地震を侮るな!地震ザブトンで多種多様な揺れへの対策を考える

もしマンションの高層階でマグニチュード7クラスの直下型大地震に遭ったらいったいどうなるのでしょう? 東日本大震災のような、長周期で揺れる海溝型地震の場合は? こうした揺れの違いや恐ろしさを知って、次の防災行動を考えるにはシミュレーションで体験することが効果的です。

多種多様な地震の揺れを再現してくれる地震動シミュレーター「地震ザブトン」を開発している白山工業株式会社で、「揺れ」の種類と、被害についてお話を伺いました。

白山工業株式会社

地震防災システム事業として、地震波形を記録するデータロガーの開発・販売や、これらの技術を応用した高層ビルの被災度判定システムなどの提供の他、産業機器事業などを手がける企業。地震動シミュレーター「地震ザブトン」は、全国の防災施設や防災イベントで活用されています。
http://www.hakusan.co.jp

家具固定をしていないマンション居住者は約半数!

今年1月にマンション居住者2,761人にアンケートした際、家具固定をしていない人は51.1%(※)。約半数の人が、まだ家具固定をしていないことが判明しました。
※マンション・ラボ「マンション住民の地震対策、 積極的な取り組みが急務!」のアンケート結果より(2014/1/17 – 2014/1/22実施)

2014年3月末には、政府が南海トラフ巨大地震対策の基本計画を発表。最悪30万人以上と想定した死者数を今後10年間で8割減らすことを目標に掲げ、さまざまな防災対策の実施を決定しました。その計画のうち、全国の家庭での家具固定率を、今後10年間で65%に引き上げることも掲げられています。

内閣府「南海トラフ地震防災対策推進基本計画の概要」

大地震が発生した際も自宅で被災生活を過ごす可能性が高いマンションですが、そのためには、自室の被害を最小限に食い止めるために家具固定をしておくことは最低限必要です。

自宅の家具固定を実施していない人は、「揺れ」と「被害」に対する認識が甘さかったり、災害のイメージができていなかったりするのかもしれません。

白山工業の地震動シミュレーター「地震ザブトン」は、そんな人たちに地震の怖さを体感してもらうためのものです。白山工業株式会社の草野直幹さんと黒田真吾さんに「地震ザブトン」を操作していただき、マンション・ラボ編集部スタッフがさまざまな地震を体感実験してみました。

「地震ザブトン」とは?

「地震ザブトン」は、座るだけでさまざまな地震の揺れを体験できる地震動シミュレーターです。持ち運びができるので、マンションのロビーやオフィスの会議室など、多様な場所で体験することができます。今回は白山工業のオフィスで体験させていただきました。

マンション・ラボ編集部スタッフが体験してみます。写真の濃いグレーのカーペット(3m×3m)いっぱいに「地震ザブトン」がガンガン動き回るのです。

14パターンのメニューがあり、過去に起きた地震で観測されたデータや、想定に基づいて計算されたデータから選ぶことができます。体験してみると、地震の種類や観測された場所によって、揺れ方がまったく違うのがよくわかります。

直下型地震の体験〜阪神・淡路大震災

たとえば、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)時に神戸市須磨区で観測された震度7を体験してみると、いきなりガーンという衝撃から左右に大きく引っ張られる直下型の揺れが40秒ほど続きます。40秒がこんなにも長く感じるのだということにも気付かされますが、横揺れに耐えるために「地震ザブトン」の手すりをぎゅっと握りしめているのが精一杯。体験者は安全ベルトで固定されているから飛ばされる心配はありませんが、これがもし本当の地震で、自宅の椅子だったら、きっとはじき飛ばされてしまったにちがいありません。

海溝型地震の体験〜東日本大震災

次に、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)時に仙台市で観測された震度6強を体験してみると、阪神・淡路大震災とはまったくちがうタイプの揺れだということがよくわかります。最初30秒ほど小刻みに強い揺れが続き、その後30秒間ガタガタと小さく揺れながらなかなか収まりません。そしてさらに最初の揺れよりも大きな衝撃が襲い、また30秒間かなり大きく揺れます。合わせるとその長さは90秒ほどもあり、またさらに大きな揺れがやってくるのではという、見えない怖さが湧き上がってきます。

また、同じ宮城県内であっても、仙台市と大崎市の揺れ方が全く違うということには本当に驚きますし、東京都新宿区の1階と高層階で比較しても揺れ方はかなり異なります。高層階の揺れは、長時間、まるで船が波に揺さぶられているかのような大きな振幅で、地震自体が収まっても、高層階はそのまま揺れ続けるのだということがよくわかります。

実際の雰囲気を少しでもわかっていただくために、動画をご覧ください。正面のモニターには、マンション室内の被害状況が映し出され、「地震ザブトン」の揺れと同期しています。

さまざまなタイプの揺れを体験して感じたことは、本当の地震のときには、どんなタイプの地震なのか考えている余裕などないだろうということ 。次にまたどんな大きさの揺れがやってくるかわからない怖さ。揺れが収まる瞬間があったとしたら、とにかく安全な場所へ移動しないといけないというのは痛感しましたが、いったい自分が正しく避難できるのかどうかという不安を抱きました。

「そういう漠然とした不安な気持ちで終わって欲しくありません。いかなる場合でも自ら具体的な避難行動をとれるようになってもらうため、異なるパターンの揺れを何度でも疑似体験してもらいたい。体験して敵(揺れ)をよく知っておくことで、きっと、いざというときの行動が変わると思っています。たとえば、『揺れが1分以上長く続けば海溝型の地震だから、津波が来るかもしれない。じゃあ、揺れが収まったらすぐに逃げなきゃいけないな』とか、想像して考えることができますよね。」と、黒田さんは言います。

同じ地震でも被災する場所の地盤・建物・階数によって被害は異なる

白山工業の黒田真吾さん。「地震ザブトン」と共に国内外の防災イベントへ出張することが多いそうです。

「地震の揺れにはこんなにもいろいろな個性があるということ、そして家自体や家具を倒壊させてしまうのは大きな横揺れが原因であることを地震ザブトンで実感してもらいたいですね。そして、我々は脅かすだけでなく、どうしたらその揺れから一人ひとりが身を守れるのか、皆さんと一緒に考え、行動に移してもらえるように丁寧に交流したいと心がけています。」と、黒田さん。

白山工業の草野直幹さん。国内のみならず、海外へ招かれて防災教育の重要性を説くこともあるそうです。

「東日本大震災の揺れを調査している際、ある商業施設の防犯カメラで被災当時の映像を見ることがあったのですが…。小さな揺れの時、人は天井を見上げたりしますが、なかなかすぐには逃げないんですね。そして、大きな揺れが来た時には、足がすくんだり、隠れる場所がなくなったりして、動けない様子がよくわかりました。いくら日頃から防災と言われていても、本当に身についていないと逃げることもできないんですね。」と草野さん。

草野さんは「とにかく恥ずかしがらずに、最初の小さな揺れでも勇気をもって行動することが大切です」と説く一方で、これをどう伝えていくのかが難しい課題なのだと言います。実際には、揺れに加えて、モノが割れたり倒れたりする大きな音が恐怖心をさらに大きくするのかもしれません。そのため、「地震ザブトン」では視聴覚の体験もできるように工夫を凝らしているそうです。

「少しずつでも室内の家具固定を行うこと、いざ揺れたら懸命に身を守る行動をとること、面倒臭がらずに恥ずかしがらずに基本的なことをできる範囲でしっかりやることが大切です。
地震防災力とは、想像力ですからね。地震が起こったらどんなことになり得るのか、自分で日頃から想像して対処し、行動すること。これに尽きると思います。」

「地震ザブトン」開発の経緯

「地震ザブトン」は、小型車1台で移動することができるため、防災の現場で大活躍します。かつて、マンション・ラボの記事でもさまざまなシーンで活用されている「地震ザブトン」の様子を紹介しました。

中央区の高層マンションの防災訓練の際に、1階ロビーで実施された「地震ザブトン」の体験風景。

新潟県の「おぢや震災ミュージアム」でも体験できます。

もともと「地震ザブトン」は、東京工業大学の広瀬茂男教授(現・名誉教授)が発明した、畳を傷付けないようにあらゆる方向へスムーズに移動できる座布団型の全方向移動機構「The VUTON」をベースにしています。
座布団型のロボットがどのようにして地震動シミュレーターに発展したのでしょうか。

2008年、地震観測機器メーカーである白山工業は、東京工業大学の広瀬教授と地震計の記録を「The VUTON」に入力して地震の揺れを再現する共同研究を始めました。そして、1年かけて試作機が出来上がり、2009年には同大学の翠川三郎教授と共同で室内被害映像を制作し、「The VUTON」の揺れと同期させることに成功。これで、視聴覚体験を伴った地震の揺れを体験できるシステムが完成しました。

その後、2011年1月に製品化に踏み切り、現在では全国4ヶ所に導入されています。また、白山工業自らも1台保有し、各機関の要請に応じて出張して防災教室を展開しています。2013年には、「地震ザブトンの開発と減災啓蒙活動」と題した黒田さんの発表で、地域安全学会技術賞を受賞しました。

さらに活動の場は海外にも広がり、最近ではモンゴル国ウランバートル市の市民にも地震の揺れを体験してもらったそうです。 とくに海外では、地震そのものを体験したことがない人も多く、日本の人々よりも真剣に、より素直に強烈なインパクトを感じてくれる人が多かったとのことでした。揺れ体験をきっかけに防災への関心を高めてもらえればと草野さんたちは言います。

モンゴル国ウランバートル市で行われた地震ザブトン体験 の様子 ※JICA ウランバートル市地震防災能力向上プロジェクト 「UB市における地震災害軽減啓発キャンペーン」の一環

「現代社会の中で、いかに一人ひとりの防災に対する関心を高められるか、課題は多いですが、地震ザブトンでそのきっかけをつくる役割を担いたいという想いを持って活動を続けています。
これからは、地震観測や研究の分野で記録・想定計算されているたくさんの地震データを収集してメニューを多様化し、一人ひとりが我が事だと身近に感じて『自分の家やオフィスはどんな揺れになるのか体験してみたい』と思ってもらえるようにしていきたいです。」

さらに続けて、「少し内向きな話ですが、地震ザブトンの活動はわが社が観測機器メーカーとして長年真剣に向き合ってきた“地震観測記録”を、社会防災の分野でどのように活用して社会に貢献するかという使命も背負っていると勝手に 感じて取り組んでいます。社会との触れ合いから防災の新しいソリューションを生み出していけるといいですね。」と黒田さん。

現在、全国に何千点と整備されている地震観測網の他に、防災科学技術研究所のJ-SHISのように、「どこでどのように揺れるのか」についてかなり詳細に想定し公開されているデータが存在します。これらを地震ザブトンに用いれば、近い将来、家族の自宅やオフィス、学校など、身近な場所の揺れを簡単にシミュレーションできるようになる日は近いかもしれません。

J-SHIS 地震ハザードステーション
地震動予測地図に加え、震源に関するデータ、表層地盤増幅率といった地図作成に必要なデータが表示される。

もし本当に、自分が住んでいるマンションフロアの揺れのシミュレーションが簡単にできるようになったら、もっと身近で確実な防災力が身についていくかもしれませんね。今後の「地震ザブトン」の進化に期待しましょう。

2014/08/28

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