まるで「垂直の森」!?イタリア・ミラノに植物との共生を目指すタワーマンションが誕生

イタリア北部の中心都市ミラノ。ルネサンス文化が花開いた長い歴史をもつ街として知られる一方、近年の再開発で近代的な建物も次第に増えてきた。

そのなかで特に目をひくのが、木々が生い茂ってまるで巨大な森のようにみえるタワーマンションだ。いったいこの建築は何なのだろうか!?

人間と植物の共生を目指すマンション

イタリアに新しくできたタワーマンション「ボスコ・ヴァーティカル(以下:BV)」。名前の意味は、イタリア語で「垂直の森」。

その名のとおり、3~9メートルに育つ木が約800本、1~2mの高さにまで成長する低木は約4,000本、さらに蔦や多年生植物1,500本以上が壁面やバルコニーに生い茂っており、全体でBVには1,000種類近くの植物が植えられている。その緑の総面積は、なんとサッカーフィールドと同規模にもなる。まさに“そびえ立つ森”なのだ。

実はフランスの自由旅行者向けガイドブックでミラノ観光の見所として紹介されるほど、今やこの街で最も注目されている建築物の1つとなっている。

2棟からなるボスコ・ヴァーティカル。現在は、まだまだ若い木々がほとんどで緑がまばらだが、経年するにつれて緑が生い茂る。

このマンションは高さ112mある26階建てと、高さ80mの18階建ての建物が2棟隣接する造りとなっている。2010年に建築がはじまり、2014年夏に完成。さまざまなシステムの確認や点検に3カ月を費やしたため、同年10月にオープンした。建築中から大きな話題となっていたこともあり、部屋はオープン前にほぼ完売していたという。

BV最大の特徴といえば、この木々たちが生い茂るテラスであることは間違いない。

例えば、通常の高層マンションであれば、テラスの位置はすべての階で同じ場所だろう。しかし、写真をみればすぐに分かるとおり、BVではそれらが意図的に不規則に配置されている。

そんな変則的な構成が建物全体の外観の美しさを形成するとともに、木を植えて成長させるのに必要なスペースを確保することにもつながっている。

「垂直の森」と呼ばれるゆえんである、木々が生い茂るバルコニー。イタリアらしくオリーブの木も目立つ。

後で説明していくが、このテラスのセッティングには大きく2つの意味がある。まず、タワーマンションで背の高い木々を育てるため、そして安全に植物との共生を実現するために熟考されたデザインということができるのである。

「ボスコ・ヴァーティカル(BV)」のエコロジー効果とは?

このマンションを竣工・販売したのは、1999年設立のハインツ・イタリア社。アメリカに本社のある世界的なマンション・ディベロッパー:ハインツ社のイタリア法人だ。

半世紀以上の実績をもつハインツ本社は、世界18カ国100以上の都市にネットワークをもち高品質な不動産を供給していることでも有名な会社。

とくにイタリアでは、近年、エコロジーに重点を置いた不動産開発で注目されている。そんなハインツ・イタリア社のCEOマンフレディ・カテッラさんに話を聞いた。

カテッラさん:「例えば、BVのテラスに植えられた広葉樹は、夏には暑い太陽光線をさえぎり、冬は反対に太陽の光を室内に十分取り込むことができる。こういったことから、このテラスの存在がマンション全体のエネルギー消費抑制につながるという設計になっているのです。

また、植物は空気中のCO2ばかりでなく、大都市の交通機関が輩出するさまざまな微粒子まで吸収してくれます。つまり、ミラノ市全体の空気浄化にも大きく貢献することを期待されているのです。このマンションは、植物と都市建築の新たな関係についての1つの実験ともいえるでしょう」

ハインツ・イタリア社のマンフレディ・カテッラさん。

ミラノ市内ではひどい大気汚染が問題となっているのだが、BVのテラスに植えられた植物の効果は大きく、さらに放射能や騒音からも保護してくれるという。

また、部屋のすぐ外側にあるグリーンは光合成によって適度な湿気をもたらしてくれるので、年間を通してとても住み心地のよい環境を住人に与えてくれるというメリットもある。

そんなBVの設計を担ったのは、ステファノ・ボエリ氏。ミラノ出身であり、かつ建築を学んだのもこの地というミラノっ子だ。現在はミラノ工科大学アーバンデザイン学の教授として活躍すると共に、自身の建築事務所を率いる建築デザイナーでもある。

この建物の設計面でもっとも先進的といえるのは、やはり人間と植物との共存性を熟考した点だろう。“大都市で、環境を破壊せずに人と自然が共存できるか”というテーマに対するボエリ氏の回答こそ、“マンションを丸ごと森にしてしまおう”というデザインというわけである。

住民が1に対して、植物が2という比率を『人間と共に分かち合う木のための家』と、ボエリ氏は名づけた。この設計により、大都市の中心にほど近いわずか1500平米の土地が、なんと2ヘクタールの森と同じエコロジー効果を生み出すことになった。面積としては13倍を超える緑の効率性が実現されているのだ。

さらに、突如ミラノ上空に現れた木々は多くの鳥たちを惹きつけ、たちまちのうちにBVの木々に巣をつくるものまででてきた。

この光景は生物学者の興味を引き、BVを生きた実験場としてすでに定期的な観察がはじめられている。

世界が目を引くBVの設計

そんな人間と植物の共存性を高めたBVの設計は、世界からも注目を浴びている。

今までにない“都市のなかでの自然と建築の融合性”という斬新なコンセプトが大きな支持を得て、BVは2014年度の国際高層ビル賞の最高賞を獲得した。

この賞は、2年に1度世界で最も美しく革新的な高層ビルに贈られるものとして知られているもの。残念ながら日本の建築物はまだ受賞したことがないが、アジアでは2010年にバンコクの高層コンドミニアム:ザ・メットが受賞しているものだ。

建設中のBV。この芝生オープンスペースの地下には、地下3階にわたる駐車場がひろがっている。

それ以上にBVの関係者が重視するのは、この建築がアメリカのグリーンビルディング協会によるLEED(Leadership in Energy and Envioronmental Design)の金賞にも輝いていることだ。

LEEDは、水やエネルギー、資材、資源を有効に使い、環境破壊や環境汚染を削減し、環境や人体への負担を減らす工夫をした建物に与えられるもの。その選定基準は、立地や設計、建設のみならず、運営はもちろん改築や解体時にいたるまでもに関し、環境や資源に配慮した建築物であるかがどうか。さらにこれらのエコロジーの視点に加え、デザイン性や教育、啓蒙など多くの項目で高い評価を得なければLEEDを受賞することは出来ない。

この賞を獲得したことで、BVの不動産評価が大きく向上したとされるのも、この建物の緑との共生が各方面からの確固たる評価をえたからこそという。

これらの受賞歴からも、BVが現在世界がもっとも注目する自然と調和する住居であることは間違いない。

建設中時点のBV。建物の完成は2014年夏だがシステムのメンテナンスのため、完全なオープンは10月となった。

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2015/07/15

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