Vol.2 コミュニティ×理想の住まい(後編)

毎回、上質なライフスタイルに精通するゲストの方々と
コミュニティづくりをサポートする『HITOTOWA Inc.』荒氏の対談を通じて
マンションライフやマンションコミュニティのこれからを考える連載企画、
「つながり ~マンションコミュニティの話をしよう~」。
『東京R不動産』の運営を手がけるSPEAC inc.の林厚見さんとの対談の後編です。

前編はこちら>>

答えは常に“間”にある。

コミュニティを育む必然性とは

荒:“街レベルでのシェア”という考え方は興味深いですね。僕は今、集合住宅におけるコミュニティづくりに取り組んでいますが、街全体をシェアしながら暮らすことができれば、コミュニティの可能性はもっと広がると思います。

林:同じ建物に限定してコミュニティを盛り上げることが、必ずしもベストとは限らないですからね。たとえば1000戸規模の団地になれば、そこはもはや大学のようなスケールなので、そこで部活やサークルのようなコミュニティが生まれるのは自然なことだと思います。もちろん20戸、50戸、100戸なりの規模のマンションでも、入居している人たちがその物件に集まった理由になんらかの共通性があれば、コミュニティは成立しやすいでしょう。ただ、実際にはたまたまそのマンションを選んだだけで、価値観やコンセプトを共有しているわけではないというのが普通ですよね。その場合、よほど住民同士の興味が共通していないと、コミュニティ形成はなかなか難しい。それなら、マンションの外、近隣も含めてコミュニティを考えて行けばいい。

荒:たしかに、コミュニティはクローズになりすぎると、しぼんでしまうんですよね。やはり、新しい人がどんどん入って来る方が活性化するし、盛り上がります。ある程度の規模があり、なおかつ住人の個性が多様であること。つまり、団地に近い状況の方が、コミュニティの存在価値が理解しやすいし、コミュニティに参加する度に発見があって面白いんですよね。あとは、幹事役やリーダー役がいるかどうかも大切な問題です。

林:そもそも荒さんは、マンションの中に知り合いがいた方が良いと思いますか?

荒:そうですね。

林:僕もそれ自体は賛成です。ただ「では、自分は?」と問われた時、今住んでいる13戸のマンションでのコミュニティって、正直に言うとメンドクサイという気持ちもあるんですよね。1000戸ある団地でフットサルのサークルに参加したりバーベキューするのは楽しいけど、13戸ではちょっときついというか。そのあたりはどうですか?

荒:そうですね。コミュニティをひとつの建物に限定することには、あまり意味がないと思っています。ただ、コミュニティの役割には2つの側面があって、そのひとつが「楽しいよね」というプラス面。もうひとつが、防災面や防犯面など、マイナスを補完する役割です。後者を考えた場合に、やはり距離感は重要ですよね。

林:なるほど。ちなみにもうひとつ“そもそも”のことを聞いておきたいんですけど、荒さんは「コミュニティ」をどのように定義づけているんですか?

荒:近くに友達がいること、ですね。本当はもう少しいろいろな要素があるんですけど、普段はわかりやすく「地縁」と言い切っています。

林:なるほど。「地縁」にフォーカスしていくと、マンションそのものの作り方の部分に立ち戻りますよね。土地の選び方や建て方、売り方をどうすべきなのかという部分に。そのあたりにひとつの解を示したのが、共通の感覚や目的を持った住人が集まるコーポラティブハウス的な住み方なのかもしれないですね。

荒:もちろんコーポラ以外の集合住宅の場合でも、ある程度価値観の近い人を集めるための仕掛けをすることもあります。たとえば、マンションの敷地内に畑を作ったり、本格的なロードバイクを置けるような自転車置き場を設置したり・・・。物件としての個性やメッセージを打ち出すことで、なんらかの共通軸を持った住人を集めるという動きもあります。

林:僕らが好きな「ビラシリーズ」のように個性の強いマンションの住人は仲が良かったりしますね。マンションが持つ雰囲気や世界観に惹かれて集まった住人が多いから、価値観や感覚が似ているのでコミュニティができやすいんですよね。一方で、「汐留ツインパークス」のような高級物件は、マンションとしての明確なアイデンティティがあるのに、あまりマンション内コミュニティが形成されているイメージはないですね。

荒:タワーマンションや高級物件は、コミュニティ形成が難しいケースも多いんですよね。

林:高級タワーマンションの住人は、マンションの外にすでに仲間や人脈をたくさん持っているから「地縁」を必要としないということでしょうか。それは、どちらが良いとか悪いとかじゃなくて、価値観の多様性が認められていることが大切だと思うんですよ。ステータスに優越感を感じる層もいれば、地縁による幸せ感を大事にする層もいる。いろんな考え方がある方が楽しいし、社会としても健全ですよね。僕自身はステータスによる優越感はあまり求めないけれど、地縁最優先というわけでもないですね。気が合う友達がそばに住んでいるとすごくうれしいけれど、特に気が合わない人とは積極的にコミュニティを作ろうとは思わないかな。でも高級マンションの住人も、本当はもう少しつながりを求めている気がします。マンションの設計がそれを阻んでいるのかもしれませんよ。

コーポラティブハウスが提示する集合住宅の可能性

荒:今日は林さんにコーポラティブハウスについての意見も聞いてみたかったんですよね。今後、林さん自身が、コーポラに住む可能性はありますか?

林:とても興味があります。住む可能性もあると思っています。コーポラティブハウスについては実際に住んでいる荒さんの方が詳しいでしょう(笑)。実際に住んでみて、幸せ?

荒:幸せですね(笑)

林:実は親しい友人が数人コーポラに住んでいますが、「あんなに素晴らしい世界はない。住んだ人にしかこの感覚はわからない」とよく言われるんです。もう、人生が違うと(笑)。彼らを見ていると、コーポラが住人にとっての大きなアイデンティティのひとつになっているんですよね。家族があるかどうか、田舎があるかどうか、そしてコーポラがあるかどうか、と(笑)。その気持ちは、実際に住んだことのない僕にはわからないものですよね。

荒:コーポラティブハウスの魅力は、コミュニティと空間の両方を自分たちで手づくりしていけることですよね。当然、その過程には産みの苦しみみたいなものがあって、その分、住人同士の連帯感も強まるんですよね。

林:同じ時間を過ごし、同じことを目指した住人同士だからこそ、ある種の共通性が生まれるんですよね。一緒に甲子園を目指した仲間とは、30年経っても楽しく飲める的な(笑)。コーポラティブハウスは日本の不動産流通構造とは、必ずしもマッチングが良いわけでもないし、すごくエネルギーを必要とするから、そもそも住まいに対して“凝り性”でなければ、難しいという面はあるでも、コミュニティと住空間をつなぐ一貫したストーリーが生まれることは、素晴らしいコンセプトだし、その発想は広がるんじゃないでしょうか。荒さんの役割もそこにある。

荒:実際、すごく楽しいですよ。ちなみに林さんが留学していたアメリカでは、コーポラティブハウス的なものってあるんですか?

林:アメリカでは「co-operative」、いわゆるコーポラティブっていうのは、カスタム設計を前提にした特殊なかたちではないんですよ。たとえばニューヨークタイムズの中古マンションの売買リストを見ると、半分は「co-operative」で残りの半分が「condominium」なんです。

荒:両者の主な違いはどこにあるんですか?

林:運営形態ですよね。「condominium」は日本の分譲マンションと同じです。一方で、「co-operative」というのは、買う人がふさわしいかどうか理事会に審査される面倒といえば面倒なのですが、コミュニティの質に安心感があるというわけです。

荒:コミュニティを重視したい人と、そうでない人、という。

林:極端な話「co-operative」に行くと住人同士で挨拶をしたい人が集まっていて、「condominium」ではそういうのが面倒な人が集まっている。どちらが良いとか悪いではなくて、シンプルに「あなたはどちらの価値観ですか?」という選択肢の話なんですよね。

荒:お金を出せば誰でも住めるわけじゃなくて、審査があって、ガイドラインがあって、その基準に叶った人だけが住めるのが「co-operative」なんですね。ある意味、コミュニティの質に価値を見いだしているというか。

林:「一緒に遊びましょう」というだけがコミュニティではないんですよね。隣の住人が「イヤじゃない人」という安心感というは、昔から誰にとっても大事な価値のひとつだと思うんです。ただ、日本においては、大企業が住宅づくりをゴリゴリと進めていくうちに「そんなことはさておき」とされてきた。こうした流れの対極としてあるのが、日本のコーポラティブハウスかもしれないですね。今後は日本の分譲マンションでもアメリカの「co-operative」のように、コミュニティの価値に質を持たせるものが出てきてもいいんじゃないでしょうか。さまざまな選択肢や多様な価値観が提示される状況というのは、歓迎すべきだと思っています。

荒:それは面白いですね。

林:僕は「間に答えがある」という考え方をしています。つまり、右か左か、ではなくて、右のいいところと左のいいところをうまく組み合わせられないかと考えていくんです。だからシェアハウスにしても、コーポラティブハウスにしても、一つの型をつくって終わりでなく、柔軟に進化していくといいなと思います。


《プロフィール》
SPEAC inc.
Managing Director
林 厚見

1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科、コロンビア大学不動産開発課終了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、株式会社スペースデザインを経て、2004年にSPEAC.incを吉里裕也氏と共同設立。不動産のセレクトショップサイト「東京R不動産」の運営をはじめ、物件の仲介、建築プロデュースなどを行っている。

2012/05/18

プロフィール

荒 昌史

HITOTOWA Inc.代表


1980年東京生まれ。2004年住宅デベロッパーに入社。自ら部署を立ち上げたCSRを中心に、ブランド、住宅企画・プロモーションを担当。携わった複数の住宅がグッドデザイン賞を受賞。

2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。都市のコミュニティづくり事業を手掛け、新規物件のプロデュースから既存物件へのコンテンツ導入まで、「ネイバーフッド・デザイン」を取り入れた住宅の企画に取り組む。また、住宅・建設・自動車会社等のCSR/CSV事業も展開。社会環境問題の解決に必要不可欠な地縁コミュニティをつくるプロジェクト「Community Crossing Japan」のオーガナイザーも務めている。


●HITOTOWA Inc http://hitotowa.jp/

●Community Crossing Japan http://communitycrossing.net/

●Twitterアカウント: aramasafumi