高齢者のためにコミュニティでできること Part.1

高齢者を取り込む鍵は、対価という概念

今回の研究室では、「高齢者のために、コミュニティでできることを考えよう。」をテーマに、年々増加しつつある、マンションの高齢者世帯とコミュニティとの関わりを多方向から考察します。

今回の研究担当

平生進一氏 株式会社メックecoライフ 取締役社長。
三菱地所の商品企画部長として数々の分譲マンションを手がけ現在はメックecoライフ社でマンション開発企画、及び既存マンションの環境・デザインに関する研究・提案を行う。

三輪弘美氏 三菱地所レジデンス株式会社 ブランド・CS推進部 リーダー。
株式会社メックecoライフを兼務。マンション開発企画を経験し、現在は「ザ・パークハウス」のブランディングと住まいのエコを中心とした研究・提案も行っている。

藤本奈美氏 株式会社つなぐネットコミュニケーションズ ジェネラルマネージャー。
主に既存マンション管理組合様や居住者様に対し、利用者側の立場に立った、サービスの開発や導入を手がける。

ファシリテーター/佐藤大樹(マンション・ラボ編集部員)

必然性と娯楽性の面から、高齢者テーマを紐解く

[コミュニティ座談会]では、理想のマンションコミュニティの方向性と課題について話してきました。
今回は最近増加しつつあるマンションの高齢者世帯に対してコミュニティができることや、将来的な可能性を探りたいと考えています。座談会で導き出した「必然性」と「娯楽性」、この二つをいかにミックスできるか、それが「高齢者」というテーマの鍵かもしれません。
今回は、編集部で収集したさまざまなデータをご覧いただきたいと思います。


「[コミュニティ座談会4]マンションコミュニティの方向性と課題とは?」より

年々増加する「マンションに住む高齢者」世帯

佐藤 マンションに住む高齢者世帯のデータを見てみましょう。3.11以降、マンションの防災が叫ばれる中で顕在化してきたのは、つながりを持たない高齢者の増加問題でした。社団法人高層住宅管理業協会の推計によると、日本の総人口約1億3000万人のうち、約2700万人が65歳以上の高齢人口であり、マンション居住者が約1300万人と推定すると、マンション居住の高齢者はざっと260万人位いるとされています。(社団法人高層住宅管理業協会「マンション居住高齢者への支援マニュアル概要版:マンション居住者の高齢化」(2008年3月)より引用)

マンション世帯主の年齢の変化

出典:国土交通省「平成15年度マンション総合調査結果について:マンション世帯主の年齢」および「平成20年度マンション総合調査結果について:マンション世帯主の年齢」より抜粋

三輪 世帯主人口は、70歳以上が1割以上。年々増えていますね。

藤本 こうしてみると、あらためて超高齢社会のさなかにいることを実感します。

佐藤 こちらは、社団法人高層住宅管理業協会が高齢者に対して「あなたやご家族がこのマンションで一人暮らしになったとき、どのようなサポートがあればこのマンションで住み続けられると思いますか?」という問いかけを行ったデータです。

高齢者がマンションで必要とするサポート

Q:あなたやご家族がお住まいのマンションで一人暮らしになったとき、どのようなサポートがあれば住み続けられると思いますか?

出典:社団法人高層住宅管理業協会「マンション居住高齢者への支援マニュアル概要版」(2008年3月)

藤本 回答では、行政に期待しているという「行政関連」が最も多く、約半分を占めています。家族関連は2%と、非常に少ない結果ですね。

三輪 家族関連が少ないのは意外ですね。みなさん自立しているということでしょうか?

藤本 それだけ将来的な不安の解決を行政に求めているということなんでしょうね。でも、行政以外にも、一人で暮らすことのできるサポートがあってもいいですし、高齢者自身が自立して生活できる何かがあるといいですよね。

高齢者はずっと家にいる。社会と切り離された存在からの脱却を

佐藤 高齢者の話になると、さも「何かをしてあげる」という話になりがちですが、先ほど藤本さんが話していた、「高齢者自身が自立して生活できる何か」に、何かヒントがあると思うのですが。

三輪 高齢者が受けたいサービスだけではなく、もっと高齢者の皆さんがやりたいことや、能動的にできることを模索していく必要がありますよね?

藤本 一般的に考えると、元気な高齢者が能動的に行っているのはボランティア活動が多いですね。

三輪 自治体や地域コミュニティではボランティア活動への取り組みが活発ですからね。

平生 マンションだけでなく、高齢者とコミュニティという視点で考えると、何が必要で何が足りない問題なのか? マンションに限らず、一度「高齢者って何だろう?」と根本的に考えてみるべきではないでしょうか。

平生 私も実母が老人ホームにいますし、妻の母は去年の四月に亡くなるまで1年間ホームで面倒をみてもらっていました。「高齢者って何だろう?」と考えたときに、一つ言えることは、ずっと家に居るということです。誰でも外に行く場所がありますが、現代の高齢者は、年金もあり蓄えもあり働く必要がなくて、「ずっと家にいる」んですね。そこが一番違うなと、二人の母を見ていて思いました。夫婦でいる間は、家に居てもそれなりに家庭での役割があります。しかし高齢者が一人暮らしになると、社会的役割はもちろん家庭的役割もなくなり、誰ともつながりのない状況に陥ってしまうのです。

藤本 そうですね。ご家族や親戚、お友達に会うことはあっても、マンション内の人とはあまりつながりのない方が多そうです。一人暮らしならなおさらですね。

 

高齢者の社会貢献には対価を

佐藤 コミュニティの中でこういった層に働きかけるには、生き甲斐を得る機会や、自発的に高齢者をもっと活用した方が良いということですか?

三輪 高齢者のモチベーションも居場所も用意しつつ、役割として活用する。そこから交流が生まれたり、互いに顔を知って見聞きしたりするきっかけになるかもしれませんね。

藤本 高齢者=ネガティブな存在としての話題や問題点ばかりが国内では取り上げられがちですが、その知恵や経験を生かす場がほしいですね。

平生 さらに言えば、「高齢者の知恵や経験を役立てるべきだ」というのはいいけれど、そこにお金を支払わないことが問題ではないかとも思っています。高齢者のボランティア心は尊い物だからお金を払っちゃいけないとかいう意識はね、そうじゃないですよ。お金を得るというのは人間の本質に関わる問題です。
何十年も勤務してきた人が、年金を受給する年齢に達したら突然、仕事の規範から逸脱して、ボランティアに甘んじることも少なくありません。お金を得て働く喜びを知っていたにも関わらず、高齢者だからボランティアは当たり前でしょう、という風潮が世間に存在しています。高齢者だからお金は払えないけど、その中で知恵を出しましょうって言われても、一銭にもならないなら「くたびれたし、もういいや」ってなりますよね。やはり高齢者に役割を与えて働いていただくならば、それなりに正当な時給を提供していかなければ。

藤本 働くモチベーションが大切ということですね。なぜ働くのかというと、人や社会の役に立っているからという充実感だし、労働の報酬が生き甲斐につながるのは、年代問わず共通だと思います。それは大きく頷けます。そういえば、以前、山村の高齢者による「葉っぱビジネス」の話題も大きく取り上げられました。こちらの高齢者は、家族の働き頭として実に生き生きとしてらっしゃいます。

【参考記事】葉っぱの町 上勝町 株式会社いろどり

高齢者によるビジネスモデルの成功例。「葉っぱビジネス」は、日本料理を美しく彩る季節の葉や花、山菜などを販売する農業ビジネス。ここでの働き手はそこに住む高齢者である。
葉っぱの町 上勝町 株式会社いろどり
http://www.irodori.co.jp/

平生 結局、高齢者の社会的貢献には、賃金というものを介在させた方がいいということだと、僕は思います。対価を得ることがやり甲斐につながるのは、人間の基本的な心理ですよ。

キーワードは、高齢者、労働の対価、主体性、マンションの枠組み活用

藤本 自治体でも「いきがい事業団」などの高齢者の力を活かす取り組みを行っていますが、シルバー人材センターの発展系みたいなものなのでしょうか?

平生 そうですね。キーワードは、コミュニティ、高齢者、労働の対価、主体性。そしてこれらを、マンションならではの枠組みをうまく活用した方法論で考えるべきでしょう。

佐藤 次のステップでは、国内外の高齢者ビジネスの成功例の情報を集めてみましょう。見習うべき点やヒントが隠されているかもしれません。そこからさらに検討したいと思います。


次回に続く

2012/07/05

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