Vol.12 コミュニティ×環境デザイン

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じてマンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは、『株式会社チームネット』代表の甲斐徹郎さん。「環境デザイン」と「コミュニケーションデザイン」、「マーケティング」の3つの柱を掛け合わせながら、快適な暮らしのカタチを探るプロジェクトを数多く手がけてきた甲斐さんが考える、マンションコミュニティの未来とは。

環境やコミュニティとの関わり方を見つめ直す

身体と環境の関わり方をデザインするパッシブデザインという考え方

荒:これまで数々のプロジェクトを通じて、住まいの新しい在り方を模索してきた『チームネット』ですが、その仕事を考える上で欠かせない要素のひとつに、「環境デザイン」というキーワードがあると思います。まず「環境デザイン」とはなにか?というところから話を始められればと思います。

甲斐:「環境デザイン」は、うちにとってはすごく重要な位置づけなのですが、それは何かっていうと、基本的には建築用語でパッシブデザインと言われるものなんです。一方、現在の日本の住まいの多くはパッシブデザインの対義語であるアクティブデザインの考え方で、産業的につくられていますね。

荒:アクティブデザインとは、どのような考えなのでしょうか。

甲斐:例を挙げるとするなら、スマートハウスのような世界観かもしれませんね。まず気密性の高い住まいを作って、スイッチひとつで空調や照明、エネルギーなどを徹底的にコントロールして快適な住まいをつくる。簡単に言えば、これがアクティブデザインという考え方です。

つまり、住まいを一個の箱と考え、外部から切り離して自己完結させることで、コントロールするということですね。

一方、パッシブデザインというのは、周囲の自然とのつながりを絶つのではなく、上手く取り込んでいくことで快適さを実現するという考え方です。

たとえば今我々がいる『経堂の杜』は、夏になると周囲が完全に木々や葉で覆われるようになっています。そして、これらの緑の絶対表面温度というのは、年間を通じて上がることはありません。ですから、夏は建物全体が低い温度で包まれることになる。そして、クーラーなしでも驚くほど快適な住まいになるんです。

荒:人工的にエネルギー使用、つまり環境負荷をコントロールしようとするのがアクティブデザインで、自然の恵みをそのまま受け入れ、賢く利用しようとするのがパッシブデザインということですよね。

もちろんどちらも大切なのですが、感性的に自然の気持ちよさを感じるパッシブデザインは、まだまだ都心の住まいでは少ないと思います。

甲斐:そうですね。やっぱり、アクティブデザインの発想でつくったほうが、プロダクトとして産業化しやすいですからね。

でも、実はパッシブデザインの考え方を上手く導入すると、デベロッパーの開発する集合住宅をより販売力の高いものにすることもできるんですけどね。

荒:アクティブデザインの発想でエネルギーや環境負荷をコントロールしようとすると、空間を必ずどこかで遮断して管理ができるようにしなければなりませんよね。

そうすると、隣接する植栽や庭にある緑や風の流れとの関係性をも遮断することになってしまいます。特に夏の間は自然がつくり出してくれる心地よい涼しさを感じられずに、とてももったいなく感じますよね。

以前、甲斐さんと一緒にやらせていただいたマンションの企画では、周辺に緑が少ない立地にも関わらず、マンションの敷地内の植栽やグリーンカーテン、室内の通気の関係性を工夫することによって、本当に夏を涼しく快適に過ごせる環境を実現できましたよね。

甲斐:そうですよね。そして、その結果、好調な販売にもつながりましたよね。「環境デザイン」っていうのは、周囲の環境だけをデザインするということではなく、自分の身体と周囲の環境の相対的な関係を、いかにデザインするかという話なんです。

それをきちんとやると、クーラーのような装置に頼らなくても、快適に暮らすことができる。それどころか、機械で強引につくりあげたアクティブな快適さというものが、実は不快であるということもわかるようになるんです。

荒:「自分」という言葉は「自然の一部分」という由来があるときいたことがありますが、自分と自然との関係性、体感をデザインすることによって住環境の快適さを提供するわけですね。

甲斐:そういう贅沢な身体感覚を作り出すこと自体も『チームネット』の強みのひとつである「環境デザイン」に含まれると思うんです。

「コミュニティ」を目的化するのではなく「コミュニティベネフィット」を追求する

荒:「環境デザイン」のほかに、「コミュニティデザイン」という言葉も『チームネット』ではよく使われていますよね。

「コミュニティデザイン」というのは、人と人との関係性のデザインという意味でしょうか。私は、コミュニティというのは、ただそこに人がいればいいというわけではなく、どのようなことを趣旨に、どのような人々が、どのような関係にあるかが重要だと考えています。

甲斐先生のお話からすると、その人と人との関係性に関しても、体感すること。つまり、バーチャルな場ではなく、リアルな場で、会話をし、表情の変化を見て、ときに共同作業をしてと、そういった身体的な行動が伴うことが大切なのかな、と思います。

甲斐:そうですね。特に現代の都市部においては、人と人が関わらずに生きていくということはとても難しいですよね。ならば、どうせ隣同士で暮らすなら、個人単位だけでなく、みんなで一緒に贅沢なほどの快適さを目指せばいいと思うんですよね。

荒:マンションは、まさにその典型ですよね。1人では住めない場所に人々が集合して住んでいますから。甲斐先生の言う個人じゃ実現できない贅沢さをみんなで味わえたらよいですし、逆になぜ、いまそれができないでいるのかがもったいないですよね。

甲斐:そうですね。それを実現させるためには、「コミュニティ」自体を目的にしてはいけないということです。

「コミュニティ」っていうとどうしても窮屈なイメージを感じてしまう人が多いし、今のマンションライフの実情は、そこから遠ざかろうとしている。だから「コミュニティ」ではなく「コミュニティベネフィット」を追求するべきだと思います。

荒:「コミュニティベネフィット」とはどういった意味でしょうか。

甲斐:コミュニティベネフィットというのは、チームネットがつくったコンセプトで、「コミュニティを手段とすることで個人単位では実現させることのできない大きな価値を実現させること」を意味しています。

コミュニティを目的として追求しようとせず、あくまでも手段として位置づける。この点は、案外、多くの人にとって「目からウロコ」的なところがあるように思います。

荒:なるほど。ベネフィットを得るために、コミュニティがあるということですね。マンションの場合だと、具体的にどのようなベネフィットがあるのでしょうか。

甲斐:たとえば、共用部空間の緑は、その典型ですよね。多くの人が「生活の中にもっと緑があった方が良い」と感じているはずですから。

ただ、その一方で、それぞれが個人の空間の中に自己完結していってしまっている現状では、共用部の緑が「面倒なもの」になってしまいがち。手入れにお金や手間が掛かるなら、いっそ切ってしまおうという話になったりもします。

荒:悲しいかな、共用部に残った樹木が、住民の要望によって伐採されてしまうケースも少なくありませんよね。

甲斐:ただ、それで木を丸坊主にして全部伐採してしまうと、環境そのものの魅力はどんどん失われていってしまって、資産価値も下がってしまうかもしれない。

こういう負の連鎖に陥らないためにも、共用部の緑がかけがえのないベネフィットであることを、きちんと実感し、コミュニティとして守っていくことが大切だと思うんです。

次のページ:個人単位では実現できないワクワクを叶えるために必要なこと。

2013/08/12

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


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