“自分の町への思い”から見えてくる新しい景色「わたしのマチオモイ帖」

日本全国のマチオモイを表現した約800点が一同に集結!

現在、東京ミッドタウン・デザインハブ(2014年2月28日〜3月23日)と、大阪メビック扇町(2014年3月7日〜3月29日)で同時開催されている「my home town わたしのマチオモイ帖」は、さまざまな人が自分の町への思いを、小冊子や映像として紹介する展覧会です。

東京展の会場へ行ってみてびっくりするのが、その作品点数の多さ! 日本全国の町はもちろん海外まで含んだ、約800点のミニブックやムービー作品が展示されています。

ずらりとならんだ「マチオモイ帖」と呼ばれるミニブック。都道府県毎に、テーブルや棚に分かれています。約800点の内訳は、北海道、東北、関東、東海、北信越、近畿、中国、四国、九州、沖縄、そして海外の町まで!(※2014年2月12日現在)。

ムービー作品は、iPadのインデックスから選んで自由に観ることができます。

こちらは福岡のコーナー。「福岡大名帖」「にしじんちょう」「こうげ帖」。初めて知った町のブックをめくっていくと、なんだかそこへ行ってみたくなるから不思議です。

ミニブック作品は、印刷したもの、コラージュや手作り布絵本など、その表現手法やサイズも実にさまざま。誰でも自由に参加できますが、デザイナーやイラストレーター、カメラマンなど、プロのクリエイターがつくるマチオモイ帖は、どれもクオリティの高い作品に仕上がっています。

ミニブックもムービーも、タイトルにはかならずその町名を「○○○帖」とするのがルールだそう。同じ町でも、制作した人の視点によって、まったく違う内容になってしまうのがおもしろいですね。

自分のふるさと、学生時代に住んでいた町、いま暮らしている町、かつて行ったことがある町。町との関わり方には、いろいろなシチュエーションがあります。いままでの自分の人生の中で、深く心に刻まれた町。だからこそ、百人百様の思いが、ひとつひとつのブックとムービーに詰まっているのですね。

もしここに、自分の住んでいるマンションのマチオモイ帖があったらと考えると、なんだか楽しそうです。

はじまりは、一冊の「しげい帖」から

わたしのマチオモイ帖制作委員でもあるアートディレクターの清水柾行さんに、今回の展覧会についてお話を伺いました。

清水さんは以前マンション・ラボの『コミュニティづくりを応援する「ツール」制作プロジェクト〜スモールポスター』でも登場いただきました。

わたしのマチオモイ帖制作委員会の清水柾行さん(株式会社青空代表)。

そもそもマチオモイ帖というコンセプトの展覧会は、どんなきっかけで始まったのでしょうか?

「きっかけは3.11の東日本大震災でした。震災直後、『浪江町』や『飯舘村』など、いままで聞いたことのなかった東北の町の名前をニュースで何度も繰り返し耳にし、日本中のみんなが、東北の町で大変なことが起こっていること、自分の町や故郷を一瞬にして失った人たちがいることに、深い哀しみを抱いていました。我々は、この大震災から、家族や友達、自分が住んでいる町の大切さに改めて気付かされたのだと思います」

清水さんは、そんな時に、コピーライターの村上美香さんが自分の故郷の広島県因島重井町への思いを書き綴った「しげい帖」という作品と出会いました。

「『しげい帖』は、村上さんの故郷の瀬戸内海の小さな島を、自分の視線で、自分の言葉で紹介したリーフレットでした。『ああ、これや!』と思いましたね。この素晴らしいフォーマットで、日本中のみんなが自分の町を語ったらすごくおもしろいものになるだろう!と」

「わたしのマチオモイ帖」スタートのきっかけとなった村上美香さんの「しげい帖」。島で農家として働くご両親や祖父母、育った島への思いが詰まっています。

作品は、以下のページでも閲覧できます。
「わたしのマチオモイ帖>たとえば、こんなマチオモイ帖」
http://machiomoi.net/open/quires/

「その頃、丁度僕がプロデュースしていた『ソーシャル・プロポーズ展』に、村上さんのグループで、地方の課題としてこの帳面をそれぞれがつくったらおもしろいはずだと思いました」

村上さんの作品にインスパイアされた大阪のクリエイター34組は、「1クリエイター、1町の責任編集」で、それぞれが自分の思い入れのある町をテーマにしたマチオモイ帖を制作。2011年6月の「ソーシャルプロポーズ クリエイターが社会に対してできること」展で初めてマチオモイ帖としての作品群を出品しました。

その後、2012年2月・5月に第2回目の展覧会を東京・大阪で、2013年2〜3月に全国13地域22会場で地域をより深く掘り下げた「日本中がマチオモイの春!」と題した展示会へ続き、現在に至っています。

「2011年の最初の1帖から34帖へ、2012年324帖、2013年656帖、そして今回で約800帖と、作品はどんどん増えています。去年全国13地域で展開したときは、古民家やギャラリー、図書館などの大小さまざまな空間で、その地域のマチオモイ帖を集めて展示して好評でした」

会場でも感じたことですが、ひとつひとつの作品からマチオモイの情熱が沸き上がってくるかのように熱いのです。これらマチオモイの魅力はどこからくるものなのでしょうか?

「観光ガイドにも載らないような小さな町でも、『その人にとっての町』への本当の思いが込められているからでしょうね。思いが濃厚だから、一冊一冊、一本一本見ていくのに、ものすごく時間がかかりますよ。一回ではとても全部は見きれません。何度も足を運んで、続きを読んでいく方も多いようです」

「全部読み切れなくてもいいんです。まず自分の故郷や、行ったことがある場所のマチオモイ帖から読み始めてもいいし、『ジャケ買い』的に表紙やフィーリングが合うマチオモイ帖から手にとってもいい。一期一会ですからね」と清水さん。

東京から長崎へ、一家でUターン移住したグラフィックデザイナーdesign373による「さざ帖」。都会で住んでいたからこそ、故郷の「普通の暮らし」のよさが見えてくるのかもしれません。ガイドブックに出ていない、普通の人が暮らす普通の町の魅力が、住む人の視点で語られるのもマチオモイ帖のよさです。

【参加者の声】ちょうど会場にいらした参加者の声を伺ってみました。

●現在進行形、都会の故郷づくり〜BOOK「ホリエ帖」森田梨加さん

森田さんの手作り布絵本には、栞やビーズ飾りの都会の夜空など、読んで楽しくなる仕掛けがいっぱい。いま5歳になるお子さんに向けて、生まれ育った町を伝えるマチオモイ帖になっています。「このマチがキミのステキなフルサトとなりますように」という、ママからの最初のメッセージがステキです。

「私は大阪の南堀江という都心に子どもと二人で暮らしています。都心だけど、家族で住んでいる人も多く、夜は静かで、意外に公園も多い町です。この子にとっては、いま育っている町が自分の故郷。この子は、これから故郷をつくっていくんですよね。彼が自分の故郷を少しでも大切に思えるようにと、『ホリエ帖』をつくりました。この町の公園で初めて見た景色、覚えたての言葉。二人で一緒に過ごしている暮らしのひとつひとつを、『ホリエ帖』に書き留めていきたいと思ったんです」

「それにいまここにある都会の景色は、20年後には確実に移り変わっているはず。ミルク工場やスーパー玉出、いまあたりまえにある景色を記録したいという思いもありました。私達も、いつかここではないどこか別の町で暮らすかもしれない。でも、どこに行ってもこの町が君の故郷なんだよと教えてあげたかったんです」

自分自身の再発見〜BOOK「ふたこしんち帖」廣部剛司さん

建築家の廣部さんは、生まれ育った町の二子新地をテーマにして制作。表紙にもある岡本太郎の彫刻は、この町に生まれた母・岡本かの子の文学碑「誇り」。彫刻の台座と築山は、建築家の丹下健三が設計。子ども時代、廣部さんは、そんなことも知らないで彫刻によじのぼって遊んでいたのだとか。

「この制作で、初めて自分の家の近所をカメラで撮りながら歩き回りました。子どもの頃から顔を知っているおじいちゃんとかと出会いながら、極私的な町のタペストリーになった気がします。カメラに撮って見つめ直しているうちに、どんどん発展していくんですよね。こう、知らないうちに自ら脱いでしまっているかのように(笑)」

「仕事で住宅の設計を依頼されるお客様には、まずその町を歩いてみて土地の空気感や雰囲気が好きになれるか、フィーリングで決めた方がいいですよ、とアドバイスします。町の空気感ってすごく大切なんですよ。二子新地という、自分の生まれ育った町を改めて歩いてみると、自分が何をいいと思ってチョイスしているのか、自分の原点がこの町で育まれたんだなということを再発見した気がします」

自然に囲まれた終点の町〜MOVIE「新宮帖3」ふるかわひできとふくもとゆうき

広告映像プロデューサーの古川さんが、故郷である新宮を、古くからの地元の友人であるデザイナーの福本さんと一緒に映像化した作品。2011年に出品した「新宮帖1」は、閲覧した地元民からの口コミでめくるめく評判が高まり、YouTubeでの再生回数が1,000を超えたのだとか。

「いまは大阪に住んでいますが、新宮は18年間生まれ育った町で、いつかこの町の凄さや大切さを表現したいと思っていたんです。それが、2011年の3.11を経て、その年の9月の台風で新宮が水害を受けたことをきっかけに、自分の故郷がなくなったらどうしよう? 大事な新宮のよさをかたちにしないといけない、という思いから映像制作に結実しました」と古川さん。

「きのくに線(紀勢本線)の終着駅の新宮は、大阪からトンネルを何個も抜けてようやくたどり着くような場所です。今回も、誰に伝えるでもなく、自分の地元愛(新宮愛)を表現したところ、まさか地元のおじいちゃんたちから、『俺らのときは、電車で8時間もかかった』とビデオへの共感をいただいたり、「やっぱり、ええとこやのう、新宮は!」と自慢げに話されたりしたことは、本当に励みになりました。

そんな温かくて優しい人たちと、そこに一緒に暮らしているだけでも意味があると思えます。自分にとってはかけがえのない大切な場所なんです。そのことが少しでも伝わると嬉しいですね」

マンションコミュニティでマチオモイ帖をつくるなら?

自分の住む町への思いが湧くマチオモイ帖の手法をマンションコミュニティにも取り入れることはできないものでしょうか? たとえば、自分の住んでいるマンションがいつか子どもたちの故郷になる、そんな思いを伝えていくことができないか、清水さんに伺ってみました。

「マンションもどこかの町の一部だから、それがそのままマチオモイ帖になっていけばいいと思います。たとえば自分のマンションが見える景色もそのまま町の一部ですし。マンションの居住者ひとりひとりが、『ここがいいんだ!』という自分の視点を持ち寄って話し合って、一冊のマチオモイ帖をつくってみたらどうでしょうか。子どもがつくるマチオモイ帖も楽しいはずですよ。いつかは、学校のカリキュラムやワークショップとして展開できるといいなと考えています」

「マチオモイ帖って、ガイドブックとはまったく異なるものなんです。自分語り、自分事ですからね。その人の好きの度合い、自分にとって価値のある思いを、どれだけ語って共感を得られるかに尽きると思います。みんなが、自分の好きな町を誇りに思ってカタチにし、その無数の点が、日本全国の町すべてに積み重なったら、きっといままでとは違う日本の景色が見えてくるんじゃないでしょうか」

マチオモイ帖から選ばれた12作品が、2013年・2014年のゆうちょ銀行のカレンダーにも使われました。


マチオモイ帖展覧会場にいると、自分の住んでいる町のマチオモイ帖がないかな、と自然に探してしまいます。それだけ自分の住む町への関心は高いということ。マチオモイ帖づくりは、町への思いを共有しながら、みんなで自分のマンションを故郷にするべく語り合うきっかけになるかもしれません。

my home town わたしのマチオモイ帖

【東京展:東京ミッドタウン・デザインハブ特別展】
会期:2014年2月28日(金)〜3月23日(日)
場所:東京ミッドタウン・デザインハブ
東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5F

【大阪展:メビック扇町特別展】
会期:2014年3月7日(金)〜3月29日(土)
場所:クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町
大阪市北区扇町2-1-7関テレ扇町スクエア3F
TEL:06-6316-8780(10:00~21:30 土・日・祝日は休館)

【お問い合わせ】
わたしのマチオモイ帖
http://machiomoi.net

2014/03/14

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