Vol.16 コミュニティ×空間とメディア

毎回、さまざまな分野でスペシャリストとして活躍するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じてマンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは、建築設計事務所「Open A」代表取締役の馬場正尊さん。数多くの建物や空間の設計を手がける一方、メディア「東京R不動産」の仕掛け人としても知られる馬場さんが考えるマンションにおけるコミュニティ×空間とメディアの在り方とは。

都市生活者に“ちょうど良い”コミュニティ濃度ってどのくらい?

:馬場さんは建築家としても、編集者としてもさまざまな仕事を手がけられてきましたが、今日、お聞きしたかったテーマがふたつあります。ひとつめが、マンションをはじめとする集合住宅におけるコミュニティの在り方。もうひとつが、マンションのおけるメディアの役割です。まずは、マンションや団地におけるコミュニティについてのご意見をお聞きしてもいいですか?

馬場:そうですね。僕の基本的な認識として、都市部のマンションに住む人って、利便性を求めてマンションを選んでいると思うんです。これを、コミュニティやコミュニケーションという視点から切っていくと、大部分の人は、重たくてべったりとしたコミュニティに慎重な人とも言えるんじゃないかと思います。

僕自身、田舎で育ったのですが、田舎特有の濃密なコミュニティがすごく重かったし、だから東京に出てきているという部分もある。どちらかというと、コミュニケーションに対してドライ派のスタンスなんですね。おそらくそれが都市生活者のマジョリティじゃないかと思います。アノニマスな個人になれる気楽さが、地方とは違う都会の良さ。そういう価値観のマジョリティが崩れることは、今後も基本的にないと思っています。

:ムラ社会的な“しがらみ”は避けたいという方が、やっぱり大多数ですよね。ただ、その一方で、震災などの災害を経験するなかで、都市生活における“孤独”が浮かび上がっているという側面もあります。地域の人や隣人とちょっとしたつながりがあるだけで、万が一の場合の安心感は全然違うものですから。社会全体が、“孤独”と“しがらみ”の間のちょうど良い関係を探しているような感じがします。

馬場:そうですね。ちょうどその辺りのチューニングを始めている時期だと思いますね。もちろん僕自身の体験としても、団地の再生や地域の都市計画に関わって行くなかで、適度なコミュニティ濃度をどうやってつくるかということには、意識的にならざるを得ない。

:なるほど。でも、適度なコミュニティ濃度を実現するためには、どのような空間的な工夫が効果的なんでしょうか。

馬場:そうですね。これまでオフィス空間では実現できたいくつかの空間工夫があるので、これをマンション風に読み替えていくことができれば、と思っています。

:具体的には、どのような工夫ですか?

馬場:たとえば、商業空間の活用ですね。僕は、かつて複数の会社が入居するオフィスビルの設計をしたことがあります。そのプロジェクトでは、会社ごとの縦割りの関係をちょっとだけ横割りにするために、1階のエントランスに小さなカフェをつくったんですが、これが機能しました。それだけで、会社の枠を越えていろいろな人が交流する可能性が生ますし、そのカフェにファシリテーター的な役割を担う店員さんがいれば、なお良いですよね。

僕はマンションや団地などの集合住宅においても、カフェのような商業空間が、プライベートとパブリックをつなぐ中間領域のような機能を果たせるのではないかと思っています。

:おいしいコーヒーとパンがあって、顔と名前を覚えてくれる店員さんがいる。たしかにそれだけで、マンションや団地におけるコミュニティの風通しは格段に良くなる気がします。コミュニティをつくるためにみんなが集まったりするのって、やっぱりちょっと不自然というか。それよりも、コーヒーを飲んだり、パンを買ったりするという目的があって、そこから派生的にコミュニケーションが生まれるほうが自然ですよね。

馬場:マンションって一回住んでしまったら逃げられないコミュニティになりますし、結局、コミュニティって属人的な能力に頼る部分が大きい。システムではなかなか解決できない部分も多いと思うんです。でも、テナントさんとしてのカフェやパン屋さんだったら、ある程度交換可能なシステムとして機能するのではないでしょうか。もちろん、そのためには、マンションや団地の在り方やルール自体を問い直すことも必要でしょう。

たとえば、組合費の一部をお店に支払ったり、家賃をちょっと安くしてあげたりするかわりに、商業施設には、コミュニティに対するファシリテーション機能を少しだけ担ってもらうような仕組みを作ったり……。いや、別に「コミュニケーションしようよ!」なんて押しの強さはなくてもいいと思うんです。適度に商売っ気があって、適度に愛想が良くって、コミュニティに対してちょっと第三者的にふるまえる商業施設。そのくらいの感じが、都会的なコミュニケーションの距離感にフィットすると思いますね。

:商売っ気や、第三者性っていうのは、大事かもしれないですね。僕の仕事は住民同士のコミュニティづくりなんですが、結局マンションに行ってやってることって、普通のイベントだったり、ワークショップなんです。

ただ、そこにデベロッパーや管理会社、マンション住民とは違う立場から関れるからこそ、ほどよいコミュニケーションの距離感をつくり出せるのかもしれません。ちなみに、たとえば昔ながらの団地などには、敷地のなかに大きな集会所があったりしますよね。そういう空間を商業空間としてうまく利用することもできそうですよね。

馬場:集会所って、団地のなかでも良い場所にあるケースが多いですよね。そうした共用部分に対して、上手に商業的要素を差し込んでいくことができれば、すごく可能性はあると思います。

今の団地って、建物と建物の間のパブリック空間をうまく使い切れていないところが多い。だから、集会所はもちろん、1階の住居部分の用途変更ももっと柔軟にできれば、面白いんじゃないかと思います。たとえば、団地の1階に小さなパン屋さんがあって、朝になると良い匂いがしてきたりしたら、素敵だと思いませんか?

:いいですね。ベランダの部分をちょっと拡大してパンを売ったり……。団地って基本的に家賃が安いので、そんなに大量に売れなくても商売になるかもしれませんよね。パン屋さんだけじゃなくって、自転車屋さんだったり、カフェだったり……。趣味の延長ぐらいの事業体がたくさん入っている団地って、きっと面白いですよね。そういえば、最近の団地だとコンビニが入っている場所もありますよね。

馬場:コンビニだとちょっとシステマチックすぎるかもしれないですね。それよりも、インディペンデントな移動販売車に近い感じの在り方というか。人の顔が見えていて、エッジが立っていて、経済のスケール的にも大きすぎない。そんな空間があれば、パブリックとプライベートをつなぐ中間領域として機能すると思います。今の若い世代の働き方にも、符号するんじゃないですかね。

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2014/03/28

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


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●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

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