ホストの視点から見た「民泊」は、おもてなし文化のルーツかもしれない!?

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マンション・ラボが、マンションと民泊問題について追いかける取材シリーズ。今回は、民泊を提供するホストにお話を伺いました。

海外からの旅行客をおもてなしするホストに訊く!

マンションでの民泊は、管理組合との話し合いのもとで考えるべき問題ですが、実は私たちはまだ表面的にしか民泊についてわかっていないかもしれません。

これほどまでに民泊が世界的に増加している背景や、ホスト(部屋の提供者)やゲスト(部屋の客)の立場ではどんなことを考えているのかについても、学ぶべきではないでしょうか?

今回は、新大阪駅至近にある文化住宅2室を借りてリノベーションを行い、民泊スペースを提供しているグラフィックデザイナーの木村丹穗さんにお話を伺いました。木村さんは、2015年からAirbnbを使った民泊を始めました。そのきっかけは何だったのでしょう?

木村さんが提供している部屋

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グラフィックデザイナーの木村丹穗さんがホストとして提供するAirbnbの2つの部屋
“松鷹(HAWK ON PINE TREE)”
“梅鶯(NIGHTINGALE ON PLUM TREE)”

木村さん
「もともと旅が好き。一人で一週間ほど海外を旅することもあります。Airbnbを使って現地の人が提供する部屋に泊まり、人と触れあう旅をしてきました。アーティストの女性が、台湾の南端の太麻里(タイマリ)のビーチ近くのコテージをAinbnbに提供している場所には、彼女の人柄に惹かれて、世界からいろいろな人が集まってきます。とてもオープンな空間で、繰り返し彼女の家を訪れるリピーターがいるほど。私も、そんな場を日本で提供したいなと思いました」

木村さん自身も、賃貸の一軒家を自分で改造しながら住み心地のいい空間をつくっています。プライベートで大阪に遊びに来る友達を自宅に泊めることも多いそうです。海外のAirbnbをゲストとして楽しんでいた木村さんにとっては、自分がホストになるというのは、ごく自然な流れだったのでしょう。

職業柄もあってインテリアやデザインにはこだわりがある木村さん。民泊を始めるにあたって、どこかに部屋を借りて、思い通りのインテリアの部屋を提供したいと考えました。そこで不動産屋さんを介して、新大阪エリアで文化住宅を探し始めました。

関西でよく見かける文化住宅は、木造モルタル造りの2階建て集合住宅。高度経済成長期の1950年代くらいから数多く建設されました。鉄道各社が駅前開発に注力していた時代に建設ラッシュとなったため駅近くの物件が多く、鉄筋アパートに比べて家賃が安いことなどがメリットとなって、最近ではリノベーションで新築同様の内装にして貸し出す物件もよく見かけます。

木村さん
「古くてボロボロになっている文化住宅をリノベーションするというのは、最初から決めていました。海外の人も興味を抱くだろうし、古い文化住宅には空き家も多く、地域の活性化にも役立つと考えました」

人と触れ合い、話し合いながら物事を進めていくタイプの木村さん。大家さんとも直接話をして、民泊を行う了解を得た上で、昨年2015年6月から11月まで、時間をかけて知り合いの大工さんと一緒にリノベーションをスタート。大工さんと改装しながら、デザインの方向性やコンセプトを考えたそうです。そして出来上がったのが、今回ご紹介する2タイプの部屋でした。

新大阪駅から徒歩3分!“松鷹”と“梅鶯”の和モダンな2つの部屋

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木村さんがリノベーションした文化住宅の外観。こちらの文化住宅は、1階と2階、別々に部屋を借りるタイプのもの。2つの部屋の玄関(茶色の木製扉がAirbnbの部屋、その間にある白い扉は2階の部屋への入り口です)が並んでいます。室内は、外観からは想像できない、和モダンの美しいインテリアです。

昭和に数多く建設された文化住宅は、トイレと風呂を共用にしていた昔の長屋などの集合住宅から進化して、個々の部屋にトイレと風呂が付き、 “文化的”な生活になった集合住宅。いわばアパートやマンションの前身ともいえます。

文化住宅の部屋は同じ間取りで構成されており、どちらの部屋も、玄関とトイレ、4畳の和室、6畳の和室、そして一番奥に台所と浴室が続くタテ型の間取り。インテリアの違いでこんなにも雰囲気を変えることができるのだ!と気づかされます。

では、左のお部屋“松鷹(HAWK ON PINE TREE)”からのぞいてみましょう。

マスキュリンな“松鷹”の部屋
 “松鷹(HAWK ON PINE TREE)”のお部屋は、マスキュリンな雰囲気。どこか武士っぽさも感じます。

“松鷹(HAWK ON PINE TREE)”のお部屋は、マスキュリンな雰囲気。どこか武士っぽさも感じます。

 台所の窓に埋め込まれた松と鷹のモチーフ。裏に仕込まれた照明で影絵のような趣に。

台所の窓に埋め込まれた松と鷹のモチーフ。裏に仕込まれた照明で影絵のような趣に。

古い茶箪笥など、インテリアに用いたパーツは、ヤフオクで入手したものも多いそう。古い雰囲気を大切にしながら、パリスタマシン、ウォーターサーバー、電子レンジなどの電化製品も設置。

古い茶箪笥など、インテリアに用いたパーツは、ヤフオクで入手したものも多いそう。古い雰囲気を大切にしながら、パリスタマシン、ウォーターサーバー、電子レンジなどの電化製品も設置。

台所の板の間にあるアンティークの茶箪笥には、日本画家の画集や、寺院や石庭の写真集が並べられています。海外からのお客様への心配りですね。

台所の板の間にあるアンティークの茶箪笥には、日本画家の画集や、寺院や石庭の写真集が並べられています。海外からのお客様への心配りですね。

冬の終わりに部屋を訪れたときには、ファー付きのジャケットがかけてありました。「タイのような暑い国からの旅行者が、冬の日本に来ると寒さに驚くので、使ってもらえるように置いてあります」と木村さん。隅々まで行き届いた配慮がなされています。

梅と鶯がテーマのフェミニンな“梅鶯”の部屋
“梅鶯(NIGHTINGALE ON PLUM TREE)”は、女性的なムード漂うインテリア。アンティークの打ち掛けの着物がインテリアのひとつに。

“梅鶯(NIGHTINGALE ON PLUM TREE)”は、女性的なムード漂うインテリア。アンティークの打ち掛けの着物がインテリアのひとつに。

どちらの部屋も、二客の布団があり最大二人まで宿泊可能。冬にはコタツもあり。床の間や屏風、日本的な小物をバランスよくレイアウト。和室に布団は、外国人に人気だとか。

どちらの部屋も、二客の布団があり最大二人まで宿泊可能。冬にはコタツもあり。床の間や屏風、日本的な小物をバランスよくレイアウト。和室に布団は、外国人に人気だとか。

いたるところにお花が生けられた台所。お花のアレンジメントも、ゲストのチェックインのタイミングに合わせて、木村さんがしつらえるそうです。

いたるところにお花が生けられた台所。お花のアレンジメントも、ゲストのチェックインのタイミングに合わせて、木村さんがしつらえるそうです。

民泊は、おもてなし欲が強い人にはぴったり!旅行者と地域をつなぐ拠点に

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ラーメン屋、鰻屋、寿司など、近隣の飲食店を案内した英文ガイドシート。木村さんが食べて美味しいと感じたお店を、旅行者に紹介。英字メニューがないお店には、自分で英字メニューを作成して置いてもらいます。旅行者が近隣のお店に行って地域経済に貢献してもらうことも重要だと、木村さんは考えています。

Airbnbには、「スーパーホスト」と呼ばれるホスピタリティ抜群のホストを格付けする基準があります。「メールへの返信率90%以上」「泊まったゲストのレビューの8割以上が五つ星評価」などの合格水準をクリアしたホストは、スーパーホスト認定バッジが付けられます。

2015年11月からAibnbとして部屋を登録したばかりの木村さんですが、2016年4月にはスーパーホストに認定されました。Aibnbのコメント欄には、きめ細やかな木村さんのホスピタリティに感謝するお礼の言葉がずらり。さすがです。

木村さんいわく「私、おもてなし好きなのです(笑)。おもてなし好きの人には、民泊は合っていると思いますね」とのこと。

木村さんのホスピタリティは、ゲストだけに向けられたものではありません。民泊を行っている文化住宅の上下左右のお隣さんやご近所さんとも交流して、地域コミュニティに溶け込んでいます。

木村さん
「“民泊で儲けたろ”とか“自分だけ儲かったらええ”ではないのです。民泊って手間がかかるし、利益だけで考えたら、別のことをやった方がよほど面倒くさくないし、収益もいいはずです(笑)。でも、訪れる人のことを考えて、手間をかければかけるほど、自分が気持ちの上で得られるものも大きい。民泊って、結局のところ異文化交流と地域交流が楽しいものなのです。そこを間違えて近隣のことを配慮しないで、マンションでこっそり民泊をやるとかは絶対ダメですね」

木村さんは、海外でAirbnbを利用したときに、いやな思いをした体験があります。台湾でAirbnbの部屋を探していて道を尋ねたら、反対している近所の人から「あなたもそんなところを借りないでホテルに行った方がいい」と言われたそうです。

木村さん
「近所の人に反対されるのは、そのホストがちゃんと管理して、まわりの理解を得ていないから。そんな民泊はやりたくない!と思いました。一方、ゲストのことを親身に考えるホストが、地域の通貨と外貨の対応表を写真入りで作って用意してくれていて感激したこともあります。海外や日本で、ホスピタリティ溢れるホストと出逢うと勉強になりますね」

木村さんは、昨年のリノベーションの工事中に、文化住宅のご近所さんや近隣の飲食店ともすっかり仲良しになりました。近所の方が大型ゴミを出すといえばお手伝いをしたり、ゴミの集積所の掃除をしたり。そんなご近所づきあいが積み重なり仲良くなってきたせいか、最近ではトランクを持って道に迷っている外国人旅行者を見つけたら、同じ文化住宅の住民が、木村さんの部屋まで案内してくれることもあったとか。まさに理想的なご近所づきあいですね。

また、ゲストへのホスピタリティは言うに及ばず。一人で一週間部屋を借りたオーストラリア人の男の子が寂しくないようにと、自宅へ食事に招いておもてなし。その後、彼のお母さまからお礼のメールをいただいたこともあるとか。
部屋に置かれたメモやお菓子、ずらりと並んだアメニティグッズの種類の多さなどを見ていれば、彼女がどれほど親身になってゲストのことを考えているのかがよくわかります。

いつか地域おこしのために民泊を活用したい

 “松鷹”のお部屋の玄関には、松の盆栽。丁寧に設計されたインテリアのひとつひとつに心がこもっていますね。


“松鷹”のお部屋の玄関には、松の盆栽。丁寧に設計されたインテリアのひとつひとつに心がこもっていますね。

木村さんが新大阪で民泊を始めたのは、実績づくりのひとつ。これがうまく回っていけば、地域おこしのために民泊を活用していきたいと考えています。

木村さん
「大阪の関西空港の近くに泉佐野市という場所があります。大阪と和歌山の中間に位置し、古くは熊野詣での街道街としても賑わい、海運業で活況を呈した歴史もあって、立派な古い木造家屋が多く残っています。いま私が惚れ込んでいる街なのですが、やはり高齢化や人口減に伴って空き家も多い。関西空港はいま日本最大のLCC拠点で、夜中に離発着する便も増えています。海外からの観光客にとっては、関西空港に近い泉佐野市は便利がいいはずです。空き家を活用して、海外からの観光客を受け入れ、泉佐野市の町おこしを行えれば理想的です。さらにDV(家庭内暴力)で苦しんでいる人たちのシェルターとしても民泊を活用できないかと考えています。住んで働く場を、提供できればいいですね」

木村さんの民泊は、壮大な夢に向かっていくための一歩でした。今後、民泊をやってみたいという学生さんがいたら、新大阪の2部屋はその人たちに運用を任せていくことも視野に入れているとか。地域交流やまちづくりを勉強している学生にとっては、願ってもないチャンスとなることでしょう。

マンションにとっての民泊の可能性

部屋に用意されているWi−Fiやクーポンサービスのファイル、日本のお菓子。付帯したサービスは、日々改善しているそうです。そのせいか「ホストとのふれあいを求めて泊まりたい」と思うゲストが自然と集まってくるようになりました。

部屋に用意されているWi−Fiやクーポンサービスのファイル、日本のお菓子。付帯したサービスは、日々改善しているそうです。そのせいか「ホストとのふれあいを求めて泊まりたい」と思うゲストが自然と集まってくるようになりました。

マンション・ラボでは、マンションでの民泊問題について、これまでもさまざまな側面から追いかけてきました。しかし木村さんのお話を伺うまでは、どことなく「民泊=収益」という図式の枠内で捉えてきた気がします。

木村さんが「民泊は、人の交流なしにはありえない」というように、実は民泊は、人の交流を引き起こす可能性も秘めています。もちろん、管理規約の見直しや、住民の賛同が得られなければ、民泊は成立しません(※)。

しかし、文化住宅という集合住宅で始めた民泊が、ご近所の人との交流を呼び、ひいては地域のお店との交流にもつながっている今回のような事例を見ると、空室の目立つ高経年マンションを活性化するためのアイデアのひとつとして、民泊に取り組み出すマンションが生まれてくる可能性もあるかもしれないのではないか?と考えさせられました。

以前取材したことのある、現代美術家の北澤潤さんと取手アートプロジェクト(TAP)によるプロジェクト「サンセルフホテル」は、茨城にある井野団地の空き室の一室に一晩だけ現れる不定期出現型ホテルでした。住民やボランティアがホテルマンとなって、一晩だけのお客様をもてなすこのプロジェクトも、もてなす住民と、もてなされるゲストとの交流がベースとなっていました。

世界でいちばんあたたかなホテル、サンセルフホテルのおもてなし力

サンセルフホテルのような事例は特殊かもしれませんが、マンション全体で同意があれば、地域交流のためにゲストルームを貸し出す、または海外からの留学生を個人宅でお世話するホームステイなどの異文化交流を行うという方法もあり得るかもしれません。どちらにしても、個人の収益だけを考えるのではなく、地域交流や異文化交流としての民泊には潜在的な可能性があるような気がします。

最近ネガティブな側面ばかりが取り沙汰される民泊ですが、人と人との関わり合いを生み出すようにうまく活用されていけば、もっとポジティブな活路が見いだされてくるのかもしれませんね。木村さんの民泊は、民泊を通して人と交流する素晴らしさを教えてくれる事例でした。

今後も、マンションと民泊のテーマについて注視していきたいと思います。

※ マンションでの民泊について
民泊許可(特定認定申請)のためには、国家戦略特別区域法第13条2項および厚生労働省関係国家戦略特別区域法施行規則第11条~第18条の2つの法律にまたがって定められており、さらに各自治体の民泊条例・規則に応じて、申請書に必要な記載事項が追加される場合があります。国交省は、2015年12月22日の記者会見において、戦略特区内にある区分所有マンションで民泊を実施する場合は、マンション規約の改正が必要との見解を示しています。区分所有マンションにおける民泊問題は、政府と自治体により今後どのようなルールづくりがなされるのか、その動向を見守る必要があります。

<これまでの民泊に関する記事>

これまでマンション・ラボで取り上げてきた民泊に関する記事は以下です。ぜひあわせてご覧ください。

マンションのAirbnb利用、民泊問題を防犯面から考える(国崎信江氏)
民泊を禁止するなら住民ぐるみで協力して対応するというアドバイス。

民泊はマンションにとって吉とでるか?凶とでるか? 住民が行うべき対策とは
管理規約を改正して民泊を禁止した高層マンションの事例や、有識者へのインタビューを紹介。

話題のAirbnbを利用して、民泊してみた!
実際にゲストとしてAirbnbを利用した体験レポートです。

2016/06/23

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