Vol.9 コミュニティ×未来の住まい

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じてマンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは日本デザインセンター代表の原研哉さん。「HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION」の展覧会ディレクターとして日本の未来を見据える原さんが考える、これからの住まいの在り方とは。

[HOUSE VISION]が照らす日本の住まいの未来

荒:発足当時から[HOUSE VISION]に注目させていただいています。まずお聞きしたいのは、そもそもなぜ原さんが[HOUSE VISION]を立ち上げたのかということです。きっかけや、住まいに対するモチベーションの源泉を教えてください。

原:個人的にはふたつのきっかけがあったと思っています。ひとつめが無印良品の仕事ですね。僕が2001年頃からアートディレクションを担当している無印良品には、7000ものアイテムがあります。

当然一つひとつの商品のプロモーションをていねいにやるわけですが、次第に食器や家具といった個々のモノではなく、暮らしの在り方そのものを考えなければいけないと思うようになったんです。

「ひとつの商品を買って幸せになる」のではなくて、生活者が暮らし全体を主体的に作っていくための能動性を支援すること。それが、無印の役割だと思ったんですね。

荒:その文脈でいえば、暮らしの在り方=家という流れは、とても自然なもののように感じます。もうひとつのアプローチとは、どんなものだったのでしょうか。

原:ちょうど同じ頃に「これからの住まいは、リノベーションが主流になってくる」ということを感じてもいたんです。考えてみると日本人って服を着るのは上手いし、セレクトショップでモノを買うのも上手。なのに、住宅だけはなぜか上手くないんですよね。多様なライフスタイルにかかわらず、みんなが同じような家に住んでいたわけです。

その大きな理由のひとつが、右肩上がりの経済成長が続いていたかつての日本においては、家は「金融商品」のようなものだったということです。「20年経つと住まいの価格が倍になる」というようなことが実際にありましたし、自分の暮らしにあわせてカスタマイズされた家よりも、値上がりする家に価値を見いだす時代だったわけです。

荒:なるほど。物件の売れやすさばかりを重視してしまうと、どうしても類型的で当たり障りのない住まいばかりになってしまいますよね。そういう意味ではかつての日本は「自分らしい住まい」に対して思考停止が続いていた時代だった、とも言い換えられるかもしれませんね。

原:だからこそ、自分の暮らしにあった住まいをつくるための読み書き能力、つまり「住宅リテラシー」を向上させていくような動きが必要だと思いました。[HOUSE VISION]発足の背景には、そんな問題意識も強く影響していると思います。

荒:私は2004年に住宅デベロッパーに入社しましたが、その頃から住宅業界は変わらなければいけないと言われていました。

それは、人口分布や世帯形態の変化によるところが大きいのですが、中古物件のリノベーションや少子高齢化に合わせた住まいづくりというのがテーマになっていたように思います。

ただ、その頃から10年経った今でも、実は業界的に大きな変化はないですよね。その意味でも、将来の住宅産業のビジョンを示す[HOUSE VISION]の果たす役割は大きいと思います。

ところで[HOUSE VISION]を始める前と後で、原さんの住まいに対する考え方には、どのような変化があったんですか?

原:随分変わったと思いますね。いろいろ変わりすぎて、何が変わったのかわからないぐらい(笑)。

僕はグラフィックデザイナーで、住まいの専門家ではありませんから[HOUSE VISION]の活動は日々勉強です。僕にとって特に大きな変化のひとつは、2050年頃の日本の姿をリアルに想像するようになったこと。2050年の日本では人口の40%が65歳以上の高齢者になり、世帯人数1~2人の世帯が大半を占めるといわれています。

多くの経済学者たちが労働生産人口の減少を憂いていますが、実際にこの先の日本は「縮退していく社会」と向き合わざるを得ないと思います。ただ一方で僕は、2050年の日本を「みんなが思っているほどひどくはないかもしれない」と考えてもいるんです。

荒:それは、どのような意味ですか?

原:たとえば、日本の65歳というのは、世界の人々が考えているよりもずっと若々しいと思うんです。

平均余命は20年ぐらい残っているし、比較的健康でもある。感覚的には諸外国の55歳くらいのイメージではないでしょうか。単に統計データだけでは語れない部分が多いのではないかと思います。

また、日本の高齢者は、世界的に見て預金残高が抜群に高い。彼らが溜め込んだお金をマーケットにきちんと落とし込むことができれば、産業という側面からみても、日本の社会の未来はそれほど暗くはないのでは、と思っているんです。

荒:そのためのきっかけとなり得るのが、“住まい”というわけですね。

原:子どもはもう手を離れているし、自分自身もまだまだ元気。そういう余裕のある層がこれからは増えていくし、彼らが自らの人生を仕上げていくための空間としての“住まい”に目を向けるならば、そこに大きなマーケットが生まれる可能性はあると思います。

ただ、そのためには面白いビジョンを示し、「なるほど」と思えるような説得力のある実例をいっぱい示していくことが必要です。

荒:住まいをつくることの面白さを具体的に提示し、「こういうことか」と気づいてもらわなければいけないわけですね。まさに[HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION]のコンセプトそのものですね。

原:潜在化した欲望というものは、実際に具体的なリファレンスを見せていかないとなかなか喚起できませんし、欲望のエディケーションをしない限りは、良いマーケットは育たないと考えています。

そもそもニーズばかりを重視してモノを売る世界は、だらしない世界にしかならないように思います。ニーズというものは、たとえるなら太っている僕のお腹みたいなもの。お腹のニーズに合わせてベルトの穴をゆるめつづけると、どんどんだらしない体型になっていきます。住まいも同じで、既存のニーズに合わせて家をつくると、大きいベッドと大きいテレビとソファがあって……と怠惰な空間になっていってしまいかねません。

だからそうではなく、人々の暮らしの中での知恵=生活知を誘発するために、どんな住まいのカタチが必要なのか。その点を考えていくことが、必要なのではないかと考えています。

荒:集合住宅やコミュニティについても、人々の生活知を誘発する仕組み作りが大切なのかも知れませんね。

原:日本の人たちがどういう知的水準になっていくのか。それは50年後の日本の一番大きな問題だと思います。生活知が高いところへ移行していければ、住まいも車も、エネルギー消費の在り方も、世界をリードする水準に移行していけるでしょう。僕は、日本にはその可能性があると思っています。

荒:なぜ、日本が世界をリードしていけると考えてらっしゃるのですか?

原:たとえば、これまで僕らが家に関して無頓着だった理由のひとつに、変化のスピードが速すぎたことがあります。

住まいのカタチも、家族のカタチも、コミュニケーションのカタチも。すべてがめまぐるしく変化する時代のなかでは、こと家をつくることに関しては祖父の知恵も父の知恵も、僕らにはあまり役に立たなかったわけです。

一方で、欧米は住まいに関してはものすごく保守的で、おじいさんの使っていた家や家具をそのまま使ったりします。もちろんそれは彼らの美点なのですが、変化に対応するスピードでは日本の方が優れているともいえますよね。

だからこそ今後、住まい手の知恵を誘発できる新しいサービスなり住まいのカタチを生み出していける可能性があると思うんです。

次のページ:マンションコミュニティをめぐる“生活知”の在り方とは

2013/04/03

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


●HITOTOWA Inc http://hitotowa.jp/

●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi