マンションでできる最大の高齢者&防災対策は、人間関係!

居住者の高齢化、一人暮らし高齢者の増加など、マンションが抱える高齢者問題が社会的にも注目されています。では、マンション全体で積極的に取り組んで、高齢者のためにできることはないものでしょうか。実際にそうした取り組みを行っている京都のマンションにお話を伺いました。

京都にある築38年の西京極大門ハイツは、先進的な取り組みを積極的に行っている自主管理マンションです。これまでも、マンション・ラボの記事でそのさまざまな取り組みをご紹介してきました。

「経営学編」
「省エネ編」
「コミュニティ編」
「高齢者対策編」

今回は、引き続き高齢者対策と防災対策についての取り組みと考え方を、佐藤理事にお伺いしました。高齢者対策も防災対策も、最大の対策は人間関係に尽きるという西京極大門ハイツの実践的取り組み事例です。

ハード面:認知症になっても住み続けられるように!安全な設備対策

居住者の高齢化や独居高齢者が多くなってきたという西京極大門ハイツでは、ハードとソフトの両面から高齢者対策を実施しています。

たとえば、マンションのバリアフリー化はもちろん、認知症になったとしても住み続けられるよう、全戸にIHクッキングヒーターを設備できるための住戸電力幹線の容量をアップ。防犯面では、Wディンプルキーの整備や録画機能付きインターホンへの改修工事なども実施。さらに以前の記事でも紹介したように、近隣に開かれた日曜喫茶を開催する集会室など、コミュニティ活動の基盤となるスペースを整備しているのも特長です。

マンション全体で、高齢者のために建物の構造や設備改修を施すことは、結局はどの年代にも住みやすい環境づくりにつながっています。

ソフト面:顔見知りをつくる!季節のお祭りや日曜喫茶

ソフト面では、コミュニティ委員会を設置し、マンション内でさまざまなイベントを企画・開催しています。桜祭り、夏祭り、大門まつり、オータムフェスタなどなど、季節毎の集いでは、居住者だけでなくお子さん家族や親戚もお招きして老若男女が入り混じって楽しめる工夫がなされています。

また、日曜喫茶や木曜サロンなど、高齢者が集える交流クラブの場を積極的に支援。いきいきとした高齢者が多いのも、西京極大門ハイツの特長です。

「結局は、建物の改修によるハード面、人と人の関係が築けて信頼ややすらぎを得られるコミュニティづくりを支援するソフト面、そして個々人の健康や福祉・医療・介護といった公的サービスが相互にむすびついて機能する仕組みづくりが重要なのです。どれかひとつだけではなく、これらが有機的につながり、補完しあえる場が、実はマンションだからこそ実現できるのかもしれません」と佐藤理事。

緊急時にすぐ対応できるための緊急連絡先や「緊急医療キット」

管理組合では、全戸の居住者全員の氏名はもとより、生年月日を把握しており、一人暮らし高齢者、高齢者夫婦世帯など、リスクの高い方々を全数把握しています。

また、急病などで救急隊を呼んだ場合、ご本人の病歴や通院先等の情報を救急隊員が把握できるように「緊急医療キット」の設置を管理組合で呼びかけています。

こうしてすべての住戸の居住者の緊急連絡先(緊急連絡先は本人の携帯番号や勤務先電話番号ではなく、マンション外の親族等)を把握して緊急時に即応できる状態にしていることで、急病時はもとより、災害時にもこうした情報がすぐ役立つようになっています。

賞味期限のあるものは無駄に備蓄しない!「実践派防災」を目指す

「最近みんな画一的な防災対策に向かいがちなのが気になりますが、うちのマンションの防災は徹底して実践派防災ですよ」という佐藤理事は、マンションでの防災食品の備蓄にも疑問を投げかけます。

「災害用缶詰パンなどは、賞味期限が3〜5年ほど。なぜ賞味期限のあるものばかりを、右へ倣えとばかりに、どこのマンションでも備蓄しないといけないのでしょうか。結局、期限内に買い換えすることになって無駄になります。役所で避難所を設営する必要がある場合には、そんな備蓄食品も必要でしょうが、マンションの場合には各戸にある食材を持ち寄って炊き出しすることだって可能です。無駄な防災備蓄品にお金を使うより、たとえばプロパンガスを毎年4回のイベントで定期的に使うなど、いざという時に役立つものを備える方がより現実的ですよ」。

施錠ボックスに入れた自家発電機。イベントで毎年使用しているため、居住者全員が置き場所・使い方を知っているのも重要。

実際、自家発電装置や高齢者のための階段昇降機を購入したマンションもあるそうですが、それぞれのマンションに必要で実用的なものを判断することが大切だと佐藤さんは言います。お祭りなどのイベントで頻繁に自家発電機、プロパンガスや鉄板などを使うことで、防災用品が整備されていると同時に、その使い方も学んでいくことができ、一挙両得。なにより楽しく参加できるイベントが防災訓練にもつながっているようです。

災害後をしのぐ「備蓄」よりも、命を守る「家具固定の徹底」を!

備蓄は、災害後の救援物資が届くまでをしのぐものです。それよりも災害発生時に自分の命を守ることの方が大切です。マンションで災害に遭った際に、事故や死亡の可能性が高いのは家具の倒壊だと、佐藤さんは言います。そのため、西京極大門ハイツでは、室内のタンスや戸棚などの家具固定の徹底を、居住者にすすめています。
マンション全体で防災に取り組む際に、つい備蓄を先に考えがちですが、まず危険度から考えていく防災意識が必要なのだと気付かされます。

防災の基本は、飲料水・トイレ・炊きだしの3点

西京極大門ハイツで、特に力を入れている防災対策は、災害時の飲料水の確保、トイレ、炊き出しの3点。災害発生時には3日間しのげればいいという考えのもと、マンション全体では以下の備蓄を行っています。

災害時に使用できるように、蛇口を取り付けてある受水槽。

・飲料水:ペットボトルなどの備蓄はしない。その代わり、受水槽の貯水を使用できるように設備。(一人当たり1.8リットルのペットボトル90本分を常備している計算になる)
・トイレ:埋設受水槽に、トイレ用に転用可能な用水90トンを確保。
・ 炊きだし:イベント用品を防災に転用できるように常備。防災の観点から意図的にプロパンガスを使用。イベントを通じて炊き出しの訓練につながるようにしている。

プロパンガスを使って大鍋で料理を行っている餅つきイベントの様子

いざとなったら、居住者の誰もが動ける状態を身につけていく

「まさに、災害は忘れた頃にやってきます。管理組合の一部の役員さんだけが情報を知っている、役員がいなければ機能しないといった状態では、災害時に実際に機能しません。こういった思いから、誰もが知っている、誰もがそれぞれの状態に応じて動ける状態を、普段から楽しみながら身に着けていく取り組みが、地域での防災活動には必要だと思っています」と佐藤さん。先にあげた季節のイベントは、こういう面で役立っているのですね。

独自編集の防災パンフレットの作成と配布

また、毎年10月にはイベントを兼ねた防災訓練を実施していますが、今年からは独自に編集した防災パンフレットの配布を予定しているそうです。

「居住者編」と「災害対策本部編」があり、「居住者編」は全戸に配布します。A4・16ページ・オールカラーで、わかりやすくイラストや写真が多用されています。表紙は京都の活断層とマンションの位置を示したもの。被害想定などについても詳しく説明されています。

「居住者編」には、備蓄チェックリスト参考例などの自助のための備えのほか、管理組合で備えている防災設備についても写真入りでしっかり情報共有が行われています。また住戸から避難する際には、玄関扉上の室名札を抜いて避難するようにと指示されており、災害対策本部では室名札の有無によって住民の避難の有無が判断できるようになっています。

さらにこうした取り組みをしても、高齢者ばかりのマンションではどうしても限界があります。西京極大門ハイツでは、以前の記事でご紹介したように、子育てサポートへの取り組みなどが功を奏して、若い子育て世代も次第に増えてきました。若い人達にも住んでもらえるマンションづくりという視点も、高齢者対策や防災面では欠かせないポイントです。

子育て世帯を大切に!マンション全体が子育てを応援する

マンションでできる最大のシニア&防災対策は、人間関係!

「しかし、最大の防災対策で高齢者対策なのは、人間関係です。災害時に助け合いができる、お互いの状況に気付けて声を掛けることができる、そういう居住者同士の人間関係をふだんから築き上げていくことが、いざというときに役立つんです。それが生活基盤を共にするマンションならではの防災や高齢者対策への取り組みなんです」。

西京極大門ハイツでは、高齢者がどんな状態なのか、ふだん顔を合わせたり喋ったり、外見から得られる情報などを頼りに、管理組合としてほぼ100%掌握できているとのことです。日々の暮らしの中に、互いの顔が見える近所づきあいがあるから、自然とみんなで助け合えるマンションコミュニティが実現しているのですね。


マンションコミュニティの高齢者対策も防災対策も、結局は人間関係が最大の対策という言葉には大きく頷けました。そして、人間関係はいきなりつくったりできあがったりするものではなく、少しずつ着実に積み重ねていくもの。今日からでも遅くありません。これから時間をかけて関係を育んでいくためにも、まずご近所同士の挨拶からはじめてみませんか?

西京極大門ハイツ

京都駅からバスで10分ほどの住宅地にある西京極大門ハイツは、管理組合法人で自主管理を行う190戸のマンション。第一次オイルショックの1976年に建設され、完全自主管理に移行したのが1992年。

以来、経営という視点で管理組合運営を行い、あらゆる面でよりよい暮らしの仕組みづくりに大胆に取り組んでいます。2011年には第9回 京都環境賞 特別賞(市民活動賞)を受賞。

2014/08/27

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