ミサイル基地がマンションに変身!地中に埋まったミサイルマンションとは?

アメリカの中央部カンザスシティの郊外に、世界中でもあまりみることのできない特別な様式のマンションがある。人々が“世界一安全なマンション”というその建物は、なんと大陸間弾道ミサイル(ICBM)の格納庫だったのだ。

軍事施設を改築したマンションがアメリカ・カンザスシティ近郊に誕生

アメリカで話題沸騰のマンションがカンザスシティ郊外にある。その名は「サバイバル・コンド」という。なぜ話題を集めているかというと、米戦略空軍のミサイル基地をリノベーションしたものだからなのだ。万が一、人類滅亡の危機が発生するような事態になっても、住民が長期間生き残れるようにとデザインし直され、もともと基地だった場所の地下に、全高53mにおよぶ14階建てのサイロのマンションが埋まっているのである。

気になる価格は、世界の終末から身を守ってくれるというその特長に見合って、一番安いフロアでも150万ドル(約1.8億円)から。それでも全てのフロアは即完売した。新たなサイロも現在建設中で最終的には3つの「サバイバル・コンド」が完成する予定なのだという。

サバイバル・コンドの完成図。全長52mに渡るサイロが居住ユニットに生まれ変わっている。下層部は、住民の共用スペースだ。

軍事施設をリフォームしたマンションだけあって、赤外線カメラや近接センサーなどが完備されておりセキュリティ面は万全。しかも、サイロの内部にはプールやホームシアター、娯楽室や図書室なども設置されている。たとえ外に長期間出られない事態であっても普段とそれほど変わらない生活をおくることができ、地上にそびえ立つ高級マンションと変わらないだけの快適さが味わえるという。

サバイバル・コンド内部につくられたスイミングプール。地上に建つ高級マンションに遜色ない設備が整っている。

サバイバル・コンドが埋まっている場所は、どこにでもありそうなデザインのドームに覆われているだけ。なんと、セキュリティへの配慮から、詳細な住所は公表されていない。もしあなたが運よく近くまでたどり着いたとしても、その地下に大規模なマンションが存在しているとは想像できないし、もし入り口に気づいても重要な施設とは思わないだろう。

この入り口のドームは時速801kmの爆風にも耐えられる設計となっており、万が一爆弾が落とされたとしてもびくともしない強度をもつ。では、“世界で一番安全”といわれているこのサバイバル・コンドにリノベーションされたミサイル基地とは、いったいどのようなものだったのだろうか。

冷戦時代の重要拠点をベースにつくられたその来歴

入り口にはエンブレムが入っている。さながら軍事施設のようで、まさかマンションだとは誰も思わないだろう。

サバイバル・コンドはもともと1960年代に建造された地下式ミサイル格納庫だった。そして、この一帯は大陸間弾道ミサイル「アトラスF」72基が実戦配備されていた基地だったのである。

冷戦時代のミサイル基地の様子が描かれたもの。敵からの攻撃を回避するために、基地は地下深くにつくられた。

ミサイル格納庫を地下にもつ基地は、建設当時の工費がとても高価なことで知られている。そのため、地下式格納庫はロシアとアメリカにしか存在しないそうだ。サバイバル・コンドの元となった格納庫も、コンクリートの部分だけですら約6,000万ドル(72億円)にのぼる建築費がかかったという。

多額の費用をかけて、特殊素材を使った厚さ約7.6cmから約274cmの壁を築造したため“人類がつくったもっとも強固な建物のひとつ”といわれるようになり、その強度は直接核攻撃を受けても内部にはまったく影響がないほどという。

1958年から1965年頃までが現役だった「アトラス」。冷戦初期に装備されたものであったため、代替わりも早かった。

核戦争直前まで世界中の緊張が高まった1962年のキューバ危機。米軍はいくつかの核弾頭搭載ミサイルを発射準備態勢に置いたが、そのなかにこの基地の「アトラスF」も含まれていた。

キューバ危機当時、キューバにつくられたソ連のミサイル基地。これによって、米ソ間の緊張は開戦一歩手前にまで高まった。(C) Shutterstock

民間の手に渡り生まれ変わるミサイル基地

その後、冷戦体制が継続するなか、アメリカのICBMは「タイタンⅡ」から「ミニットマン」といった新型ミサイルへと変わっていき、「アトラスF」はその役目を終えた。そして、1987年に米ソ間には「中距離核戦力全廃条約(INF条約)」が調印。時間をかけてミサイルなどの兵器を廃棄していこうという方向性が合意された。この条約によりアメリカは846基ものミサイルをはじめとした多数の軍事施設を廃棄していくことになった。

サイロのなかに配置される「アトラスF」。このような状態で、発射指示を待った。(C) Shutterstock

さらに冷戦体制の緩和とともに、全米に点在する余剰施設をどのように処理していくか検討された。その結果、誕生したのが「Formerly Used Defense Site(FUDS)」である。米国官房長官の管轄の元、不要になった施設を民間に売却していくという制度だ。

売り主はもちろんアメリカ政府。売却先は、企業・個人を問わない。さらに一度売りに出されると、物件は購入者の自由に活用できる。多くは、サバイバル・コンドのようなマンションやバケーションに使う別荘などの居住施設へと改装された。また、なかには珍しい事例もある。アリゾナ州には世界初のICBMである「タイタン」が配備されていた基地が博物館に改修され、たくさんの人を迎え入れる観光スポットになっている。

ミサイルの発射準備が整ったら、上部の蓋が開き発射する。現在はミサイル収納部分がマンションの居住部分となっている。

日本ではあまり考えられないことだが、アメリカでは政府の軍事的所有物を民間に払い下げ、新しい活用の道を探ることは当然のこととなっている。

次のページ:広大な平原のなかにひっそりと存在するサバイバル・コンド

2015/06/18

↑ page top