Vol.6 コミュニティ×都市生活

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々とコミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じて、マンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは今、「IDEE」や「自由大学」などのファウンダーであり「流石創造集団株式会社」CEOとして活躍する黒崎輝男さん。

時代の賢人が考える、理想のマンションコミュニティライフとは。

“縄張り”意識はもう古い!? 所有から共有の時代へ。

何を“してもらえるか”ではなく
それぞれに何が“できるか”。

荒:「IDEE」や「sputnic」、「自由大学」などを設立し、常に時代の先を行くライフスタイルを提案されてこられた黒崎さんですが、現在注目している住まい方やライフスタイルとはどんなものですか?

黒崎:かつてはアメリカならニューヨークやロサンジェルス。ヨーロッパなら、ロンドンやパリ、ミラノによく行っていました。ただ、10年ぐらい前からそれらの対象がぐぅっと北へ上がってきて、アメリカならボストンやポートランド、ヨーロッパなら北欧に注目するようになっています。なぜかというと、気候的なものはもちろん、大国主義でないところがあるから。カルチャーとして、“ゆるく共有する”というようなヒッピーカルチャーのようなものがあるんですよね。

また、北欧の国々って、社会福祉が整っているというイメージがあって、日本もそこを目指しているようなところがありますよね。ただ、必ずしも北欧がもともと楽園だったわけではありません。スウェーデンはかつて自殺者も多く、孤独死などの個の孤立という社会問題が非常に深刻だった。スウェーデンには、老人たちのコミュニティや学びの場造りなどに取り組んできた歴史があります。ひと言で「社会福祉」といっても、ただ安全に死ぬまで養われる環境を作れば良いというものではない。社会として弱者に何をしてあげられるかを考えることが、いかに大切なのだと考えさせられますよね。

荒:実際に、スウェーデンではどのようなコミュニティづくりをしているのですか?

黒崎:ものづくりなどを活用したコミュニティづくりが始まっているようです。今、コミュニティといえばバーチャルなものが中心ですが、野菜がちょっと多く採れたから隣家に分けてあげるとか、そういうリアルなコミュニティも必要なのかもしれませんね。たとえば僕たちも「Farmer’s Market」というのを立ち上げて、青山などで活動していますが、毎日1万人が訪れる大きなコミュニケーションの場となっています。「Farmer’s Market」では、ごはんも食べられるし、農家同士のコミュニティも生まれている。このように多角的な役割を担う場をつくっていくことが大切なのかもしれないですね。

それと、究極的に言えば、日本人は何を“してもらうか”に走りすぎていると思うんです。それぞれがもっと何を“してあげられるか”に目を向ける人が増えれば、良い変化が起きると思います。

荒:まさに、マンションコミュニティにも同じことが言えますね。ついつい自分に対してコミュニティは何を“してくれるの?”という風に考えてしまいがちなのですが、そういう人が多いと、なかなかコミュニティとしてはうまくいかない。コミュニティのためにこれが“できるよ”という人が多いとうまくいくんですよね。

黒崎:そもそも他人のためにこれが“できるよ”という人が育つような環境になってないと思いますね。たとえば偏差値教育が顕著な例で、隣の人の偏差値が上がると、自分の偏差値は下がってしまう。だから人々は自分の知識を隠してしまうんです。そうなると他人に対して何を“してあげられるか”と考えるのは難しいですよね。

荒:確かにそうですね、自然と人より得をしようという意識になってしまっているのかもしれません。しかしながら、「コミュニティ」とともに「シェア」というキーワードが最近では頻繁に使われています。「シェア」というのはまさに自分ができることや自分にあるものを差し出すところから始まると思うのですが、その点はどのように感じてらっしゃいますか?

黒崎:「シェア」といえば、昔はマーケットシェアに代表されるように占有率のことでした。今はシェアハウスやシェアオフィスのように「共有する」という意味合いが強くなり、“コモン”の方向に流れてきたと思います。今後、どうなってくるんだろうというところには興味がありますね。ウィキリークスのように、すべての情報を「共有する」のが、良いか悪いかはもちろん別問題。ただ、隠して占有するよりも共有する方向に動くだろうと踏んでいるわけですよ。その点、アメリカのポートランドに行くと、ヒッピーコミューンのように「ゆるく共有する」雰囲気がありますよね。

荒:『グリーンネイバーフッド-米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた』(著:吹田良平/繊研新聞社)を読みましたが、黒崎さんは頻繁に行かれていますよね。

黒崎:ポートランドにはこれまで50回以上、今年だけでも5回ほど行っていますが、面白い都市です。さびれた倉庫街をクリエイティブやコミュニティの力で小さな地域を再生させた事例として、僕らが学ぶべき点は多いでしょうね。地域の中にどのような要素があれば、クリエイティブクラスが集まり、地域が活性化するのか。そのためには、どの要素をどう抑えていくのか。これこそが、とりもなおさず良いコミュニティのつくり方だと思います。

荒:コミュニティは、集まる人の思いや考えに左右されます。きわめて俗人的な面があることも事実なんですよね。そのため、街にクリエイティブクラスが集まる仕掛けがあることがとても大切ですよね。ところで、黒崎さんが考える地域を活性化させるために必要な要素って、いったいどのようなものでしょうか。

黒崎:まず、価値観が多様であることが、大切な条件だと思いますね。たとえば今の日本って、お金がないと良い塾に行けない。すると、良い学校に行けない。結果、良い仕事に就けないという考え方に支配されていますよね。お金がなくても面白いことがある、というのがないから問題なんです。マンションも同じで、何㎡のどこそこにある高級マンションという価値観しかないような気がします。今後は、古いマンションをいかに活用するか、という方向に国も動くでしょう。たとえばシェアオフィスのように、建物をただ “所有”するのではなく“共有”するための会員制度などが生まれても面白いかもしれませんね。

荒:“所有”ではなく“共有化”していくということですね。現在のマンション、住まい、ひいては不動産というものは”所有”が基本的なコンセプトになっています。ここまでは自分のものであり、権利であると。しかし、それを”共有化”していくというのは具体的にはどういったことなのでしょうか。

黒崎:たとえば僕らの「Farmer’s Market」は主店する権利を提供しているだけだから、敷地に対する縄張りはないし、はみ出したって良い。根本的にそういう部分があるから、上手く回っているのではないかと思います。日本は封建的で、縄張りの意識が強過ぎるんですよね。敷地に縄を張って、こっちからこっちはいくら、という感覚です。でも、

荒:今の話を伺って思い出したのは、高層タワーのマンションは、なぜコミュニティをつくり難いのかということです。というのも、タワーマンションって、高層階か低層階かによって各戸の専有面積がまったく違う。それぞれが床数に応じたサイズの権利を主張してしまうと、コミュニティは非対称になる。こうなると、なかなかうまく機能しないケースが多いんですよね。

黒崎:イギリスでは、建物の真ん中にコミュニティガーデンと呼ばれる中庭があって、ここは住民たちがシェアする空間になっています。この中庭の所有権はコミュニティ全体が持っているし、住人同士が互いに紳士協定を結んで、マナーを守って運用しているんです。たとえばここに日本的な“縄張り”意識を持ち込んでしまったら、コミュニティなんてうまくつくれるわけがないですよね。

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2012/10/29

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


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●Twitterアカウント: aramasafumi