マンション落語 ~マンション300年物語~

「ただいまー」
「おかえり翔太。おやつあるわよ」

「ママ、今日もエントランスで、あのおじいさんに会ったよ」
「あのおじいさんって、どのおじいさん?」
「もー、昨日も話したじゃん。丸顔で、頭がツルツルで、杖をついてて、顔は優しそうだけど、目はちょっと悲しそうで…」

「ああ、タイショウさんのことね」
「タイショウさんっていうの? どこかのお店の大将さん?」

「桜家大笑さんっていう落語家さんよ。このマンションができる前からここの土地に住んでて、マンションができてからはずっとここに住んでるのよ」
「へぇー、落語家さんなんだ。でも、なんで今までマンションで会わなくて、今月になって毎日会うようになったのかなー?」
「そう言えばそうよね…」

「ああ、大笑さんだろ。この間引退したんだよ」
「引退ってパパ、それ本当?」
「新聞で記事になっていたよ。落語家生活60年で、年をとってヒザを悪くして正座ができなくなったから、寄席には金輪際出ないそうだ」
「そうかー、だからずっと家にいるようになったんだ」
「きっと翔太がちょうど学校から帰ってくる時間、今までは毎日寄席に行ってたのね」

「俺はあんまり落語に詳しくないけど、寄席では相当人気があったらしい」
「落語かー。ボク『笑点』でしか見たことないなー」

「ねぇパパ、今度のマンションの理事会で相談してみたら?」
「相談ってママ、いきなり何の相談だよ」

「大笑さんよ。きっと大笑さん、落語がしたいのよ。それができないから寂しそうなのよ。理事会で、大笑さんの落語の会を企画できないか相談してみれば?」
「落語会かー。いいかもしれないな」
「別に同じマンションの住人同士なんだから、正座することも無いじゃない。椅子に座って、落語を喋ってもらえばいいのよ。どうかしら?」
「それいいね! 相談してみるよ!」
「わぁー、ボクも学校の友達呼んでいい?」

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2017/05/29

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