準備の有無が運命を分ける!〜帰宅困難・天国と地獄〜
東日本大震災の際、電車が止まり車も動かない状況で、たくさんの方々が帰宅困難の大変な苦労を経験されたと思います。さらに、今後も大きな地震が来ることが想定されることから、帰宅困難に備えておきたいところです。ただ、実際にどのような準備が必要か、あるいは準備していないとどのような苦労があるのか、なかなか想像はつきませんよね。
そこで今回は、マンション・ラボの「やってみ隊」企画として、大地震で帰宅困難となり、徒歩で帰宅する際に、備えた場合と備えていない場合を、実際に歩いて比較してみたいと思います。
今回、男性・女性両方の意見を頂きたいということで、防災に興味をお持ちだというSMA(ソニーミュージックアーティスツ)所属の男女お笑い芸人コンビ「レイチェル木村」のお二人に協力してもらいました。
写真左
名前:レイチェル
生年月日:1992年4月6日
出身地:東京都
twitter:
→https://twitter.com/dynamite_giri
写真右
名前:木村太紀
生年月日:1985年2月8日
出身地:神奈川県
twitter:
→https://twitter.com/kimurataiki
お二人には、
(1)帰宅困難者になった時のことを考えず事前準備をしていなかった人(地獄コース)
(2)帰宅困難者になることを想定して事前準備をしていた人(天国コース)
の2つのコースに分かれて、同時にスタートしてもらいました。
スタート時間 13:30
気温 最高気温31.2度 最低気温23.5度
湿度 77%
天候 曇りのち雨
(1)地獄コース:事前準備なし(ルート:新宿御苑前→高円寺)
服装
スーツ一式、革靴
持ち物
スマートフォン、ビジネスバッグ(パソコンや書類が入っている)
人物設定
木村さんは、『オフィスで働いていた時に急に大地震が起こり帰宅困難者になってしまった』という設定です。日頃から災害に備える意識が希薄なため、特に何も用意はしていないので、スーツ姿のままで帰宅するとどうなるか、ということを体験してもらいます。
交通機関の利用
大地震が起こった場合には、鉄道各線が長時間運行停止することが予測されます。また、道路での危険防止や救助活動などに従事する緊急車両の円滑な通行の確保という理由により、交通が規制され、タクシーやバスの利用はほぼできないと考えていいでしょう。そのため今回も交通機関は使いません。
食料
コンビニの食料も売り切れてしまっているという状況設定のため、水も食べ物もいっさい摂取しません。
ルート・距離
新宿御苑前駅付近のとあるオフィスからスタートし、自宅マンションのある高円寺まで歩いてもらいます。最短距離で約7㎞あります。
出発!
時刻は13:30。新宿御苑前からスタートです。スマートフォンの地図アプリを使って歩くルートを確認します。

スマートフォンの電池の残量は残りわずかです。

新宿御苑前駅から高円寺までの大まかなルートを調べます。
「普通に歩けば1時間30分くらいですね。とりあえず新宿を目指して歩きます」と、余裕の表情で歩き出しました。
軽快な足取りで進んでいたものの、「めちゃくちゃ暑いですね」と、真夏の日差しに早くも顔をゆがめています。
大量に汗が噴き出てきましたが、タオルやウェットティッシュなどをもっていないため、流れる汗はそのままに、ひたすら歩きます。途中、急に立ち止まりました。「あれ?ここどこだろ?」と、あたりをキョロキョロと見回します。どうやら道に迷ってしまったようです。

住所表示を確認すると、そこは東新宿。
基本的には「新宿通り」を真っ直ぐに進めば良かったのですが、大きくルートを外れてしまったようです。初めに細かく調べておかないと簡単な道順でも間違ってしまうことがあるということですね。
もう一度地図アプリで確認しようとする木村さんですが、スマートフォンの電池が切れてしまって使えません。このような状況になると、不安になりますよね。
すると運悪く小雨が。さらに、すぐに大降りとなったため、慌てて濡れない場所を探し駆け込みます。

傘がないと、このように時間をロスしてしまいますね。
帰宅困難という大変な状況のうえ、雨まで降ってくると、体力だけでなく気力も奪われてしまいます。最近ではゲリラ豪雨など突発的な雨も多いことから、折りたたみ傘を用意することをお勧めします。
ひたすら待つこと15分。やや小降りになったので、なんとか進む方向の見当をつけ、再び新宿を目指して歩き出します。
予想をかなり上回る時間を費やして新宿に到着。普通に歩けば20分ほどで来られる距離ですが、50分もかかってしまいました。
5分ほど休憩した後、高円寺を目指して再び歩き出します。ここでまた雨が強くなり、歩くにはかなり厳しい状況になってきました。
パソコンや書類の入っているバッグは重量があり、左右の手で持ち替えながら歩きます。できるだけ必要のないものは持たないほうがいいでしょう。また、荷物を持つのであれば、リュックタイプのバッグのほうが両手も開きますし、負担も軽減できて良いと思います。

青梅街道を真っ直ぐ進み、中野通りを右折してそのまま歩いて行くと中野駅に着きます。

汗と雨でグッショリです
ようやく中野に到着。「のどが渇いてしかたがないです。水が欲しい・・・」と苦しい様子。「音楽でも聴きながら歩けたら気分も紛れるんですけどね・・・」との欲求も、スマートフォンの電池が切れてしまっているため叶いません。スマートフォンや携帯電話は、を調べたり明かりを灯したりと、災害時にもとても需要なツールです。そのため、必ずモバイルバッテリーを準備しておいた方が良いと思います。
また、ここにきて足への疲労も大きくなってきたようです。「足が痛い」と立ち止まり、近くにあった公園のベンチで休憩を取ることに。足の裏に激痛があるようで、自分で足をマッサージして出発に向けて備えます。
10分ほど休憩し出発。とても辛そうな様子ですが、少しでも早く帰宅したいという気持ちで歩みを速めます。
ここまで来れば、あとはJR中央本線沿いをただひたすら真っ直ぐ歩くだけです。
やっとの思いで高円寺に16時半ころ到着。所要時間は通常の倍、約3時間でした。「ちょっとナメてましたね・・・もう動きたくないです」と言い残し、重い足取りでご自宅へ帰って行く木村さんでした。お疲れ様でした。
(2)天国コース:準備ありコース(ルート:新宿御苑前→池尻大橋)
服装
歩きやすいスニーカー(中敷きクッション使用)、動きやすいジーンズ、半袖のシャツ、リュックサック
持ち物
スマートフォン、携帯充電器、帰宅困難者支援キット、レインコート、水、お菓子(非常食)、汗拭きシート
人物設定
レイチェルさんも、オフィスで働いていた時に急に大地震が起こり帰宅困難者になってしまったという設定です。日頃から災害に備える意識が高いため、仕事場に洋服、靴、水、帰宅困難者支援キットが置いてあり準備万端です。
ちなみに帰宅困難者支援キットの中身はこちら
中にはこのようなものが入っています。
・ ブランケット(寒さ対策で体を覆い被せるもの)
・ IDカード入れ
・ SOS笛
・ マスク
・ 包帯
・ カンパン
・ 防災ハンドブック
・ 水
・ ラジオライト
・ 三角巾
・ ウェットティッシュ
・ バンドエイド
・ 帰宅支援マップ
このような支援キットはホームセンターなどでも販売しているので、実際に購入して仕事場などにおいておくのが良いでしょう。
これ以外にも、歩きやすいように靴の中敷きクッション、お菓子や水、携帯充電器などを用意しました。
靴に中敷きクッションを入れるとこのようになります。
ルート・距離
木村さん同様、新宿御苑前駅付近のとあるオフィスからスタートし、自宅のある池尻大橋まで歩いてもらいます。距離は約7㎞です。
実際の震災時に帰宅する場合は、写真のようにヘルメットをかぶって移動しましょう。落下物対策になり安全です。
スタート
最初に支援キットにあった帰宅支援マップで帰宅経路を確認します。ヘルメットは、今回目立ってしまうので、脱がせていただきました。
最短距離だとこのような経路です。
検証実施日は湿気が多く、大変蒸し暑い日でしたので、開始早々お水を飲みお菓子を食べて栄養補給しながら歩きます。
ここで、少し道が分かりづらくなってきたので、地図アプリで経路を再確認
歩いている道で大丈夫だということが確認できました。まだ道に迷わず、余裕もありそうです。
途中、突然雨が降り出しましたが、レインコートを持参していたので大丈夫です。レインコートの良さは傘と違い、両手が空くところ。災害時には何があるかわかりませんから、傘ではなく、できるだけ丈夫なレインコートを用意しておいたほうが安心ですね。
雨が降ってきた時、この辺りを歩いていました。
準備ありとはいえ、普段全くと言っていいほど運動をしていないためか、だんだんと疲労がたまってきたようです。少し休憩してから出発することに。雨も止んできました。
水を飲んでお菓子も食べて、少し笑顔も見られるようになりました。地図を見て再確認し、いざ出発です。
長時間歩いての移動に備えて、ウェットティッシュは必需品ですね。タオルでもいいですが、ウェットティッシュの方が清涼感も得られるのでオススメです。
渋谷を通過。ここに来ての坂は辛そうです。
モバイルバッテリーを用意していたので、電源が切れる心配もストレスもないことは、大きな強みですね。
最後の難関の坂も越え、ようやく池尻大橋駅に無事到着しました。
かかった時間は地獄コースよりも多少早く2時間30分。時刻は16時を指していました。女性の歩く速度を考えたら、地獄コースより随分早く着いたことになります。
歩いた感想をお二人に伺いました。
<準備なしの地獄コース体験者>木村さん
「やはり、スーツに革靴という格好で長時間歩くというのが一番辛かったです。あと水も何も用意していないというのが思いの外きつかったです。震災時、断水している可能性もあるので水はストックするに越したことはないなと思いました。このことから、歩きやすい服装と靴、そして水はマストで必要なんだなと実感しました。」
<準備ありの天国コース体験者>レイチェルさん
「備えをして歩いたとはいえ、運動していない女性には7㎞歩くのも大変だと思いました。あとは、雨降った時にレインコートは両手が空くので必須だと感じましたが、一つ難点もあることがわかりました。暑さです。雨は防げますが熱が逃げないので喉が乾きました。夏に震災が起こり雨が降った場合は、レインコートを脱いだり着たりしなくてはいけないんだと学びました。意外と良かったのが靴の中敷。これがあるのとないのではかなり足へのダメージが変わるのではないでしょうか。」
今回検証時は夏の昼下がり。では夜だったら?冬だったら?どうなるでしょう?
もし夜なら、災害時なので電灯や街の灯りはないことも想定されます。懐中電灯を携帯することも考えれば、両手を空けることも必要となるので、ヘッドライトは準備しなければならないアイテムだと感じました。
また、冬なら、寒さ対策を考えたアイテム、例えばカイロなども準備しておいたほうがいいかもしれませんね。季節や環境、状況に合わせた準備や判断が必要だと、改めて感じました。
皆さんも、できれば一度自宅に歩いて帰ることを想定し、今一度準備を考えてみてはいかがでしょうか。
2016/09/16