Vol.7 コミュニティ×ソーシャルデザイン

「地域のこと」に対するプライオリティを上げる。

人と街との関わり方の根本的な課題について。

荒:地域やマンションが抱える問題って、往々にしてコミュニケーション不足、もうちょっというと情報共有不足だと思うんですよね。「理事長さんってだれ?」という話も然りですけれど、その辺りの問題を解消するツールとしてのメディアの在り方、人としての在り方について意識していることってありますか?

兼松:メディアとしての在り方というよりも、人と街との関わり方の部分で気になっていることがあります。たとえば僕の場合、片道1時間半かけて通勤しているので、友人とご飯を食べてから家に帰るとだいたい23時頃。そうなると、地域のために時間を使うって現実的に難しいと思うんです。一方で僕の場合、毎週火曜日と木曜日を自宅作業日にしていて、その日になると、とたんに近所のことが見えてくるんです。「神社に行ってみようかな」とか「散歩してこようかな」と思うし、その時間が大好きなんですよね。そういう経験があってはじめて「地域のために時間を使おう」という気分になれるような気がします。つまり、多くの人にとって現在「地域のために」というのが優先順位的には下の方になっているのが問題で、そういう状況でメディアを作って「インタビューに答えてください」と言っても、多くの人にとってはただの「めんどくさい」ことでしかない。そもそもの話として、働き方や暮らし方、職場との距離といった根本的な課題があると思いますね。

荒:僕もこういう仕事をしているけれど、確かに忙しくなればなるほど自分の住まいに対するプライオリティは下がってしまいます。僕は住んでいるマンションの防災担当をしているんですけが、なかなか手が着けられなかったりしてもどかしい想いをしていますから。そもそも自分の街で過ごす時間が少ないから、優先順位が下になってしまうんですね。

兼松:ただ、僕の街にも片道1時間半かけて都心に通っている人はいっぱいいるはずだし、23時に帰って家の近くで一杯飲みたい時だってあるはず。マンションの中にバーとかがあったら行くかもしれません(笑)。同じマンションの住人同士なら、世代が近いケースも多いと思うし、もしかしたら「今度遊びましょう」という話につながるかもしれないですよね。

荒:職場コミュニティで飲む人が多いんですよね。ご近所コミュニティで飲む機会が増えれば、もっと地域は盛り上がりますよね。よくよく考えてみれば「子どもと過ごす時間」や「お祭り」って、場合によっては「仕事」よりも優先順位が上になる場合もある。そういう楽しみのひとつとして「地域のこと」が認知されるとうれしいですよね。

兼松:「地域のこと」のプライオリティを上げるためのきっかけづくりも、おそらくいろいろなやり方があると思うんですよ。たとえば今、僕がやってみたいのが、地元で愛されている店の記念日をみんなでこっそりと祝うこと。誰だって自分の街に「あのパン屋さんが大好き」とか「魚はこの店で」という思いがあるはずで、それをみんなで共有して街の大事なお店の「開店10周年」とかをサプライズ的に祝福するイベントです。地域の人々で秘密を共有しながら進めることできっとコミュニティの結びつきは強くなるし、基本的に喜ばせようとするイベントだから、ポジティブな感情を持ちやすい。それに、お金を掛けずにひとりひとりができることをするという形にしておけば、それぞれの住人が持っている能力やスキルが可視化されると思うんですよ。「俺、これならできるよ」とか「webならまかせろ」とか。

荒:マンションに住んだ記念日=マンションのバースデーイベントなんかも面白いかもしれませんね。もちろん現状でも本当に仲が良いマンションもあるし、手助けしあっているマンションもたくさんあります。そんなマンションが増えれば、きっと待機児童の問題とかも、不安じゃなくなるし。育児に対する社会問題の大部分はコミュニティで解決できるんじゃないかって思うんですけどね。

兼松:そもそも、「なぜ地域に貢献するきっかけがこんなにないんだ」とも思いますね。仕事でジョブマッチングがあるように「地域のためできること」のマッチングができたらいいのに。「1日地域の小学校でウェブについて教えて欲しい」と言われれば、いくらでもやりたいですよ。

荒:確かに「greenz.jp」の編集長が住んでいて、いろいろ教えてくれるとなったらうれしいですし、きっとそれは街にとっての付加価値にもなりますよね。もちろん、そういった付加価値は日本全国にあるはずですし。

兼松:絶対にありますよ。ガンダム好き的にはたまらない街とかね(笑)。そういえば、これは隠岐島の海士町で活動する信岡くんに聞いた話なんですけど、昔は人々の生活に「暮らしと稼ぎと仕事」という概念があったそうなんです。「暮らし」は家の中のこと、「稼ぎ」は街に出て働くこと、そして「仕事」というのは、近所のために祭りの準備をしたり、橋を直したりすること。彼らが書いた『僕たちは島で、未来を見ることにした』という本に詳しいのですが、本来どれも大切だったはずなのに、今は「稼ぎ」と「仕事」が一緒になってしまっている。「稼ぎ」のほかに「仕事」をつくることが大切なのかもしれません。

荒:さらに今、地域やコミュニティへの関心の集まっている大きな背景のひとつに、震災があると思っています。実は先日、宮城へ避難所のリサーチに行ってきたんですが、避難所生活が円滑に行っている場所って、やっぱりもともとコミュニティが醸成されていた地域なんですよね。「誰々の知り合い」でつながっている人たちにはやっぱり信頼関係があって、その知り合いが流されてしまっているような極限のメンタリティの時でも、うまくいっているケースが多い。だから防災・減災という側面から見ても、地域とのつながりやコミュニケーションは大切。そのためにも「地域のこと」に対するプライオリティを上げることが必要だと思います。


《プロフィール》
「グリーンズ」編集長
兼松佳宏
1979年秋田生まれ。大学卒業後、企業でのデザイナー、クリエイティブディレクターを経て、2006年にフリーランスとしての活動を開始。「greenz.jp」の立ち上げにデザイナーとして関わり、2010年より「greenz.jp」編集長に就任。グリーンズとしての編著書に『ソーシャルデザイン』(朝日出版社)がある。

2012/12/27

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


●HITOTOWA Inc http://hitotowa.jp/

●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi