毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々と
コミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じて
マンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、
「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。
第2回のゲストは、『東京R不動産』の運営を手がけるSPEAC inc.の林厚見さん。
独特の視点で日本の“住まい”を見つめる林さんが考える
マンションコミュニティの現在、そして、未来とは。
集合住宅のこれまでと、これから。
日本のマンションはつまらない!?
荒:これまでいろいろな文脈のインタビューを経験されていると思いますが、今日はマンションや集合住宅にフォーカスしてお話しを伺いたいと思っています。まず、単刀直入にお聞きしますね。林さんは、日本のマンションは好きですか?(笑)
林:面白いものや素晴らしいものもあるけれど、多くのマンションは、建物としては正直あまり好きではないですね。僕は学生時代には建築家を目指していたのですが、それをやめた理由の一つは、フツウのマンションのあり方に疑問を持ったことだったんです。アートや文化としての建築という話以前に、世の中のマンションの標準型がもっとおもしろくならないかという問題意識があったんです。もちろん60年代や70年代にできた、今でいうヴィンテージマンションや、古くは同潤会アパートなど、時代を遡れば好きな集合住宅もいろいろあります。でも全体としては、短期的な合理性で消費を触発するためのマーケティングを進化させてきた結果、この数十年で面白みのない集合住宅が多くなったのは確かでしょうね
荒:たしかに、古い住宅に比べると新築は画一的な物件が多い気はしますね。
林:はい。ただこの10年はけっこうおもしろいものがでてきたし、一方で昔の集合住宅に「個性」があったのかというと、そうでもないともいえます。僕はよく「問題は多様性や個性ではない」と言うことがあります。たとえば「日本は都市の住宅の選択肢を増やさないと」という話がよくあるんですが、実は日本の都市というのは住宅の選択肢は色々あります。木賃アパートもあればタワーマンションもあるし、新しい建て売りも、和戸建も街中にある。パリに行ったらいわゆるアパルトマンだし、ニューヨークの街中で戸建てはありえない。日本の住宅って、実は昔も今もバリエーション自体は豊富なんですよ。
荒:豊富なバリエーションがあるのに、林さんから見てつまらない物件が多くなっているのはなぜですか?
林:かたちは多様ではあるけれど、そのほとんどに人間味がなくなっているんだと思いますね。基本的にマンションデベロッパーは合理的で売りやすい住宅をつくりますよね。受け手側としてもその宣伝を素直に受け入れて、こだわらない。ひとつ売れる標準型ができると、ほかの物件も同じような“売れやすい”モデルになって、どんどん軽薄になっていく。よほどの建築好きや専門家でない限り、デベロッパーが提示するモデルから自分に合った住宅を選ぶしかない。その結果、おもしろみのない集合住宅が増えるんですよね。
荒:ところで、林さんはこれまでどんな住宅に住んできたんですか?
林:子供の頃は親の社宅の庭付き戸建て。そこから親戚の建築家が設計した木造戸建てに移り、その後十年は我慢して普通の賃貸マンションを転々としましたが、思い出深いのは目黒のホテル「CLASKA」の改修工事中に廃墟のような状態なのに半年間住みこませてもらったこと。今の一つ前の家はバルコニーが異常に大きくて東京が全部見渡せるマンション。内装や立地より眺望をとりました。実は先月中古マンションを買って、今リノベーション中です。
荒:集合住宅が多いんですね。実は僕は戸建て派なんですが、林さんはどうですか?
林:僕も戸建ては好きですよ。東京で生活する限りはマンションの方が今はしっくりくるけれど、ゆくゆくは東京じゃない場所で戸建てに住みたい気持ちもあります。
荒:そういえば、湘南の方にシェアハウス的な場所を作る計画があるとか。
林:そう、三浦半島の山の中に仲間たちと一緒に、宿と住宅を兼ねたような場所を作ろうという妄想があります。まだ計画とは言えないですけど。僕の数年後の理想は、サンフランシスコと三浦と渋谷を結ぶトライアングル生活なんです。たまに三浦に戻ると、色んな人が住みこんだり遊びに来たりしていて、みんなでテラスで飲み語る、そういう場所がつくりたい。
荒:素敵ですね。僕は今、コーポラティブハウスに住んでいて、とても満足しています。ただその一方で、ひとつの場所に住んで固まってしまうのはもったいないとも感じているんですよね。夏には夏の、冬には冬の良い場所がある。もっと回遊的に生きて行けたらいいなって。
林:僕は今の感覚としては、ひとつのマンションにずっと定住しようという意思はあまりないですね。住む場所も時々移り変わりたいと思っています。
街全体を“シェア”するのが面白い。
荒:林さんの三浦計画もそうですが、ゲストハウスやシェアハウスなど、今“シェア”がひとつのブームになっています。林さんはこうした現状を予測していたんですか?
林:少なくとも5年前にはこんなに広がるとは思っていませんでした。もちろん、少しずつ新しい形のシェアハウスが出てきた流れは見ていたし、その人気ぶりを見て「これから一つの選択肢になっていくんだな」とは感じていました。ただ現在の状況を見ていて、思ったりよりも30歳前後の人たちにとっての魅力は大きいんだなと。
荒:実際、現状をどのように感じますか?
林:単純に「楽しそうでいいなあ」というのがひとつ。もうひとつは、コモンスペースを共有する住み方というのは、若者だけでなく、幅広い世代で広がっていくんじゃないかと思っています。それが現在の5倍なのか10倍なのかはわからないけれど、それなりのボリュームに増えていくでしょうね。
荒:“シェア”の概念自体も少しずつ変化していくかもしれないですよね。
林:個人的には住居だけでなく“街レベルでのシェア”というのがイメージとしてありますね。プライバシーを保護する存在としての住居があって、その近くに仲間が集まる飲み屋やバー、仕事用のカフェや喫茶店があって……という感じ。街の様々なシーンがシェアされているというのはある意味で理想だし、面白いんじゃないかと。
荒:それこそまさにコミュニティですね。
林:シェアする場所がバーなのか、レストランなのか、あるいは一定のコミュニティで共有する居間やキッチンのような新しいコモンスペースなのか。この先の展開は、まだわかりません。ただ、一つの物件の中で考えるシェアでなく、もう少し近隣というか“街レベルでのシェア”に向かう方向も今後あると思ってます。これから“シェア”における距離感のデザインは、どんどん新しいものが生まれていくんだろうなぁ、と。
荒:面白いですね。たとえばマンションデベロッパーが手がけるシェア施設というのも、可能性としてはありそうですよね。
林:賃貸マンション一棟をシェア住宅として使ったりね。たとえば、賃貸マンションの一住居をコモンスペースにすれば、そこでいろいろなサービスが提供できる。ユーザーはマンションの住人に限定しなくてもいいし、サービスを提供する側だって事業者やボランティア、住人たち…などいろいろな可能性が生まれると思います。そもそも日本人は工夫が得意だし、そういうのを開発したくてしょうがない人もいっぱいいる(笑)。個人的には、そこに宿みたいな機能が重なってくると面白いと思いますね。定住者や長期滞在者、旅行者……など、いろいろな人が行ったり来たりするシームレスな空間には、興味をひかれます。もちろん、すべての集合住宅がシェアを前提にするなんてことはあり得ないし、選択肢のひとつとしての話ですが。
《プロフィール》
SPEAC inc.
Managing Director
林 厚見
1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科、コロンビア大学不動産開発課終了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、株式会社スペースデザインを経て、2004年にSPEAC.incを吉里裕也氏と共同設立。不動産のセレクトショップサイト「東京R不動産」の運営をはじめ、物件の仲介、建築プロデュースなどを行っている。
2012/05/18