授の篠原聡子さん。分譲マンションやシェアハウスなど、さまざまな建築の設計を手がけながら住まいと社会との関係性を見つめ続ける篠原さんが考える、マンションの未来とは。

マンションでの暮らしはコミュニティとともにある。

荒:篠原先生はこれまで数々のお仕事を手がけられていますが、そのひとつに分譲マンションにおけるコミュニティと共用空間についての産学共同研究がありますよね。まずは、マンションコミュニティを研究されたきっかけからお話しをお聞きできればと思います。

篠原:私は、分譲マンションの計画に関わる以前から単身者居住、つまりワンルームマンションの調査をやっていました。

ワンルームマンションというのは、とても不思議な建築なんですよね。本来、住宅にはプライベートな空間と社会とつながるための空間のふたつの機能があるはずなのですが、ワンルームマンションの場合、ひとつひとつのユニットが独立してむき身のままで社会のなかに置かれているようなところがあります。

単身者居住の空間が、もっと社会と接続するような形で成り立たないかと考えていました。

荒:それで辿り着いた解のひとつがシェアハウスだったというわけですね。今日お邪魔している「SHARE yaraicho」も、篠原先生が手がけられていますね。

篠原:はい。それで、単身者居住についての研究を進めている時に、とあるデベロッパーさんからマンションコミュニティと共用空間についての共同研究のご提案を頂きました。

それで、まずはいくつかのマンションを見に行ってみよう、と。それが2006年のことで、2007年からは本格的な調査を始めました。

荒:実際にマンションを調査してみて、どのような印象を受けられましたか?

篠原:マンションの共用空間では、想像以上にいろいろなことが起きているな、と思いましたね。たとえば駐車場という空間をとってみても、餅つきをやったり、夏祭りを開いたり、ビニールプールを出していたり……。

また、マンションの中でのつながりが求められているなぁ、というのも率直な感想でした。もちろんすべての住人が周りの人と仲良くしたいと思っているわけではありませんが、「もっとコミュニケーションを取りたい」と考えている方が、予想以上に多いという印象を受けました。

もともと私は、単身者居住の研究をしていた頃から「本来住宅が持っているはずの社会性の欠如」について考えていたのですが、実は分譲マンションについても同様の課題があるのではないかと。

荒さん:僕は2010年までマンションデベロッパーに勤めていたのですが、入社間もない2007年頃に新規事業としてマンションコミュニティに関わり始めました。ちょうど同時期に研究を始められたのですね。かつての建築業界には、どちらかというとコミュニティを軽視するような風潮があったと思うのですが、やはり変わってきているのでしょうか。

篠原:変わってきていると思います。それはシェアハウスブームにも象徴されているのかもしれませんが、住宅に対する価値観の変化ではないかと思います。

かつて国の勢いがあった頃は、豪華な設備をどんどん充実させて、空間を拡大させていくような資本のつくり方が優先されました。ところが、現在はそれだけではなく、人と人との信頼関係、つまり社会関係資本のようなものにも注目が高まっています。

荒さんを含めて若い世代の人々は、私たちの世代とは違う考え方を持っているように思いますね。

荒:一方で、実はちょっとした矛盾もあるような気もします。というのも、マンションに住むということは、プライバシーを担保することでもあるにもかかわらず、社会関係資本やコミュニティに対する欲求もある。

篠原:ただ、集合住宅というのは資産の共有を前提とする住宅ですから、本来はコミュニティ抜きには語れないはずなんです。マンションは躯体を共用しているわけですから、「プライバシーだけ」という状態は、そもそもあり得ないですよね。

荒:そもそもマンションは資産の共有が前提であり、プライバシーのみが重視されるのはおかしいというのは、とても興味深い指摘です。

しかしながらそうした前提に目を瞑って、あるいは、盲目的にプライバシーばかりを重視してしまう人が多い。それは、デベロッパーの販売戦略の責任なのかもしれませんが。

篠原:プライバシーが専権事項であるということは、集合住宅だけでなく、戸建てでも同じです。けれど、先ほどの社会関係資本の話とも重なりますが、社会の在り方が変わってきているのも事実なのです。

たとえば、私たちの親の世代は、兄弟が5~6人いるのが当たり前でした。多くの家族や親族がいるということは、外部との接続を求めなくても、社会関係資本のストックを持っているということですよね。

それが、私の息子の世代になると一人っ子が当たり前。核家族化が進めば進むほど、親戚関係以外の社会とのつながりが大きなテーマになると思うんです。しかも寿命も延びているわけですから、今の若い人の世代がシニア世代になった時には、ますます住環境におけるコミュニティの重要性が高まるのではないでしょうか。

荒:はい。そのあたりの社会背景については、僕もコミュニティ醸成の仕掛け側として意識せざるを得ません。

ただ、実際のマンションでの交流を見ていると、住民の方々は、そこまで深い理解がないままに餅つきをやっていたりする。そのため、マンションコミュニティが今後どのように広がって行くかは、気になるところです。

篠原:ひとつひとつのイベントに、深い理解や思いを持ち込む必要は必ずしもないと思いますよ。お祭りやイベントに参加する度に、少しずつ住人同士の人間関係が蓄積されてくと、ある時点で大規模修繕や防災といったマンション内の問題を共有しやすい下地ができる。マンションの住まい手は、そのことを肌感覚でわかっているような気がしますね。

荒:そうかもしれないなと思う一方で、住人同士の人間関係の蓄積にはそれなりに会って話す頻度が必要になるため、継続した集まりのデザインする際には、僕は住人同士がつながる意味や価値をわかりやすく伝えるように心がけています。意味や価値がわからない集まりには、あまり参加してもらえなくなってきますので。

とはいえ3.11以降にコミュニティに対する危機感を持つ人が増えましたから、あえて言語化しなくてもよい場合もありますね。そういう意味では、やはり3.11は大きな契機だったと思います。

次のページ:つくり手と住まい手が、共用空間の使い方についてコミュニケーションをとる。

2014/06/04

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


●HITOTOWA Inc http://hitotowa.jp/

●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi