第13話「なぜすぐに助けない!」管理体制を責めたてる住民の怒り

ある日、突然の大地震が発生! インターフォンでは応答のなかった住民の元へ、伊東と佐島、そして管理員の高林が手分けして安否確認に向かうことに。管理員の高林は高層階に住む、初代理事をつとめた男性宅を訪れる。すると、想像を絶するような怒声をあびせられてしまう。

マンション地震防災奮闘記この話は、とあるマンションの新米防災担当者・伊東が、「最高の防災力を備えるマンションをつくる」という目的に向かって邁進していく姿を描いたフィクションストーリーである。

主な登場人物はこちら

管理員・高林編(21~30階担当)

18階で伊東が降りたあと、高林は1人エレベーターの中で昨日の地震のことを思い出していた。

エントランス高林はちょうど見廻りを終え、管理事務所に向かう途中だった。エントランスでは小学校から帰宅したばかりの子どもたちが、携帯用のゲームに興じていた。一面ガラス張りで中庭がよく見えるソファーでは、お年寄りが集まっておしゃべりに夢中になっている。高林はいつものほのぼのとした光景を横目にエントランスを通り抜けようとしたとき、あの地震が起きた。

いつものように小さな揺れですぐに収まるはずが、どんどん大きく、激しく揺れ始めた。ただならぬ事態を察し、高林はガラス近くにいたお年寄りをすぐにその場から離れて床に座らせ、小学生にも立たずに座るよう指示をしてなんとかやりすごした。しかし、経験したことのない揺れに、高林もまた動揺していた。

エレベーターが停止し、中・高層階の住民の休息場所や食料の提供、住民への対応など…管理員ではあるが、災害のプロではない。住民からの期待に応えようとする気持ちと、反面「管理員としてやるべきことなのか」という疑問や不安に、高林もまた他の住民同様追い詰められていた。しかし伊東と佐島の協力するという申し出が、高林の気持ちを再び奮い立たせた。「できることをやるしかない」。高林は決意を新たにし、最初に確認する28Fに降り立った。

2801号 初代理事長宅にて

高林が最初に向かったのは、老夫婦の住む2801号だった。夫は某大手銀行の東京支店長や海外支店を歴任し、このマンションが竣工してから最初の理事長を務めた人物だ。頭脳明晰で切れ者ながら、穏やかで落ち着いた物腰はその輝かしい経歴を十分に納得させるものだった。最近は奥さんが病気がちだということで、以前のオーラのようなものはすっかりなりを潜めたが、それでも気丈に振る舞う姿は、1人の人間として尊敬できるものだった。ここしばらく話をしていないことが少々不安であったが、高林は呼び出しボタンを押した。

「ピンポーン、ピンポーン」

「はい….どちらさまでしょうか…。」男性が出た。重厚な声と物言いは、高林を緊張させるには十分すぎるほどだった。

「管理員の高林でございます。お休みのところ申し訳ございません。実は昨晩の地震のことで、安否を確認させていただいております。お差し支えなければ、少々ご家庭の状況などを確認させていただきたいのですが。」高林は、自分ができうる限り丁寧で失礼のない言葉で説明した。しかし男性の言葉は、高林の期待をすぐに裏切るものだった。

「…高林君か。君ら、一体何をしているんだ。昨晩私たちは自宅にいてあの地震で家の中がめちゃくちゃになった。妻は病弱な上、地震のショックで起き上がることもできない状況だ。昨晩何度も助けてほしいと管理室を呼び出したがつながらないじゃないか。いや、つながっても誰も出ない。エレベーターも停まり、直接話にいくこともできない。見放された状況だったんだぞ。それを今さら何しにきたというんだ!」ものすごい怒声が響く。

「いいか高林。君らは管理員だ。マンションを管理する義務がある。マンションを管理するということは、住民の安全を守ることも含まれると私は思っている。今回の件は、完全に君たちの怠慢だ。会社の危機管理が未熟なせいだ。私は落ち着いてから、今回の件を理事会と君たち管理会社に報告し、管理会社と管理員の変更、つまり君の更迭を申し入れるつもりだ。いいか、これはおどしじゃない。正当な権利だ!」一方的に話しつづける男性に、高林はなすすべもなく、ただうなだれて聞くだけだった。いや、例え説明したとしても、恐らく聞いてはくれないだろう。

「聞いているのか高林。いいや、もういい。とにかく理事会が招集されたらきちんと報告しろ。理事会にも地震の対応を急げといっておけ。いいか、きっとだぞ。」

「…承知しました….」精一杯の言葉を振り絞り、高林はその場を離れた。

(なぜ一介の管理員がここまでの責務を負わねばならないのか。なぜこんな目に?)高林は、厳しい言葉に愕然とし釈然としないながらも、安否確認ができたことへの感謝に気持ちを切り替え、引き続き次の住戸の安否確認へと向かった。

それぞれの安否確認を終えて

3人はそれぞれ担当する住戸の確認を終え、管理事務所に戻ってきた。揃った頃には、時計は17時を回っていて、陽が沈みかけていた。伊東も佐島も高林も、慣れない作業と気遣いで精神的も肉体的にも疲労しきっていた。それでも互いの労を労いつつ、事務所内の休憩スペースで、確認した住戸の報告をはじめた。

訪問した中で確認が取れなかった住戸は、伊東の担当した1808号だけだった。あとの住戸は、ほとんどが外出や友人宅に避難していて応答できない状態だったらしく、とにかく安全が確認できたこと、無事がわかったことが安否確認最高の成果だった。

それでも、今も家族と連絡が取れずに困っている者や、地震への対応に苦言を呈する者がいること、また今後の耐震診断や危機管理などの対応について、長く理事会で検討していくことを想像すると、なんともいえない重たく暗い気持ちになった。

しかし、少数ではあったが労をねぎらって感謝の言葉をかけてくれる人や、温かい飲み物や食べ物を差し入れしてくれたり、協力を申し出てくれる人もいたのだ。そんな彼らのためにも、なんとかしてこのマンションの地震対策について頑張っていかねばならないと、3人は気持ちを新たにしたのだった。

第14話へつづく

※写真はイメージです

2012/01/12

↑ page top