Vol.3 コミュニティ×美しい母(後編)

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々と
コミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じて
マンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、
「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。
産前・産後の女性の心と身体のケアを行う『マドレボニータ』代表の吉岡マコさんとの対談の後編です。

前編はこちら>>

孤独をひとりで抱え込まず助け合える世の中に。

第三者の助言が育児の孤独を救う

荒:マコさんは、これまでさまざまな相談を産後の女性から受けていると思うんです。産後間もない母親達は、どのような精神状況に置かれているんでしょうか。

吉岡:まずは孤独感ですね。しかも、その孤独感を予想していないところがクセ者なんです。ほとんどの妊婦にとっては出産がゴールで、出産さえしてしまえばバラ色の人生が待っていると思っています。でも実際に出産してみると、子育ては予想以上に大変だし、育児に行き詰まっても、赤ちゃんが話し相手になってくれるわけではない。授乳やおむつ替え、沐浴に追われる日々のなかで「ひとりじゃないのに、なぜこんなに孤独だろう」という気持ちになるんです。気晴らしに外に出かけたくても「赤ちゃんが泣いたらどうしよう?」、「おむつ替えする場所は?」という不安は常につきまとうし、たとえ外出できたとしても「こんな小さい子を連れ回して」と言われたりもする。赤ちゃんと一緒にいるのに孤独を感じている自分自身に対して罪悪感を覚えてしまうケースも多いんですよ。

荒:産後の精神状態やヘルスケアの必要性がもっと社会に認知されれば、罪悪感を覚える方も少なくなるんじゃないでしょうか。

吉岡:一番良いのは、第三者が「ちょっと外出してみたら」とか「こういう教室があるわよ」と言ってあげることだと思います。10年前に比べればずいぶん減ってはいますが、母親が自分自身のためにお金や時間を使うことに罪悪感を覚える人はいるんですよ。基本的に母となったら、子どもと夫に滅私奉公するべき、という古い価値観が残っていて、それがすり込まれていると、どんなに若くても自分を責めてしまうことがあります。だから、「もっと自分の時間を持ったほうがいいんだよ、それは子どものためでもあるんだよ」と言ってあげる人が必要なんです。

子育てを支え合えるコミュニティをつくる

荒: なるほど。第三者の存在がカギになるんですね。今はただでさえ助け合いができる地縁が少なくなっていて、育児に助言できる第三者というのは貴重な存在なのかもしれません。私は、こうした助け合いの地縁を復活させるための活動をしているのですが、マコさんは近所づきあいと産後ケアの関わりについては、どんな考えをお持ちですか?

吉岡:とても重要なテーマだと思っています。たとえば今、私たちは、身内のインストラクターやスタッフが出産すると、親しい仲間うちででシフトを組んで順番に沐浴や家事の手伝いに行くということを試みとしてやっています。産婦は1カ月間、出産によるダメージから身体を回復させるために、とにかく寝ていなければならないので、かわりに私たちが交替で家事や上の子たちの保育園のお迎えなどを手伝いに行くんです。勿論、妻の産後にパートナーが育休をとったり、実家のご両親が手伝いにきてくれたりという風習はありますが、赤ちゃんとの生活は本当に人の手が必要で、ご両親と夫だけではまわらないことのほうが多く、家族全員が疲れきってギスギスしてしまいやすい。

そこで、血縁の家族だけでなく、他人である私たちもお家にあがりこんで、洗濯ものをたたんだり、沐浴をしたり、おせっかいをするんです。高価な贈り物をもって遊びに来てお茶飲んで帰るくらいなら、沐浴をしたり、赤ちゃんを抱っこしてあげてその間ゆっくり睡眠をとってもらったり、出産直後の家庭に必要なサポートをするほうがいい、という考え方です。そのほうが、産婦は、産後の身体をゆっくり休めることができる。同時に、家にこもりきりでストレスがたまりやすいときに、手伝いにきた友人とおしゃべりすることで精神状態を健康に保てる。家庭に他人が入っていくことで、密閉されがちな夫婦関係や親子関係の風通しが良くなるという側面もあります。

荒:大きめのマンションだったら、そういったプログラムを住民の間で展開できる可能性もありますね。

吉岡:「プログラム」というほど堅苦しいものではなく、すでにやっているケースもありますよ。過去に200戸ぐらいのマンションの集会室で「マドレボニータ」の体験クラスをやらせてもらったことがあるんです。その体験クラスをきっかけにマンションの母親同士につながりができたことから、あるかたに2人目が生まれた際「じゃぁ、私達が手伝いにいくよ」という話になり、交替でお惣菜をもっていったり、上の子を預かってあげて子どもたちで遊ばせたり、沐浴やお洗濯をしてあげたりという「おせっかいの輪」がうまれたそうです。

荒:それは理想的なケースですね。人が集まって暮らしている集合住宅の、本質的な価値のひとつだと思います。同じマンション内だと物理的な距離も近いので、手助けもしやすいですよね。

吉岡:そうですね。産後一ヶ月間は産褥期といって、床についてしっかり休まなければいけない時期ですが、産後二ヵ月以降は、いかに外に出て人と関われるかが重要。そういう意味でも、エレベーターに乗るだけで行き来できる場所や友人がいることは、すごく助けになると思います。

荒:そうなると「マドレボニータ」の体験イベントのようなマンション内の企画やキッズスペースの有効活用など、マンション内に友人をつくるきっかけが必要ですね。

吉岡:先ほどの200戸のマンションの例のように、一人目の子どもがきっかけで母親同士がつながりをつくって、二人目以降のケアをサポートし合うというケースは比較的成立しやすいですよね。ただ、本当は一人目の妊娠中からそういう関係が生まれたら、理想的ですよね。

荒:
妊娠する前から近所に助け合える仲間を作っておくことが、本来は必要なんですね。そういうつながりを作っていくことは、私の役目だとも思っています。今日はこういうお話しをお聞きできて、産後のヘルスケアの必要について世の中としても私自身としても、もっと問題意識を持って取り組まなければと感じました。最後に、これから出産される方や産後間もない方に向けてのメッセージをお願いします。

吉岡:たくさんの産後の母親達を見てきて思うのは、子育ても、悩みも、葛藤も、ひとりで抱え込まないでほしいということ。もちろん、抱え込まないでと言われても、抱え込んでしまうのが人間です。だから、頼みにくいことでも頼み合えたり、おせっかいをしあったりする関係を築くということは、とても大きなポイントだと思います。孤独をそれぞれ抱えるのではなく、助け合えるところはもっと素直に社会全体で助け合える世の中になればいいなって思います。

それから、現在「マドレボニータ」では「マドレ基金」という取り組みを行っています。これは、シングルマザーや、障がいをもつ子の母親、双子の母親といった物理的に外に出ることが難しい母親達が、無料でマドレボニータの産後プログラムを受けられる仕組みを支える基金です。基金への寄付はもちろん、こうした母親たちの外出をサポートする介助ボランティアを募集すると、たくさんのマドレボニータ卒業生が手をさしのべて下さるんですよ。こういうことは、だれかに任せておけばいいや、ではなく、ひとりひとりが、いろんな形で、少しずつでも、手をさしのべることができたらいいと思うんです。マドレボニータはそういう社会全体で子育てをサポートできるような仕組みづくりの一端を、今後も担っていけたらと思っています。

荒:「マドレ基金」。素晴らしい取り組みですね。私もあらためて産後のヘルスケアについてマンションコミュニティができることを考えて行きたいと思います。今日はありがとうございました!


《プロフィール》
「マドレボニータ」代表
吉岡マコ

1972年生まれ、東京大学文学部美学芸術学卒業、その後、同大学院生命環境科学科で運動生理学を学ぶ。1998年、みずからの出産をきっかけに、産後ヘルスケアの必要性を実感し、当時の日本にはなかった産後の心と体のヘルスケアのプログラムを開発。1998年9月に産後のボディケア&フィットネス教室を始める。2002年に活動を「マドレボニータ(美しい母)」と名付け、2008年にNPO法人としての活動を始める。指導者の養成・認定や、調査研究、執筆などを通して、普及にも尽力。 2011年マドレ基金を立ち上げ、ひとり親、障がいをもつ児の母など、社会的に孤立しがちな母親への支援に着手。『健康になる産後エクササイズ』(DVD,ポニーキャニオン)、『産前・産後のからだ革命』(青春出版社)、『産後ママの心と体をケアする本』 (日東書院)『母になった女性のための産後のボディケア&エクササイズ』(講談社)など多数の著書ほか、テレビ番組への出演や雑誌連載などで幅広く活躍する。

●NPO法人マドレボニータ
●マドレ基金

2012/07/06

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


●HITOTOWA Inc http://hitotowa.jp/

●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi