マンションのコミュニティづくりと街の再発見に役立つ、みんなで作る“おでかけマップ”とは?

マンションで暮らしていると、同じフロアや上下階の居住者と、どのくらいの距離感を保って接するのが良いのか、わからないということがあります。「お互いが負担にならずに、程よい人間関係でつながりたい」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そこで、「程よいコミュニティをつくりたい」というマンション新規居住者に向けて、“子連れおでかけマップ”を作るワークショップを実施することで、コミュニティづくりのサポートをしている、「非営利型株式会社Polaris(ポラリス)」の市川望美さんにお話を聞いてきました。いったいどのようにマップ作りがされ、マンションコミュニティづくりにどう役立つのかを探ってみました。

【取材対象者】市川望美さん

非営利型株式会社Polaris(ポラリス)取締役ファウンダー。9年間勤務したIT会社を結婚・出産で退職後、特定非営利活動法人せたがや子育てネットで地域の子育て支援に携わる。2011年、東京調布市仙川を拠点とした「Polaris」を設立し、子育て中の母親たちの多様な働き方を実現するため、数々の事業を展開している。

「リアルな声」を集めてできるマップにこそ価値がある

市川さんはこれまで、調布市仙川や世田谷区駒沢など、20カ所のエリアの“子連れおでかけマップ”に携わってきました。マップ作りが始まったきっかけは、活動していた特定非営利活動法人せたがや子育てネットに、世田谷ボランティア協会から「新しい子育て支援の形はないか?」という話を持ち掛けられたことに始まります。

新しい支援として考えたのは、子育て世代に様々な子育て支援関連のチラシを届ける「メッセンジャー」でした。けれどもそのうち、届けるだけでなく「子育てに役立つ情報を発信しよう!」という思いが強くなり、子育て中の人たちが作る“子連れでおでかけマップ”を作り始めることになったのです。

“子連れでおでかけマップ”は味わいのあるクラフト紙でできて、懐かしく優しい感触が、毎日忙しく動き回る人たちの心を「ホッ」とさせます。これなら、子育て支援拠点の場に出て来られない人にも、役立つ情報を手軽に渡せますね。

“子連れでおでかけマップ”は行政が発行するマップや商業的なマップとは違い、生活者・住民としての視点からつくっている点です。公平公正でもなく、事業者視点でもなく、リアルに体験したことを自分たちのことばで伝えることを大切にしています。

――パン屋さんの紹介では、店の一押しのパンだけでなく、自分がおいしいと思うパンを書きます。また、ベビーカーを引いても入りやすい店だったり、一人になりたいときにおすすめの店が載っていたり……。「これなら友達にすすめたい」「これなら役立つ」と自分が思える情報を発信しているのです。

今の時代、情報はネット検索で簡単に得られますが、「地域の中で循環している情報=居住者であるお母さんたちの間で話しているような話題にこそ共感できるし、実生活に生かせる情報となります」と、市川さんは言います。

マップの作成は大まかに4つの段階を経て、約2か月で仕上げます。まずは、顔合わせとともに街の魅力を表現できる大きなテーマを考えたり、“メンバーそれぞれが「いいなあ」という店やスポットの情報を理由とともに持ち寄り、スポットをピックアップします。その後、コラムのテーマや構成、レイアウトなどを決めると、グループに分かれて街を歩き、情報や街の動線を確認し完成。そして、街に配りに行きます。

作成メンバーの個性と知恵が結集してできたマップ中面には、地元に住む者だから得られる、とってきおの情報が丁寧に書かれていて、携わった人たちの“心遣い”が伝わってきます。

マップの作成には地域に住む母親だけでなく、地元の大学に通う学生や商店街の人が一緒になって作業をすることもあります。年代・生活スタイル・立場が違う者同士ですが、共同作業をすることで相手への理解が深まり見方が変わってくると言います。

作成メンバーの感想には、「自分の街を改めて見つめなおす機会ができた」「行動範囲が拡がり新たな発見があった」「リストアップ作業から、それぞれの好みや得意分野を聞くので、自然な形で知り合う機会になった」があり、完成したマップの他に、作る流れの中で“コミュニティの広がり”という成果物も得られるようです。

おでかけマップをマンション分譲に活かした取り組みはこちらです。
地域住人の「生きた街情報」を伝える取り組みがマンションの資産価値を上げる?

マンションの「おでかけマップ」ワークショップの進め方

では、ワークショップではどのようにマップ作りがされるのでしょう?湾岸エリアのタワーマンションで、新規入居者のコミュニティづくりのキッカケとして実施した「おでかけマップ」ワークショップの様子について紹介してもらいました。

ワークショップの時間は通常の2ヶ月4回の工程と違い、1回2時間と限られた短い時間でしたが、マップ作りの流れはほぼ同じ内容です。

【ワークショップの流れ】
1.グループ分け:6~8人のグループに分け、グループごとオーナー(=リーダー)を決めます。
2.自己紹介:自分の好きな店やスポットを、好きな理由とともに発表します。
3.マッピング作業:配布した白地図に、自己紹介で発表した店やスポットの情報をふせんに書き貼り付けます。マップのテーマとタイトル(「散歩」や「居酒屋」など…)を決定し、マップとして仕上げます。
4.グループごとの発表:マップのタイトルと、作業中にグループで盛り上がったポイントを発表し、完成したマップを持ち帰ってもらいます。

地域の店や情報を出し合うことで、白地図がどんどん埋まっていきます。

湾岸エリアのマンションでは共働きの世帯が多く、どんな人が住んでいるか知らないというケースが少なくありません。そのため、マップのワークを進めやすくするのに市川さんは、参加者に最初の自己紹介の段階で自分の好きな店やスポット、それを選んだ理由を話すよう促すようにしています。

最初に紹介する時間を入れて情報をシェアすることで、自然に参加者たちが話しやすくなるからです。このことが、今まで顔は見かけたことあるけど話をしたことがなかった人同士が、声を掛け合える良いきっかけとなります。

ワークショップ終了後には、「今度、この店に一緒に行きましょう」とか「保育園の送り迎えができないときには、言ってね」といった、新たなつながりが生まれました。

程よくゆるやかにつながるコミュニティづくりのための“良きツール”

市川さんのお話を聞いて、マップ作りはマンションコミュニティを考える上でも、役に立つ“良きツール”ではないかと感じました。

――コミュニティ活性化のために「みんなで仲良く、コミュニティをつくろう」と声をかけると、密接な人付き合いに抵抗を感じる人には押しつけがましく、負担に感じる人もいるかもしれません。しかし、マップ作りだと目的が「地域のことを知る」ことなので気軽な気持ちで参加できます。友達ではなく「知り合い」というゆるさの距離感の関係性ができるのもマンション居住者にはちょうどいいのかもしれません。

――同じマンションに暮らしていてもお互いが知り合って、気軽に話せる関係になるまでには時間がかかる場合があります。しかし、マップ作りでは情報を出す作業で、参加者のライフスタイルや価値観に自然と触れることになり、早いタイミングでお互いを知り理解ができるようになります。

マップ作りのコンセプトが、いろんな街やマンションのコミュニティに広がることを市川さんは願っています。

マンションの居住者が誰でも気軽に参加でき、程よくゆるやかなコミュニティを築くためにも、住んでいるマンション独自の「おでかけマップ」作りを取り入れてみるのもいいかもしれません。

マンションコミュニティや、地域住人発の街情報についてはこちらでもご紹介しています。
マンションのコミュニティ事例!ものづくりでつながるマンションのシェアスペース~日の出ファクトリー~
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文:小田るみ子(Loco共感編集部)

2017/08/16

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