Vol.10 コミュニティ×新しい集住のカタチ

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じてマンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは、多世代シェア住宅「マージュ西国分寺」オーナーで「マージュ西国分寺」内に店舗を構える「クルミドコーヒー」店主でもある影山知明さん。

幅広い世代が関わりながら、集合住宅に暮らす……。
新しい住まいのカタチを模索する影山さんが考える、コミュニティの大切さとは。

コミュニティの在り方を新しくデザインするということ

社会的な課題を予防するコミュニティの役割

荒:影山さんは「マージュ西国分寺」において、住居と共有スペース、店舗がつながる新しい暮らしのカタチを実現されていますが、まず、この「西国分寺プロジェクト」がどのようにして始まったのか教えていただけますか?

影山:ここはもともと築50年くらいの一軒家で、僕が生まれ育った場所でもありました。その建物が2005年ぐらいに空き家になってしまうことになり、「どうするか」と家族会議をしたのがそもそもの出発点です。

当初は手離れの良いコインパーキングか普通の賃貸マンションを建てようかと思っていたのですが、考えるうちに「せっかくつくるのなら、何か意味のあるものをつくりたい」と思うようになりました。

荒:当初から多世代シェア住宅にしようと考えていたのですか?

影山:最初に考えたのは環境共生というテーマでした。もともとこの辺りは雑木林で、僕らは子どもの頃からその中で遊んでいましたが、時間の流れとともに周囲はアスファルトとコンクリートばかりの街並みに変わっていて。うちの空き家だけが時代に取り残されたような空間になっていました。

だから、その雑木林を未来に引き継いでいけるような場所にしたい、と。そして、ちょうど同じ頃に出会ったのが、コレクティブハウジングという住まいのカタチでした。

荒:コレクティブハウジングとは、それぞれの住人が独立した住居を持って自立した生活を送りながらも、複数の共有スペースをいかし合うことで多世代型のコミュニティを形成していく、という新しい暮らしのカタチですね。

でも、どうしてコレクティブハウジングに着目されたのでしょうか。

影山:僕が大学を卒業した後に勤めたのが、「マッキンゼー・アンド・カンパニー」というコンサルティングの会社だったのですが、マッキンゼーで身につけた経営・マネジメントの技術をソーシャルな領域で活かせないか、というのがずっと自分のなかにあるテーマでした。

ただ、当時からいろんな社会起業家や事業に触れていくなかで、なにかすっきりしない違和感のようなものがあったんです。たとえば、病児保育の難しさや、高齢者の孤独死、若者の引きこもり……など、さまざまな「問題」を解決しようとする事業がたくさんありました。ただその多くが、どこか対処療法的なものに感じられたのです。

もちろん「起こった問題に対してどうアプローチするか」ということも、現実的には重要なことです。ただ、コレクティブハウジングのような人と人の関わり方でコミュニティを育むことができたならば、こうした問題群は、そもそも起こりにくくなるだろうなとも思ったのです。

荒:なるほど。その意味では、僕も昔から影山さんと同じ事を考えています。僕は現在、マンションコミュニティづくりに携わっているのですが、コミュニティがあることで予防できる社会課題って、実はかなり多いのではないかと思うんですよね。

僕は住宅会社のCSRに携わっていくなかでそのことに気づいたんですけれども、影山さんも昔からそういった問題意識を持たれていた。そして、その結果実現したのが多世代型シェア住宅「マージュ西国分寺」だというわけですね。

ところで、「マージュ西国分寺」の1階には「クルミドコーヒー」があります。この場所に「クルミドコーヒー」を作ったことも、コミュニティと関係していますか?

影山:はい、大きく関係しています。コレクティブハウジングの考え方で、「プライベートコモンスペース」と「パブリックコモンスペース」という言い方をするんですけれど、「プライベートコモンスペース」は、入居者のためのコモンスペース。

ただ、これだけだとどうしても関わり合いの範囲が限られてしまうので、もう少し開かれたコモンスペースがあることで、新しい風が入ってくるようになる。それを「パブリックコモンスペース」と呼んでいます。

昔の建築でいえば、たとえば縁側やお座敷は、「内」でも「外」でもある中間領域ですよね。この中間領域を現代の集合住宅に再現するとするならば、それはカフェなのではないかと思ったのです。

荒:実際にオープンから4年半を経た今、「クルミドコーヒー」を通じたコミュニティは生まれていますか?

影山:おかげさまで、これまでのべ12万人ぐらいのお客様に来ていただいているんです。

もちろんスカイツリーやディズニーランドの集客に比べればほんの小さな規模です。それでも、わざわざ西国分寺まで来て下さって、あの扉を物理的に開いてくれて、一回一回オーダーをお取りして……ということが、12万回繰り返されたというのは、結構すごいことじゃないかと思うようになりました。

もちろんお店に来られる方にはいろいろなタイプや目的の方がいて、ひとりでゆっくりしたいという方もたくさんいる。だから、なにがなんでもお声がけをするとか、ワークショップをやるとか、そういうことではありません。

ただ、12万人もの人々が集まれば、放っておいても「何か」は生まれてくるものです。マンションに住んでくださっている方とお店のスタッフ。スタッフと地域の方の場合もあります。さらに、地域の方とマンションの方など、いろんな対角線で人と人が交わっていく。

コミュニケーションのために集まっているのではなかったとしても、集まっていさえすれば、自然と関わり合いは生まれてくる。そして関わり合っていさえすれば、やっぱりいろんな動きや試みが、放っておいても立ち上がってくるんですよね。

「開く」、「閉じる」を選択できる自立型のコミュニティ

荒:今日「マージュ西国分寺」を見せていただいて、既存のコレクティブハウスとも異なる印象を受けました。いわゆるコレクティブハウスは、コミュニケーションの質や量について、しっかりルールを設けて運営しているところが多いですよね。

ところが、「マージュ西国分寺」では、もう少しゆるやかというか、住まい手に委ねられている部分が大きいように感じました。

影山:そうですね。ゆるやかにやっている部分はあると思います。

荒:なぜ、現在のようなカタチに落ち着いたのでしょうか。コミュニティの在り方について、影山さんの考えを聞かせてください。

影山:そうですね。特に東日本大震災以降、コミュニティの大切さや絆の大切さを感じている人は多いと思います。ただその一方で、かつての我々はそういう関わり合いや絆から逃げたくて、今のスタイルを選択してきたという事実も忘れてはいけないように思うのです。

ですから今必要なのは、過去に戻ることではなく、コミュニティとの関わり方を新しくデザインすることだと思います。

荒:具体的にはどのような再定義が必要だと考えていますか?

影山:かつてのコミュニティというのは、自分で選択的に関わっているというよりも、関わらざるを得ないものという面が強かったように思います。

農業をやっていれば水利の問題で、関わる必要性があった。テレビが一家に一台しかなければ、みなで集まってみるしかないですよね。そうした中、たとえば誰が誰と結婚するか、どんな仕事をするのか、それらすべてに地域の目があって、みんながどこか息苦しさを感じているような……。つまり、どちらかというと「依存型の共生」と言えるでしょうか。

そして、その息苦しさから逃げたくて、都会に移り住み、「自分で自由に決められる」生き方を選んだ結果、今度は孤立してしまった。つまり、「自立型の孤立」とでも言うべき現状になっていると思うんです。

これからのコミュニティは、「依存型の共生」でも「自立型の孤立」でもなく、「自立型の共生」を目指すべきではないかと考えています。

自分のことは自分で決められるという原則をリスペクトしながら、関わり合いのなかから、何か新しいことを実現していく。そういうスタイルを実現していきたいって思うんですね。

荒:たしかに、コミュニティにはわずらわしさもありますし、そこから抜け出そうとした結果、プライバシーを優先させた都市型のマンションがあるわけですよね。

この対談でも何度も話題になりましたが、プライバシーとコミュニティが共存し、なおかつ選択の可能性があるということが必要だと思います。その代表的な事例がコレクティブハウジングというわけですね。

影山さん:そうですね。たとえば、コレクティブハウスの、シェアハウスとのハード面での大きな違いは、キッチン、トイレなどの水回りが専有住戸の中にあることです。

つまり、外部に対して常に開いているのではなく、閉じたい時は閉じられるということですね。誰だって泣きたい日はあるわけでしょうから(笑)。「それぞれの暮らし方がある」という大事な価値を、ハード的にも後押しできているということは、コレクティブハウジングのひとつの大事な側面ですね。

荒:その意味では、世の中の大規模マンションにも、専有住戸のほかに、パブリックスペースやゲストハウスを備えた物件は多いですよね。

でも、それらの共用スペースはほとんどの場合、有効に利用されていません。それは、なぜでしょうか。

影山:その点に関しては、実体験として学んだことがあります。というのも、実は「マージュ西国分寺」でも、オープンからしばらくはなかなか共用スペースが使われなかったんです。

たとえばマージュ西国分寺では、月に一回ほどのペースで住民による定例会を行っていますが、この定例会で「共用部に植物を植えたい」という話題が出たとしますよね。

こうした時に、オープン当初は、「植物を植えるのはいいけれど、自分は興味がないから、水やりとかメンテナンスは興味がある人がやりましょう」という反応が返ってくるようなことがありました。

興味のあることには関わるけれど、興味のないことには関わらない。さらに言えば、自分にとって得になることには関わるけれど、得にならないことには関わらない。

これって、今の世の中的には普通の考え方なのでしょうし、別に悪いことではありません。ただ、みながそういう姿勢で関わっている場合、そこから何かが起こるということは、とても生まれにくくなってしまうんですね。

荒:なるほど。では、その状況を変えたきっかけはなんだったのでしょうか?

影山:「最初にどう説明するか」ということだと思います。カタカナで言うと「エントリーマネジメント」。ある時から「マージュ西国分寺」では、新しい入居者希望者の方への説明の仕方を変えました。

「まず、あなたのあなたらしい暮らしがある。それは大前提です。ただ、もしよければ、ほんの少し、あなたの周りの方たちに対して、自分も何か持ち寄っていく。周りをいかしていくということを意識してもらえないか。そうすれば、それはまわりまわって自分をいかしてもらえることにもきっとつながっていくし、その結果、より豊かなコミュニティや生活につながっていくと思うのです」と。

こうやってちゃんと話をすれば、ほとんどの人は前向きに受け取ってくださいます。

そしてこういう説明を事前にしていることで、先ほどのとある人の発意に対してのリアクションも「花を植えることには興味がないけど、水やりぐらいならやりますよ」とはなる人がほとんどです。この違いは大きいですね。

こうした、まわりをいかそうとするリアクションがあることで発意は現実になりますし、その過程を見ているまた別の人からの新しい発意を引き出すことにもなる。

大事なのは、「興味ない」「水やりくらいやるよ」の2つのリアクションは、ともに同じ人の中に存在するということです。

自分が興味のないことはやりたくないという人格は必ずいるし、ちょっとだけなら持ち寄っても構わないよという人格もきっといる。そのどっちのスイッチを先に押すか。つまり「エントリーマネジメント」次第で、その場に生まれる人間関係は変わってくると思うのです。

荒:「エントリーマネジメント」、つまり入口における情報共有の設計はとても大切ですよね。そういう意味では、影山さんのような大家さんや我々のようなコミュニティに関わる人間、管理会社などの第三者的な人の役割は、すごく重要ですね。

影山:最初の入口をどうやってつくるかというのがすごく大事で、後からひっくり返すのはすごく大変です。「そういう約束で入ってないもん」となっちゃいますからね。

荒:僕も住宅の企画をしていますが、僕が関わるマンションでもその点は非常に大切にしています。たとえば、販売という「エントリー」の場面からお客様に対してコミュニティについての説明をしますし、その説明によってコミュニティの必然性やおしゃれさを感じて頂けるかどうかもポイントです。

最初の段階で「コミュニティを大切にする住宅ですよ」というのは比較的伝えやすい。けれど、途中から既存のコミュニティに入り、コミュニティの大切さを説きながらコミュニティ自体をつくっていくという作業は難易度が高まるんですよね。

「エントリーマネジメント」の具体的な手法についてもう少し伺えますか?

影山:「エントリーマネジメント」といっても、入居者審査をするわけではありません。僕がお伝えするのは、「こういう暮らしをすれば、お互い豊かに暮らせると思っているけれど、それであなたがいいと思えば、ぜひ選んでください」ということ。つまり、最終的に自分で決定してもらうことなんです。

荒:やっぱり自分で決めてもらうということが大事ですよね。先ほど、依存と自立という話もありましたが。

影山:そうですね。結果的にその方が、コミュニティが長続きすると思います。

荒:現在のマンションでは「コミュニティは管理会社がやるもんだ」という感覚がありますが、これもまさに依存型の発想ですね。

コミュニティづくりのプロセスというのは手間がかかるものですから、住民参加型で楽しみながらボランタリーでやっていく面がある。そのことでコミュニティの継続が可能になるんです。そういう点を伝える第三者の役割や入口の設定はやはり大切ですよね。

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2013/05/30

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


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●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi