団地に銀行出現?「とくいの銀行」で「とくい」の「ちょとく」をしよう!

あなたには、「とくい」なことがありますか? その「とくい」は、預けたり、誰かが引き出したりして使えるということを知っていましたか? とある団地に生まれた、お金の替わりに「とくい」を運用する「とくいの銀行」。それは、コミュニティで、誰にでも開業することができる銀行です。

みんなの「とくい」を預ける、「とくい」を引き出す

取手アートプロジェクト(以下TAP)の活動拠点がある茨城県・取手井野団地のコミュニティカフェ「いこいーの+Tappino」は、地域と住民とアートをつなぐユニークなアートプロジェクトが生まれている、アートの源泉のような場所です。これまでにマンション・ラボでも、現代美術家 北澤潤さんによるアートプロジェクト「世界でいちばんあたたかなホテル、サンセルフホテルのおもてなし力」をご紹介しました。

そんな「いこいーの+Tappino」の中で、目立っていたのが「とくいの銀行」というBOX。「とくいをあずける」「とくいをひきだす」、なんだか面白そうなニオイがしますよね。『とくいの銀行なんとなく開業マニュアル』の冊子を読んでみると、取手井野団地に関わる人たちの「とくい」をあつめて交換したり、「とくい」なことを引き出したイベントを開催したりしているのだそうです。

井野団地は「とくいの銀行」の本店。みんなの「とくい」なことが、まるで地域通貨のように井野団地内で交換・共有されているようです。しかもその「とくい」というあいまいなものは、地域通貨という真面目な概念から大きくはみ出して、自由にコミュニティの中でうごめいている、そんなイメージがします。

マンション・ラボ研究室でも、マンションはヒューマンリソースの宝庫、住民のいろいろな特技や才能をシェアしたりコミュニティ活性化のために使ったりできないものかと考えてきていました。その一部は、マンションアフタースクールプロジェクトとして、住民が先生になる「住民文化祭」として実践もしてきました。

「とくいの銀行」も、コミュニティ活性化のためにマンションで開業したりできないものでしょうか? それになにより、本気の銀行ごっこみたいで、とても楽しそうな雰囲気がします。コミュニティのおもしろい取り組みが大好きなマンション・ラボ編集部は、早速井野団地で「とくいの銀行」の頭取をつとめる、取手アートプロジェクト《アートのある団地》パートナーアーティストの深澤孝史さんにお話を伺ってきました。

「とくいの銀行」の「開業マニュアルブック」や「ちょとくつうちょう」「引き出し申込書」の数々。ほら、これだけでも本気で楽しい雰囲気が伝わるでしょう?

とくいの銀行のWEBサイト
http://tokuinobank.blog.fc2.com/

一度にたくさんのとくいをひきだす「ひきだそう会」や不定期に発生する「ひきだしイベント」

井野団地内に設置された「とくいの銀行」の手作りATM団地。ここで「ちょとく」ができたり、とくいの「ひきだし」の申し込みができます。みんなの「とくい」がいっぱい貯まりそうですね。

「とくいの銀行」頭取の美術家 深澤孝史さん。

そもそも「とくいの銀行」が、生まれたきっかけは何でしょうか?

深澤さん「2006年くらいからTAPの活動に参加して、いま団地で何ができるのかという議論をメンバーと続けてきました。TAPもフェスティバル型のアートイベントから、より地域と密着した恒常的なアートプロジェクトに移行しつつあるときで、徐々に『とくいの銀行』のコンセプトが固まってきました。

井野団地には、桜、用水、自然といった、見える資源があります。その一方で、どんな人々が住んでいてどんなことがあるのかという、見えない資源もあり、その両方が団地の資源だなと考えました。団地の中にいろいろな世代の人が住んでいて、ふだん知らない一人ひとりが、どんなことができてどんな顔を持っているのか知ることができる。それが、『とくい』なんじゃないでしょうか?『とくい』の交換で、団地の人の顔が見えてくる。得意って特異でもあるんですよね。みんなが違った『とくい』を持っている。その差異を知る意味でも『とくい』って特別な存在です。『ちょとく』した人も、自分の『とくい』が引き出されると嬉しいし、それが自信にもつながります」

「とくいの銀行」にみんながちょとくした「とくい」は、「いこいーの+Tappino」に置いてある「ちょとく票」でぱらぱらとめくって閲覧することができます。気に入った「とくい」を見つけた人は、引き出し申込書に記入して、一度にたくさんのとくいを引き出す「ひきだそう会」や、不定期に発生する「ひきだしイベント」で引き出すことができます。

とくいの銀行 ちょとくリスト(抜粋)

□おいしい煮物できます
□なやみをききます
□マイクロバス運転できます
□下手なヴァイオリン弾きます
□大阪弁おしえます
□丁寧に字を書きます
□総合格闘技のわざをひたすらくらいます
□トミカの修復します
□台所便利チェックツアー

頭取 深澤孝史さんの網が、見えない「とくい」をキャッチする

TAP事務局長の羽原康恵さんは、「とくいの銀行」のおもしろさは、頭取 深澤さんの作家性に依る点が大きいといいます。

羽原さん「頭取の深澤さんは、いつも井野本店のあるいこいーの+Tappinoにいる訳ではないのですが、彼が本店にいるときもいないときも、『とくいの銀行』に関わるスタッフやボランティアには、彼特有の不思議な空気感に惹かれている部分があるような気がします。それは頭取の人柄に依るところが大きいし、彼の網にかかると、おもしろい『とくい』を持っている人を呼び寄せてくるというか(笑)、いろいろな『とくい』が際立って見えてくるのです」

丁寧に字を書く「とくい」が引き出されているところ。

「総合格闘技の技を教えて、ひたすらくらいます」コーナー。参加者に格闘技の技を教えて、その技をくらってあげるというもの。自身がいじめられっ子だった経験から格闘技を学んだという「ちょとく者」。丁寧に教えられる技を覚えて早速試すということで、引き出したちびっこたちも嬉しそうです。

実はこうした「とくい」は、深澤さんをはじめとしたスタッフが一人ひとりの「ちょとく者」をスカウトしてきて、自分でも気付いていなかった「とくい」を押し買いしたことから「ちょとく」してもらったものも多いそうです。

深澤さんは、「とくい」は、人間のクセ、私小説のような感覚で浮かび上がってくるものだといいます。たとえば、ギターがうまく弾ける、お料理がうまい、ということは後天的に備わった技能や能力です。もちろんこれも、「とくい」のひとつ。その一方で、丁寧に字を書きます、自転車の話につきあいますといったことは、その人自身が「とくい」なことだとも気付いていなかった、クセのようなものかもしれません。そんなクセを気に入った誰かが引き出して、1対1で一緒に楽しむ時間は、コミュニティの活性化とかサービスとかいった次元とはまた違った、それでいて深い余白を生み出すようです。

私達が、団地を「コミュニティ」というひとつの言葉で括るとき、そこに存在する一人ひとりが、団地というアノニマスな括りに入れられてしまいがちですが、1対1で「とくい」をシェアする人と人の関係が、同じ団地という場所に積み重ねられていけば、それは「とくい」がいっぱい行き交う新しい世界に育っていくのではないでしょうか。

「とくいの銀行」支店は全国で営業中、いつかマンションにも支店が!?

深澤さんの「とくいの銀行」は、本店である井野団地以外にも期間限定で全国各地に支店展開も果たしています。また、中学校の美術部の活動として開業されたこともあります。

深澤さん「開業マニュアルブックがあるので、全国で支店を開業できます。先日も富山まちなか研究室で実施されたという話も聞いて、どんな風になっているか楽しみにしているんです。それぞれの土地の、それぞれの人のとくいが集まって、また違ったとくいの銀行が生まれるはずです。誰かのとくいが必要として、必要とされて、そんな当たり前で楽しいことが、いろいろな場所で起こっていると楽しいだろうなと思います」

どこかのマンションで、「とくいの銀行○○マンション支店開業!」というニュースが聞かれる日もあるかもしれませんよ。マンション・ラボ編集部としては大いに期待したいところです。

山口県「とくいの銀行 ななつぼし商店街支店」2013年12月1日迄
http://nanatsuboshi.tokuinobank.net
札幌市「とくいの銀行 札幌支店since1869」2014年9月28日迄
http://sapporo.tokuinobank.net

11月23日には「第2回ひきだそう会」が井野団地で行われます!

2014年11月23日(日)には、第2回ひきだそう会が、井野団地で開催されます。誰でも参加できますので、ぜひみなさん「いこいーの+Tappino」にあるとくいの銀行本店へお出かけください。実はマンション・ラボ編集部のスタッフも、とくいの銀行に「とくい」を「ちょとく」しているのです。誰かに引き出されるといいな〜と、密かに期待しています。

TAP「とくいの銀行ひきだし会議開催!11/23第2回ひきだそう会に向けて」
http://www.toride-ap.gr.jp/news/?p=1889

深澤孝史さんプロフィール

深澤孝史/美術家、取手アートプロジェクト《アートのある団地》パートナーアーティスト。2011年より取手アートプロジェクトにて、お金のかわりに自身のとくいなことを運用する《とくいの銀行》を開始。2013年、山口情報芸術センター10周年記念祭にて、とくいの銀行を運営しつつ、商店街のまちづくりを劇的に行った《とくいの銀行 山口》。2014年、発達のゆるやかな幼児の通所施設「根洗学園」で行ったプログラムの展覧会「おべんとう画用紙」、土で現像する写真スタジオ《photoground》(めぐるりアート静岡、2014)を制作。《とくいの銀行》は「eco japan cup2012」のエココミュニケーション部門でグランプリ受賞。

深澤孝史ウェブサイト
http://fukasawatakafumi.net
とくいの銀行のWEBサイト
http://tokuinobank.blog.fc2.com/

取手アートプロジェクト/取手アートプロジェクト(TAP=Toride Art Project略)は、1999年より市民と取手市、 東京芸術大学の三者が共同で行なっているアートプロジェクトです。
取手アートプロジェクト]
http://www.toride-ap.gr.jp/


マンションにも「とくいの銀行」支店ができたら、そのマンションはどんな楽しいコミュニティになるでしょうか? そんな妄想がいろいろ湧きだしたマンション・ラボ編集部でした。興味が湧いた人は、まずは井野団地にある「いこいーの+Tappino」のATMへGO!です。

2014/10/23

↑ page top