マンション共有部分を「養蜂」で生かす!ミツバチがつなぐマンションと街

マンションには、ただ住むだけでなく、いろいろな可能性があります。共有部分の活用だったり、コミュニティスペースでのイベントだったり――。

共有部分を「養蜂」で活用し住民同士の関係を深め、さらにマンションコミュニティと地域をつなげたのが、児島秀樹さんです。東京都内駅前にあるマンションの共有部分で養蜂を始めたきっかけや、住民合意を得るための工夫、養蜂がマンション住民や地域にもたらしたものなどについてお話を伺いました。

【取材協力者・住環境紹介】

児島秀樹さん。調布市仙川で街の清掃や緑化活動、養蜂などを展開している地域グループ「グッドモーニング仙川!プロジェクト」(外部リンク)代表。
マンション情報:都内のコーポラティブハウス(区分所有権)※(築12年・全22戸)
居住年数:12年
養蜂情報:マンションのごみ置き場屋上(共有部分)にミツバチ20,000匹をレンタル飼育。2016年から開始し、今年で2年目。1年目の採蜜量は約20キロ、2年目は約40キロ。
※コーポラティブハウス・・・入居希望者が集まって事業主となり建設に関わること全てに携わって建てる集合住宅

「マンションも街の一部」と実感したことから始まった

日常生活の中で養蜂を経験することは、なかなかあることではありません。児島さんもご自身が養蜂を始めるとは思ってもいなかったそうです。そんな児島さんが養蜂を始めるきっかけになったのが、2014年6月24日東京都調布に降った記録的な量の雹(ひょう)。異常気象に街が混乱する中、人々の通行路を確保するためスコップで“雹かき”をしたところ、「街の役に立てた。自分はこの街に住んでいるんだ。」と強く感じたそうです。それまではマンションの中のみに向けられていた「住む場所」という意識が、「マンションも街の一部である、街も自分の住む場所である」と街にまで広がりました。

この体験以降、「自分や家族の住む街」に関わりたいと出勤前に街のごみ拾いを始めます。はじめのうちは1人でやっていましたが、「自分たちの住む街をきれいにしませんか?一緒にやりませんか?」とチラシを作成してマンション内に呼びかけると、他の住民も少しずつ一緒にやってくれるようになりました。「花や緑の多い街に住みたい」との思いから、マンションの緑化クラブメンバーと一緒に駅前や公園の緑化も進めました。

ある日、自分たちが植えた公園の花に止まったミツバチを見て「自分たちの植えた花にミツバチがきて、そこからハチミツが採れて、みんなでハチミツを食べたら楽しいだろうな」という思いが児島さんの中に浮かんだそうです。児島さんはここでも行動力を発揮します。「自分の住む街でハチミツが採れたらいいですよね?みんなでそんな街にしませんか?」と呼びかけながら、銀座ミツバチプロジェクトについて調べたり、友人の養蜂家に話を聞いたり、渋谷みつばちプロジェクトの見学に行ったりと、1年がかりで情報を収集。それと同時に地域の地主にあたるなどして養蜂の場所探しも始めましたが、なかなかいい場所が見つかりません。

最終手段として候補に挙がったのが「住んでいるマンションにあるごみ置場倉庫の屋上」でした。最大のネックは「マンション共有スペースであること」。マンションに直接には関係しないことを共有部分で行うことになるので、当然ながらマンションに住む人々に了承を得なければなりません。

児島さんたちが整えた、仙川駅前公園の花壇

住民合意を得るための5つの工夫

マンションは安心安全に暮らすための集合住宅です。そこで蜂を飼うなどということは誰も想定していません。虫が嫌いな人ならなおさらです。いくら「この街で採れたハチミツが食べられる」「地域交流になる」とはいえ、誰もが賛同する話ではありません。以前の児島さんのように、マンション内の人間関係だけで生活が完結しており、住んでいる街が「自分の街」という実感が薄い人も多くいます。ですからこういった人々の同意を得るには、非常な困難が予測されました。そこで、児島さんは以下の5つの工夫をします。

①普段から良い人間関係を築く
②住民が得られる「メリット」を提示する
③住民が抱きやすい不安を取り除く
④とりあえず期間を区切る
⑤みんなと共有できる夢や希望を口にする

①普段から良い人間関係を築く
「とにかく人間関係という下地が重要」と、児島さんは何度も口にします。何かお願いする時だけでなく、普段から良好な人間関係を築いておくことが重要です。

②住民が得られる「メリット」を提示する、③住民が抱きやすい不安を取り除く、④とりあえず期間を区切る
の方法として、児島さんは住民向けのチラシを作製し配布しました。
「採れたハチミツは住民にも配られる」というメリットを提示した上で、「蜂は危ないのでは」という不安に配慮し、他所ですでに行われていて安全という事実を伝えるため、渋谷みつばちプロジェクトの見学風景を掲載しました。また、新しいことを始める時に、長い期間かかるものだと人は不安を抱きます。そこで児島さんは「1年間の実験」とはじめは限定的に行う旨を明示しました。

⑤みんなと共有できる夢や希望を口にする
考えているだけ、胸に抱いているだけでは、人には伝わりません。普段から折に触れて口にしておくと意外なところでつながったり、浸透したりします。

これら工夫のかいがあり、2016年1月のマンション総会で養蜂は正式に承認され、まずは1年間を期限とした「仙川みつばちプロジェクト」を始めることになりました。

ごみ置場倉庫の屋上緑化場所に設置された巣箱。ナチュラルガーデンとして緑化されてはいたものの、それ以上の活用はされておらず、「ならば養蜂にいいかも」と候補に挙がりました。高さは約4メートル。はしごを使って登ります。

マンション内養蜂が深め、広げた多くのつながり

養蜂を始めて1ヶ月目には採蜜できるくらいにハチミツが溜まったので、マンションの住民や地域の人に声をかけ、お披露目のためのハチミツパーティーを開催しました。他にも特にマンションの住民には養蜂を身近に感じてもらえるように巣箱見学会を別途開いたり、ハチミツ絞り会を行ったりしました。今では、マンションに住む子どものほとんどが巣箱見学会を経験しているそうです。その後も、広く巣箱見学会を開催したり、配ったハチミツを使って街のカフェがスイーツを作ってくれたりと、マンションと地域の人の相互交流は続いています。

その結果、1年の実験ということで始まったマンション養蜂でしたが、2年目の今年もマンションの住民の承認を得られ、続けられることになりました。今年はマンション住民4人で毎週土曜日の朝にミツバチの世話をしています。そのおかげか去年の倍の量のハチミツが採れて、地元のお祭りに出店したり、食やアロマをテーマに地域で活動している人から合同イベントの誘いを受けたりしました。他にもカルチャーセンターで「仙川みつばちの学校」講座の講師役をマンション住民と務めるなど、児島さんはもちろん、マンションに住む人たちも街で活動する機会が増えました。「養蜂が人と人とをつないでくれたおかげで、私をはじめ多くのマンション住民が街への愛着を実感するようになり、マンション全体が街に開かれ、マンションコミュニティと街のコミュニティがつながりました」と児島さんは嬉しそうに成果を口にします。

仙川カルチャーセンターで開催した子ども向け「仙川みつばちの学校」の講座風景。

「おらほ仙川夏祭り」の様子。ハチミツを使ったドリンクやお菓子などを販売し、活動の周知を図る。


マンションの共有部分の使い方一つで住民同士のつながりが深くなり、さらには地域のコミュニティとつながっていった今回のケース。共有部分の持つ可能性の大きさが分かります。その可能性を生かすには、児島さんのように「みんなそれぞれの事情がある、やりたくない人もいる」と住民それぞれの気持ちをまずは尊重し、焦らず丁寧に自分の思いを伝えていくことが一番大切なのかもしれません。

児島さんの場合はコーポラティブハウスなので、入居時から交流会が多く、そもそも住む人たちの参加意識が高いのかもしれませんが、普通のマンションの場合でも、相手に寄り添い、地道で分かりやすい呼びかけを続けることで対応してくれる方の姿勢も変わるのではないでしょうか。

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グッドデザイン金賞受賞の座間・ホシノタニ団地に学ぶ、街とつながるコミュニティの作り方

マンションのコミュニティ事例!ものづくりでつながるマンションのシェアスペース~日の出ファクトリー~

文:Loco共感編集部 中内知香

2017/10/25

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