Vol.5 コミュニティ×建築

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々と コミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じて マンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、 「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。

今回のゲストは今、もっとも注目される若手建築家のひとり、藤村龍至さん。
建築だけでなく、都市環境や社会問題、アートについても積極的に情報を発信する
気鋭の建築家が見つめる、これからのマンションコミュニティとは。

建築にもっと対話を。
気鋭の建築家が考える理想の集合住宅とは。

時代とともに変化する 集合住宅の在り方

荒:日本を代表する若手建築家として注目される藤村さんにまずお聞きしたいのが、最近の集合住宅の在り方についてです。僕はもともとマンションデベロッパーで働いていたのですが、正直に言うと、なかなか面白い住まいをつくりづらいと感じていたんですよね。効率性やコストを重視せざるを得ず、規格品をつくっているような感覚に陥ることもありました。そのあたりをどう感じていますか?

藤村:一般論で善し悪しを語るのは難しいですが、集合住宅の在り方の変化というものは感じますね。たとえば60~70年代までは、コンクリートの建物を並行配置した“団地”が一般的でした。80年代に入ると多少多様化してきて、“ニュータウン”という考え方になってきます。この頃には、文字通り街をつくる、都市をつくるという感覚があったと思います。さらに90年代以降、特に2000年代になってきてからはタワーマンションに象徴されるような“巨大建築”をつくるのがトレンドになってきました。何千戸単位、延べ床面積が20へクタールもあるような巨大建築は、マンション自体がひとつの社会になるというようなスケール。これは新しい動きだと感じています。

荒:コミュニティに対する価値観も変わってきているように感じますね。たとえば、昔の団地は同世代の人がたくさん住んでいて、好き勝手に人の家に上がりこんだりしていた(笑)。ところが近年はプライバシーを重視する傾向が強くなっていて、その分コミュニティの結びつきは弱くなっています。住まいに対する価値観の変化が、建築の変化を生んでいるのでしょうか?それとも、デベロッパーが容積率を満たすためにつくり込んでいった結果、コミュニティが生まれる余白や共有スペースが削られてしまったのでしょうか?

藤村:両方だと思いますね。住まいに対するニーズが先鋭化/成熟化してきた分、ハイスペックな住宅を提供しなくてはならなくなったという側面がひとつ。もうひとつが、投資から回収までのスピードが上がっているため、昔のようにゆっくりひとつの地域をつくるという余裕がなくなっているというデベロッパー側の論理です。たとえば、80年代には集合住宅のまわりに緑地を増やして、小学校や図書館などのインフラをつくって、街ごとパッケージにして売ろうという試みが行われていましたが、近年は競争が激化したことから設計も短期決戦型になってきています。 現状では“売りやすい住宅”がある程度定式化されていて、そのスタイルから外れるのが難しくなっているのだと思います。

荒:そんな状況の中、藤村さんが手がける住宅は定式化されたスタイルから飛び出したような実験的な試みを多くされていますよね。

藤村:実際にやってみると、プロジェクトごとにいろいろとやりようはあるんですよ(笑)。たとえば、設備機器スペースのとり方ひとつ工夫するだけで、余剰のスペースを作り出せることも多い。建築家が諸条件を上手に統合していくことで、空間をより活かすことは可能だと思っていますね。

荒:外部に対して“開かれている”ことが、建築のキーワードになっているのも面白いですね。

藤村:僕はオランダに留学していたことがあるのですが、オランダの集合住宅はとても開放的なつくりなんです。建物の表通り側と裏通り側がはっきり分かれていて、表通り側=パブリック、裏通り側=プライベートと明確に使い分けられていて、都市の構造自体もそうなっているんです。その点で、日本の住宅はプライベート感が強すぎて孤独感があると思ったんです。もちろん、グランドレベルというか、表通りに関してのセキュリティは大切ですが、一歩中に入れば、開放的な作りの方が気持ちいいな、と。

対話を重ねることで 理想的な建築に。

荒:藤村さんはクライアントや住む人、建築業界の方々など。建築物に関わる人々と、緻密にコミュニケーションを取っていくことを重視されていますよね。これも、短期間で効率優先が主流になった現在では、珍しいことなのではないでしょうか。

藤村:もちろん建築家としては、ハードを設計することが本職であり目的です。ただ、その前提条件としてコミュニティのデザインやコミュニケーションはすごく求められていますし、建築にはもっと対話が必要だと思っています。たとえば一戸建ての住まいですら、夫婦間の調整が必要。集合住宅ともなれば、居住者や近隣住民など、関係者はさらに多いわけで、その人たちが譲ったり譲られたりしながら意見を交わし合って、多くの意見を少しずつ踏み固めていった結果にできた建物というのが、ある種の理想だと思うんです。また、そうした合意形成プロセス自体がコミュニティ醸成のきっかけとしても機能すると思うんですよ。

荒:もっと対話があれば、というのは本当にそうですね。私は、マンションの住民の皆さんといっしょに一年間ぐらいかけてコミュニティづくりをしたりするのですが、入居後の方にお話しを聞くと「掲示ボードはあっちに付けてほしかった」なんて話がたくさん出てくる。でも、そうした個別の意見には、後からなかなか対応できなかったりするんですよね。また、マンションの共用部ってなんだか使っちゃいけないような雰囲気になっている場合が多いんですけど、コミュニケーションが増えて、住民参加型のスペースとして活用できれば単純にもっと楽しいですよね。そう言う意味では、建てる前のプロセスからどんどん住民の意見を取り入れられればいいし、ハードの作り方ひとつでコミュニケーションを促すこともできるはずです。

藤村:そうですね。本来は住人がノコギリをもって手を入れられるような建物の方が、愛着を持って住んでもらえると思うんですけどね。それから、コミュニケーションという文脈では、今は新築時にコミュニケーションのピークが来ているという問題もあると思います。建てた後、どういう風に修理していくか、建て替えしていくか、という話がないまま20年ぐらい経ってしまうと、誰が設計して全体を管理しているのかが分からないという状況になってしまう。今後、老朽化から建て替えを必要とするマンションがどんどん増えて行くので、そういう問題は顕在化してくるでしょうね。ただ、そういう問題がマンションのコミュニティを再生させるきっかけになることも期待できますよね。

荒:最近の共著書『建築文化シナジー コミュニケーションのアーキテクチャを設計する-藤村龍至×山崎亮対談集』(彰国社)でも書かれていますが、建築家というのが社会課題を解決する存在として再定義されるべきではないか、という提言をされていますよね。本の中でも「ソーシャルアーキテクト」という言葉が出ていて、すごく興味深いと思いました。僕がマンションコミュニティづくりをやっているのも、お客さんの顧客満足度の向上だけでなく、防災や育児、シニアや障がい者との共生、ペットの愛護やシェアライフなど、様々な社会課題解決型のライフスタイルの提案ができるからなんです。

藤村:そもそも建築家って、社会全体のライフスタイルやコミュニティのあり方を提案する人たちだったと思うんです。それがバブル期に建築家の芸術家的な側面がメディア上で強調されすぎて、偏った建築家像が形成されてきた。極端に言えば、建築家は難しいことを言って自分たちのやりたいことだけをやっている人と思われるようになったんです。その背景にはいろんな要因があって、どういう風に変えたら良いのかは総合的な問題だと思うけれど、建築家自身はもちろん、メディアや教育も変わる必要がある感じがしますね。

荒:たとえば、3.11後に立ち上がった「Archi+Aid(アーキエイド)」は、建築家による復興支援ネットワークですよね。さまざまなプロジェクトを行っていますが、これも建築家が社会的課題を解決する、というひとつのカタチでしょうか。

藤村:全体的な雰囲気としてコミュニティや社会課題への意識の高まりは感じますね。以前まではコミュニティやワークショップへの参加は、建築家自身の作家性を曇らせてしまうものとして、否定的な論調が強かったんです。それが、一部の建築家の方々が率先してコミュニティの問題に取り組み始めてから、拒否反応が少なくなった気がします。ちょっと前までは個人的な想像力や創造性のインパクトが重視されていたのですが、「どれだけ対話をしたのか」、「どれだけの人に関わったのか」というのが重視されるようになった。それはひとつの大きな変化だと思いますね。

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2012/08/30

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


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●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi